Another7 女神の世界1
目が覚める。神が統合だのなんだの言ってたあたりから記憶がない。
それなのにいろんな記憶が頭の中を渦巻いている。今までの人生で見てきた夢をすべて思い出したかのようだ。頭が痛い。
重い頭を上げて周りを確認する。ここがどこなのかすぐにわかった。見慣れている、見渡す限りなにもない平地。10億回近く見てきた。世界と世界の中継所『area』。
目の前が光り輝き、髪の長い一人の女性が現れる。このくだりも、その女神の顔も10億回近く見てきた。
「どうも、さっきぶりです。海川さん」
この声も、この話し方も、幾度となく聞いてきた。
「よう、めがみん」
「どうでしたか、神様との初接触は?」
「最高にムカついたね」
といっても最後のほうの記憶はない。
「いやー、ああ見えていい人だと思うんですけどね~」
「一生分かり合えない気がするよ」
「もう死んでますけどね」
このくだりも何万回とやってきた。
「神様から事情は聞いています。あと2回で10億回だそうですね」
「ああ、そう、それについて聞きたかったんだよ。神の言うご褒美ってなんだよ?」
「んー、まあ知らないほうが幸せなんですかね……」
「神は昇級? がどうとか言ってたぞ?」
「あー、そんな感じです。ただの冒険者から教官になるようなもんですかね」
「異世界旅は終わるのか?」
「いえ、終わりませんよー。あなたが冒険心を持っている限り☆」
ますますよくわからん。一区切りみたいなものなのだろうか。人間で言う成人、あるいは定年みたいなものか。
目の前が光に包まれ始めた。
「あれ、今回はやけに早いですね」
「だな。で、次はどんな世界なんだ?」
「それはー……神のみぞ知る☆」
光はその強度を増していく。
「では、海川さん、あなたに神のご加護のあらんことを~」
俺はそっと目を閉じた。
「ふぇ! え、なにこれ!? ちょ、神様!?」
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目が覚めた。そこは知らない天井……ではなかった。
天井がない。周りを見渡すと見慣れたまっ平らな世界。目の前には女神、それ以外何もない世界。さっきとなにも景色が変わっていない。おかしい、さっきいつも通り意識を失ったはずなのに。
見ると、女神も寝ているようだった。こいつの寝顔初めて見たな……
「おい、めがみん、起きろー」
「……ん……ん…、ふぇ! びっくりした!」
「なあ、どうなってんだよ? 俺転生できてないんだけど」
「え!? え!?」
周りをキョロキョロするめがみん。自分の姿を見て、俺の顔を見て、もう一度自分の姿を見た。そして苦笑い。
「は、はっは~、そういうことしちゃうか~、神様。あーあ、どこまでも気まぐれな人だな~」
先ほどまでの困惑は彼女の顔から消え去り、代わりに諦念というか、無常観というか、全てを悟りきったような顔をしていた。
「しょ……じゃない、海川さん。もしかして神様に願いを叶えてもらえる、みたいなことを言われなかっ……言われませんでしたか?」
「あ、ああ、言われたぞ」
「あー、やっぱり。それで私で、ここかー。なんというか嬉しいような悲しいような……」
日本語の意味がよくわからなかった。
「えっとー…ですねー、海川さんの記念すべき9億9999万9999回目の転生場所は、ここ『area』になりました」
「え、なんでだ? 俺願ってたっけ?」
「ほら、『お前がほしい』とか言っちゃうからですよ~」
「あ、あれは冗談のつもりだったんだが」
「神様がお茶目なんですかね、もしくは心の中では本当に私を……!」
「いや、ないな」
「即答ですかー」
それにしても何で今更『area』なんだろう。ここには何度も何度も来た。異世界と言われても実感がわかない。第2の家みたいなものになっていた。
「今まで何度も来てるのに、最後の最後だけ転生場所にカウントするのか?」
「んー、何というか、ここはいつもの場所であっていつもの場所じゃないんです」
一見、違いなんて全く分からない。同じA4の真っ白な紙を区別するようなものだ。
「いつもはこう、流れながらやってるんですけど、今回は止まってます。こんなんで、伝わりますかね?」
「よくわからんが、時間がってことか?」
「まー、そんな感じですねー。いつもはドライブスルー、今回は駐車場で会話してる、みたいな感じです」
10億回もやってこれば何となくわかる。今回は世界と世界の移動中ではなく、一つの世界として『area』にいる、ということなのだろう。
「て言っても何しましょうねー」
「確かに、この世界の明確な目標があるわけでもないしな」
「それにこの世界は死ぬ手段とかないですしねー。いつも通り光が来るまでお話ししましょうかー」
「今回も時間制限があるのか?」
「さあー? 神様のさじ加減じゃないですか? 私たちが話し尽くしたら、いつもみたいに光が来てこの世界を旅立つんじゃないですかね」
「前々から気になってたんだが、あの光はどういう仕組みなんだ?」
「あー、あれですか? あれはですね、ピカーッとなって、スッとなって、サッてなるんですよ」
さっぱり分からん。あの瞬間に何度か目をつぶったことがあったが、その時も転生に成功したので光は関係ないのだろうか。異世界を研究する者として興味はある。
「あの光を作り出せば異世界に行けたりするのか?」
「無理だと思いますー、まぶしっ! ってなって終わりですね」
「夢がないな」
「私もよく知りませんし。こればかりは神様にしかわかりませんよ」
しまった、神に会った時に聞いておけばよかった。まあ、そんな余裕はなかったけど。




