3 異世界転生研究所
「やっぱり異世界を研究してるところなんてないねー」
大学入学後、三人は文芸サークル、超常現象研究会などのサークルを回ってみたものの、彼らの趣向に合うサークルは見つからなかった。
「おとなしく超常現象研究会に入るー?」
「いや、あそこはなんか違うんだよな。超常現象を待っているというか。俺たちは自分から迎えに行きたいんだよ」
翔悟の並々ならぬこだわりにより、一週間ほどサークル選びに迷っていた。
「じゃあ、もういっそさ、創っちまえばいいんじゃねーの? よく知らねーけど、創るのは勝手だろ。部屋だけどっか借りればいいんじゃね?」
高広の提案に、翔悟は少し考えた後、同意した。
「そうだな、そうしよう。最初からそうすればよかったな」
「わーい! 私たちのサークル!」
「なんかテンション上がってきたな!」
「まだ早えーよ。創れるかどうかもわかんないし。とにかくいろいろ調べてみるよ」
「おう、サンキュー」
「よろしくね、翔ちゃん」
こうして彼らの大学生活は始まった。
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サークルを立ち上げることは容易だった。大学側に申請して使っていない部屋を借りることもできた。
4月24日。その部屋に三人は集まっていた。
「ただ、大変なのは資金だな。大学側から正式な認定がないと資金は降りないらしい」
翔悟は調べた知識を伝えた。
「要するに活動実績が出せればその時には正式に認定されるってことだ。それまではバイトしながらになるが、それでもいいか?」
「おう、いいぜ」「もちろんだよ!」
「じゃあ、今日からサークル始動だな」
三人で円陣を組んだ。互いに顔を見合わせ、今後の活動への期待を言葉なしに伝えた。
「じゃあ、異世界研究を始めるぞ!」
「「おー!」」
謎の掛け声でとともに足を一歩出して円陣は終了した。
「って言っても何から始めるんだ?」
「そうだな、せっかくの環境だし、当分は科学的な方向から攻めてみようと思う。あ、あと研究日誌みたいなのも書きたいな」
「おぉ、なんかそれっぽいな!」
「まずはとりあえず部屋片づけよーよー」
愛菜は机の上のほこりを指さしながら言った。
この部屋は長年使われていなかったらしく、ほこりが散っていた。階段近くのロッカーから掃除用具を借り、三人は掃除を始めた。
「うわー、本棚きったねー!」
「その本棚使えそうだな。今度本持ってくるか」
「翔ちゃん部屋を私物化しちゃだめだよー」
「違う違う、研究資料だよ」
「どーだか」
三人で話しながらの作業はあっという間に感じた。
一通りの掃除が終わり、ぞうきんを片付けながら愛菜は二人に聞いた。
「そーいえばさー、サークルの名前どーするー?」
「名前? 異世界研究サークルでいいんじゃね?」
高広は即答した。
「なんかださくなーい?」
「え、地味にひどいな」
二人のやり取りを聞きながら、翔悟は考え込んだ。
三人が探し求める異世界、それは待っていても来ない。向こうから呼び出されるのを待っているわけにはいかない。一目で活動がわかる名前に、俺たちらしい名前に。
「……異世界転生研究所でどうだ?」
翔悟はボソッとつぶやいた。
「おー、ちょっとそれっぽくなったな! いいんじゃないか、それで! 研究所ってしたらちょっとかっこいいし、超常現象研究会とも被らないしな!」
賛同する池内に、愛菜はうーん、と首をひねった。
「んー、転生って言うと死んじゃうことになるじゃん? 私たちは異世界転生だけじゃなくって異世界転移だって研究するんだから、異世界研究所でいいんじゃない?」
「あー、確かにそうだな」
愛菜の意見に翔悟も高広も納得した。
「よーし、じゃあ今日から俺らは異世界研究所のメンバーだ!」
高広は高らかに宣言した。それに二人もこぶしを突き上げて応えた。
片づけは終了し、三人は帰ることにした。
「あー、そういえば研究日誌とか言うのはどーするー?」
「あぁ、三人で順番に書こうか。別に交換日記みたいにしてもいいけど」
「携帯のある時代に交換日記ってなんか新鮮だな」
「おもしろそー! じゃあ今日は私が書くー! 大学ノートとかでいい?」
「ああ、まかせるよ」
愛菜は何を書こうか考えながら歩いた。
三人で並んで歩きながら、高広は翔悟に尋ねた。
「他になんか俺たちにできることあるか?」
「あー、じゃあ池内は研究所のホームページを作ってくれないか? お前パソコン強いだろ?」
「おぅ、まかせとけ! あとでレイアウト送るわ!」
「おう、俺もツイッターアカウントでも作ろうかな」
「もしかしたら私たちの同士がいるかもしれないね!」
「だといいな」
三人はいつもの交差点にさしかかる。愛菜の住む女子寮と、高広と翔悟の住む男子寮へ行く分かれ道だった。ここで三人は分かれて別々の帰路につく。
「じゃあねー、翔ちゃん、池ちゃん!」
「おう、また明日な!」「じゃあなー」
愛菜は横断歩道を渡って大通り沿いを歩いて行った。
高広と翔悟は右折して並木道を歩いて行った。
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それから日々徐々に異世界の研究は進んでいった。
三人はバイトをしながらも、小説を読んだり、ちょっと難しい科学書を読んだりして今までにないほど異世界の可能性を探し続けた。
時には呪文を開発したりもした。時には片っ端から小説を読んで統計を取ったりもした。すべてのことに本気で挑んだ。何かが異世界につながると信じて。




