Another7 女神の世界2
「めがみんって俺が異世界に行ってる間何やってんの?」
「そりゃあ、他の転生者さんの対応したりとか監視したりとかですねー、寝てるわけじゃないですよ?」
そうだったのか。俺が死んだ時にはいつでも現れてくれるから、てっきり俺専属の女神なのかと思ってた。
「てっきり俺専属かと思ってた、とか思ってました? 残念! 嫉妬しないでね!」
心を読まれた。
「誰が嫉妬なんてするかよ」
「えー、しょ…じゃない、海川さんだけなんですよ! こんなに扱いがひどいのは!」
口を尖らせて文句を言う女神。なんというか、威厳が感じられない。
「他のみんなは、お淑やかな女神様ー、って崇めてくれるんですけど!」
「口調とか態度とかがお淑やかじゃないな」
「それはここだけですー。外ではちゃんとやってるんですよ?」
家ではだらしないけど、外に出たらめっちゃ愛想が良くなる母親か。
「ちょっとやってみろよ」
「いいですよー。いきますよー、ゴホンッ」
めがみんは咳払いして、うつむいた。表情を作っているのだろう。
そして再び顔を上げた。本人なりの全力のお淑やかさなのだろう。その表情はほほえみというより、にやけ顔に近い。
「お、おかえりなさーい。翔……翔悟ちゃん! ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
そう言いながらプルプル震えている。
そもそもなぜお淑やかさ=そのセリフなのか。それに翔悟ちゃんって初めて呼ばれたわ。翔ちゃんならあるけど。
……あれ、誰に呼ばれてたんだっけ。10億回の転生の中で会った誰かか?
しばらく微妙な間が流れた後、めがみんが噴き出した。
「ブフッ、やっぱ無理ですー! 限界ですー! 私、海川さんとはこっちの方が喋りやすいー!」
「だろうな」
エヘヘ、と笑うめがみん。その笑顔に、俺もフッと笑ってしまう。こいつにはこの笑い方のほうが似合ってる。女神っぽいめがみんには不自然さしかない。
俺はいつも通りのお前のほうがいい。そう言葉にだそうとしたが、調子に乗りそうなのでやめた。
「やっぱ慣れですかね〜、海川さんとは話しやすいんですよ」
「10億回もやってればな」
「海川さんはその中でどの世界が一番面白かったですか?」
「あー、一番ね……」
そう言われると悩む。どの世界も良かったし、どの世界も最悪だった。どれも期待以下でどれも予想以上だった。
決して不便がないことだけが面白いわけではなかった。決して女の子にモテることだけが面白いわけではなかった。決して孤独がつまらないわけじゃなかった。決して困難がつまらないわけじゃなかった。
ただ、どれも極端すぎたのだ。
強さと弱さ、かっこよさとかっこ悪さ、嬉しさと悲しさ、便利と不便、吉と凶、正義と悪、嘘と真実、理想と現実。結局のところ、それらがちょうどうまい具合にバランスよく配置されたものが良かったのかもしれない。そんな微妙な世界が存在するのだとしたらーー。
面白いってなんだろう。そんな根本的な問いまで遡ってしまう。
「なあ、面白いってなんだと思う?」
「おおぅ、質問返しですかー。しかも哲学ですか」
「お前の思う面白さでいいよ、どんな時面白いって感じるかなーと思って」
んー、と腕組みをするめがみん。
「たぶん、人それぞれだなんだと思いますけど……私の場合は新しいものを見る時ですかね。知らないものが知っているものになった時、ああ、楽しいなーって思っちゃいます」
それが人間本来の面白さなのだろう。知的好奇心というやつだ。
「あとは、勝てないと思ってた相手を苦労して倒した時とかもいいですよね〜、その相手というのが他人にしろ自分にしろ、『努力の勝利!』みたいな!」
めがみんはそう言って拳を突き上げる。
こいつ、いつもはヘラヘラしているのにこういうときは意外とちゃんと考えてくれる。まあ、いつも面白ろさそうにしてるもんな。
「そういう海川さんはどうなんですかー?」
「そーだな、俺は……」
俺が面白いと思っていたのは、いつだっただろう。どこの世界でだっただろう。
いや、その瞬間は10億回味わってきたのかもしれない。なんならその前から感じていたのかもしれない。
「俺は……夢を見ている時、妄想している時かな」
どんな世界が俺を待ち受けるのかというドキドキ、どうせバッドエンドなんだろうという不安、もしかしたらハッピーエンドなのかもしれないという期待。
めがみんの言う面白さも含めて、未来の"面白さ"を妄想することが、俺にとっての面白さなのだ。
「それはなんとも海川さんらしい、さすがは妄想マスター☆」
「あれ、ばかにされてる?」
「いえ、褒めてるんですよ」
何だかんだいってこいつとの予測不能な会話もまた、俺のいう面白さのひとつなのかもしれない。
「それで結局、海川さんの中でどの世界が一番面白かったんですか?」
「ん、あー……」
自ずと答えは決まってくる。絶望と希望のちょうどいいバランスを保った世界。俺が最も純粋に夢を見れていた世界。そして俺に自由な妄想をさせてくれる世界……
「現実世界、かな」
「フフ、異世界研究者やってるくせに」
「だからこそだよ」
だから俺は地球に戻りたい。そしてある時の俺みたいに現実世界の現実に溶かされそうになっている人がいたら、その人に教えてあげたい。
ーー妄想しろ、と。
妄想は自由だ。不可能をも可能にする。誰にも邪魔はされない。神にすら介入されない。
地球にいるからこそできる妄想がある。地球でないと見られない夢がある。
だからこそ俺は、現実世界に戻りたい。




