Another4 壊された世界〜異世界再興物語〜1
「ここは……」
いつものように目を覚ますと、そこには今までとは全く違う世界があった。
転生した目の前には大きな門。
ただ、その門はーー門どころか、門の奥に広がる街が、ボロボロに廃れていた。建物は崩壊して瓦礫と化し、災害の後のように瓦礫、瓦礫、瓦礫。前に行った世界も荒廃していたが、ここまで荒れてはいなかった。
なにより、ここには住人がまだいるようだ。見る限り、ボロボロの服を着ていて、あまり活気がない。
空を見上げると黒い雲に覆われている。雨は降っていないのに、禍々しい雰囲気の雲だ。
なにかが空を飛び交っている。羽を広げて飛び回っている。形はかなりヒトに似ているが、その背中には羽が生えているように見える。UMAマニアが喜びそうなフォルムをしている。
とにかく謎が多い。様々な疑問を解消すべく、この世界の探索を開始した。
街の中へ入っていく。できれば、拠点を探したい。
しかし、いかんせん俺の服装は目立ってしまっていた。門をくぐってすぐに、声をかけられてしまった。
「おい、お前見ない顔だな、どこから来た?」
声をかけてきたのは二足歩行のトカゲだった。大きさも考慮すると二足歩行のワニといったところだろうか。片手には槍。
今までにも何度か職務質問に遭ってきたこともあり、冷静に考えられるくらいには慣れていた。
ここで異世界から来ましたと言って、信じてくれるだろうか。
いや、まわりの生き物を見る限り、ファンタジックな世界なのだろう。もしかしたら、転生が当たり前かもしれない。
だったら一か八か試してみるか。もしダメだったら冗談で済まそう。
鋭い槍に怯えながら恐る恐る告白する。
「異世界からさっき来たんですけど……」
「なに!? 本当か!? おい、みんな! 転生者が来たぞ!」
予想の上を行く反応だった。そんなびっくりしなくても。どうやら、転生という概念は通じるらしい。話が通じてよかった。
周りにぞろぞろと住人たちが集まり始めた。
「おぉ! 確かに見たことない服着てる!」
「本当だ! ちょっと弱そう!」
「確かに! 魔力とかはなさそうだな!」
「なんの種族だろ!?」
好き勝手に言ってくれる。まあ実際に弱そうなのだが。
「いや、まさかこんなに早いとは!」
「これで王女様もご安心なさるだろう!」
「そうだな! 早く王女様のもとへお連れしよう!」
こんなに人(?)に注目される機会がなかったので、なんだか照れてしまう。
「あの、ここはどんな世界なんですか……?」
「とにかく王女様の元へご案内します。詳しい話はそこで」
「え、ちょっ」
右腕をトカゲに、左腕をゴブリンに掴まれ、強制連行された。せめて腕の高さは合わせて欲しかった。
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とにかくあらゆる建物が崩壊している。宮殿もまた例外ではなかった。瓦礫の横に、運動会を思い出させるテントがあるだけだった。
あのパイプ椅子に座る女性が王女だろう。他の者とはオーラが違う。パイプ椅子が玉座に見えんばかりの威厳と気品だ。
「王女様! 転生者をお連れしました!」
「ご苦労様です、皆は下がってよろしいですよ」
「はっ」
そして俺と王女だけがテントに残った。
「さて、転生者様。名前はなんとおっしゃるんですの?」
「あ、う、海川です」
「海川様ですか。申し遅れました、私この国の王女を務めております、イヴと申します」
「あ、ど、どうも」
「ふふ、そんなに緊張なさらないでください」
「は、はい」
一対一で女性と話すだけでも緊張するのに、この人の前だとさらに緊張する。
「早速ですがこの世界の、この国の現状をご説明いたします」
「あ、はい」
「見ての通り、この国は二週間ほど前に全て壊されました」
「壊、された? 災害ですか?」
「……災害といえばそうなのでしょうか……いえ、正確には違います。敵の軍に攻め込まれ、建物という建物を、全て破壊していきました。街は火の海に包まれ、残ったのは瓦礫だけです」
「そんな……」
「前の王も、宮殿もろとも爆発を喰らいました。王家でかろうじて生き延びたのは私だけです」
ここまでするか……というのが正直な感想だ。侵略や戦争はゲームや漫画であるが、ここまで非道なものはない。宮殿と街を吹き飛ばす爆発。いったい敵はどれほど強力なのだろう。
「幸い、国民たちは避難しましたが、我が国の戦闘部隊たちは敵によって殺されました」
目の前で涙ぐむ王女には申し訳ないが、異世界ファンタジー脳の俺からすれば、ここまではテンプレート展開だ。俺がみんなを導き、復讐を果たす。そんなシナリオだろう。ここまで非道な破壊活動を行うやつは俺も許せない。
「国民は皆、失意に沈んでおりました。そこにあなたは転生されてこられたのです」
「なるほど、それで俺は敵に復讐をしに行けばいいのですね」
「いえいえ、敵のリーダーと前の王は相討ちになったらしく、爆発の後、戦場には誰一人いなくなっておりました」
「敵っていったいどんなやつらだったんですか?」
「……まさしく過ぎ去っていく天災といったところでしょうか。皆避難していたため、その姿は誰も見ていないのですが、耳をつんざく爆発音とその威力から中心人物は強大な魔力を持っていたと思われます」
無差別に街を吹き飛ばす奴だ。きっとゲスな心を持った奴だったに違いない。
「なので、ひとまずあなた様には国の復興をお手伝いしていただきたいのです。私たちに協力していただけますか?」
「わかりました、喜んでお引き受けします」
あぁ、こっちのパターンか、と思い直す。現世の技術を駆使して、一国を立て直すリーダー俺。大軍を編成し直し、それを率いて自らも先陣を切る軍師俺。そんな妄想が膨らむのが俺の悪い癖だ。
「では、海川様には仮にではありますが、王位を認定いたします。こちらのマントをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
そのマントを身に着けた。マントなんて初めて身に着けた。
おぉ、軍師っぽい。王といえば冠のような気もするが、これはこれでいい。なんだか力が溢れてくるようだ。力だけじゃない、自信と勇気が湧いてくる。これが王の力か。
「先代の王が着けていたマントは消失しましたので、王家に受け継がれた私の魔力で新しく作ったのですがどうでしょう?」
「なんだか力があふれてきます」
「ふふ、そうでしょう?」
ふふ、と口にするが王女の口元は全然笑っていない。なんだか疲れ切っているようにも見える。
「それでは本日からよろしくお願いします」
「が、頑張ります」
「ふふ、王なのですからもっと堂々としてもよいのですよ?」
「う、うむ。苦しゅうない」
「ふふ、面白い方ですね。期待しておりますよ、王。」
「いろいろありがとうございました」
「いえ、私にできるのはこれぐらいのことだけですので……」
国王ライフのスタートである。といっても天下統一するわけでも世界征服するわけでもないのだが。
「では、早速ですが、国民を集めますので今後の指示をお願いします」
いきなりか。自信満々に引き受けたものの、何から始めれば良いかわからない。小説と漫画の知識を総動員しよう。
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ぞろぞろと種々雑多な国民が集まってきた。総勢数百人。こんな人前に出るのは何年振りだろう。
しかし、以前の俺とは違う。今の俺は王だ。KINGだ。俺は拡声器片手にざわつく大衆の前に出た。
「この度、仮ではあるがこの国の王となった海川だ! この国の惨状は王女から聞いた! 俺がお前らに力を貸す! 皆も俺に協力してくれ!」
「うおおお!!」
「うおおお!!」
「これから分担を説明する! よく聞いてほしい!」
俺は国民を資源調達部隊と建設部隊と食糧部隊に分け、仕事を分担した。また、軍の編成も行なった。いつまた敵が襲いにくるかわからない。
一応、大学では建築学科だったのでそのノウハウを生かして作業手順を伝えた。
「以上だ! わからないことがあれば聞いてほしい! なければ早速作業に取りかかってくれ! 俺も後で手伝いに行く!」
「うおお!!」
「うおお!!」
ぞろぞろと皆が戻っていった。
ここからがリーダーの腕の見せ所だ。
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まずは外壁を作る作業の様子を見にいった。門で会ったワニトカゲが現場監督だった。
「おっ、転生者! 海川、だっけか?」
「おう、トカゲさん、さっきぶり」
「トカゲじゃねぇ、リザードマンだ」
「ああ、リザードマンね、調子はどうだ?」
「順調だ。外壁は元から被害が少なかったしな」
「門は頑丈にしとけよ」
「おう」
俺の出番はなさそうだ。俺は見よう見まねで石を削る作業をしながらリザードマンと少し話をした。
「リザードマンは強そうなのに戦闘部隊じゃなかったのか?」
「っっ、言うなよそれを。選ばれなかったんだよ」
「それは悪かった。次に戦闘部隊を作るときはお前を採用するよ」
「おう、俺がいれば百人力だ」
「自分で言うのか...…」
そんな話をしつつも、リザードマンは淡々と作業をこなしている。
「ずいぶん慣れてるんだな、その作業。器用なんだな」
「まあな、ずっとやってきたし」
「建設の仕事してるのか?」
「まあ、そんなところだ。俺はもっと暴れまわりたいんだがな」
「物騒だな、さすがはリザードマン」
「……お前は戦いたいと思うことはないのか?」
「いや、俺は思ったことないな」
「死ぬのが怖いか?」
「いや、死ぬのはもう怖くない」
「ずいぶん肝が座ってるな。俺は怖い。でも戦いたい」
「どうしてそこまで戦いたいんだよ?」
「わからん、ただ戦うために生まれてきた、みたいな感じだよ」
「なるほどわからん」
「だろうな、お前は戦えるめをしていない。まあ、無理だけはするなよ。とにかく体は大切にな、王様」
「あ、ああ」
死ぬのが怖い。わからなくもない。俺も怖かった。今はこう思える。前の世界にいた時もそうだった。
そうはいってもやはり死ぬ間際は恐怖を感じてきた。それが人間の本能。あるいは生物の本能なのだろう。戦いたい、という気持ちもまた、本能なのかもしれない。
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次にそれぞれの家の建て直しを見て回った。さっきのゴブリンがいたので話しかけた。
「順調か?」
「順調でっせ!」
「資源の運搬は疲れないか?」
「慣れたようなもんっすよ! もう体力ついたっす!」
「おお、それは頼もしい、引き続き頼むよ」
俺も手伝いをした。木をのこぎりで切ったり接合したりする作業なんて初めてだったが、思いのほかうまくやれた。俺もそこそこ器用なのかもしれない。
「はい! あの、海川が前にいた世界はどんな世界だったんすか?」
「うん? 現世のことか?」
いろんな世界を見てきたせいか、どの世界について話せばいいか迷ってしまう。
「そうだな……俺がいた現世は、少なくとも俺のいた国は平和だったよ。良くも悪くも平和。何も特別なことは起こりやしない。その意味ではつまらない世界だよ」
「なにかおもしろい道具とかないんすか? あっしそういう話を聞くのが好きなんです」
「面白い道具……ああ、スマホなんてどうだ?」
「スマホ?」
俺はポケットからスマホを取り出し、ゴブリンに見せた。圏外でアプリもゲームも使えないが、カメラが使えた。
「こうやって写真を撮ったりできるんだ」
「すげー! 初めて見たっす!」
「他にも遠くの人と会話したりもできるんだ」
「すげー! やっぱり異世界はすごいな!」
「今更だが、お前ら異世界を信じるのか?」
「はい、異世界から来た人を何人も知ってますから」
「その人たちは今は……?」
「みんな次の世界に行っちゃいました」
「そうか。会って話がしたかったんだがな」
先人は平和なときに来たのだろうか。その人たちは今のこの世界をどう思うのだろう。この世界で何を感じ、何を思って死んでいくのだろう。
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宮殿の修復作業が一番難航しそうだ。最初は建設用の足場を組み立てている。
そこで活躍しているのは、鳥の姿をした人、いや人の姿をした鳥だった。
「あれま、王様じゃない、ごきげんよう」
「やあ。えっと……」
「ガルーダよ。鳥人ガルーダ。みんな私をそう呼ぶわ」
「よろしく、ガルーダ。何か困ったことはないか?」
「今のとこ大丈夫よ」
「そうか」
今さらだが、王としての俺の出番がほとんどない。もっとなんか頼ってくれてもいいのに。大学で学んだ地球の建設技術を披露したい気もあるが、さすがに飛べる人がいるなら必要ないようだ。
「あら、王様よく見るとなかなかイケてるじゃない。私が見てきた中でも五本の爪に入る二枚目よ」
「それは、どうも……」
「あら、照れちゃって可愛い。どう? 王様も一緒に飛んでみる?」
「飛ぶって、空をか?」
「それ以外に何があるのよ、カツアゲしてるわけじゃあるまい」
「ああ、頼むよ。一度でいいから飛んでみたかったんだ」
「それじゃ、つかまってなさい」
俺は鳥人のやけにがっしりした足にしがみついた。そしてテイクオフ。
人類の夢がかなう瞬間だった。真下の景色はまだまだ荒んでいるが、青々とした空と白い雲が近づいていく。
「すごいな!」
「でしょ? 今度は自分の力で飛んでみなさい!」
「いや、無理だって! 俺翼とかないし!」
「そのマントがあればできるはずよ。魔力に頼りなさい。飛んでる自分をイメージするの!」
恐る恐る手を放す。落ちない。地面に足がついているわけじゃないのに体が安定を保っている。いつもより風が強いくらいだ。
「そろそろ降りるわよ!」
「あ、ああ!」
もっと飛んでいたかったが、まあ、いつでも飛べそうだし。
この国が再建したら空からこの国を見てみよう。きっと劇的な変化になるだろう。
俺はこの国のbeforeの姿を目に焼き付け、地表に降りた。
「どうだった?」
「楽しかったよ、飛べるってすばらしいな!」
「そう? 私は走る方が好きだけど」
日が暮れてきた。作業は一旦中断し、各々の仮住まいへ帰らせた。
俺も部屋を一つ借りて翌日に備えた。
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次の日も、また次の日も、作業は滞りなく進んだ。国民たちとの交流も深まり、全てが順調だった。
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【異世界研究活動記録7】
〈7日目〉
作業が始まって一週間が経った。忙しくて今まで書けなかったが、ようやく落ち着きそうなのでここでいつものコレを書こうと思う。
作業は順調だ。外壁と家は完成した。あとは宮殿の修復だけだ。
軍隊の方だが、国民の中から力自慢を引き抜き、また国外から何人か雇った。あとは武器と訓練か。
この世界での発見を書こう。
この国にはいろんな生物が共存している。リザードマンからゴブリン、番犬、スライムに至るまで、いろんなファンタジッククリーチャーに溢れている。
中でも興味深かった生態を記そうと思う。
リザードマンは脱皮はしないらしい。尻尾は切れないらしい。
ゴブリンは右利きより左利きの方が多いらしい。あと歌が上手い。小さい割にたくさんたべることができる。
スライムは餓死しないらしい。高いところから落ちても死なないらしい。軟水より硬水に弱いらしい。
鳥人は飛ぶより走る方が好きらしい。(個人差あり)あと、視力がいいらしい。あと、ガルーダは男だった。
王女は握力が強いらしい。
多種の生き物がいるが、みんないい奴らばかりだ。自分の国を破壊された辛さの中で、それを表に出さずにポジティブに生きている。みんな希望と願望を持っている。だから共存してこれたのだろう。
俺の言うことも疑いもせずに信じてくれた。今までにも転生者がいたかららしい。
この後はどうしよう。この国の復興が終わった時、俺はお役御免となる。俺がこの世界で生きる意味は何だろう。この世界だけじゃない。俺が生き続ける意味は何だろう。生きては死んで、また生まれては死ぬ。そして生まれる。死が終わりでないなら俺の終わりはどこなのだろう。もちろん面白いこともたくさんある。でも、終わりのないものに目標が見出せなくなってきてしまった。
なんだか哲学的になってしまった。
もっといっぱい発見したことがあるのだが、次の機会に記そうと思う。
働きづめだからか、最近疲れがたまって仕方がない。頭が痛い。吐き気もする。今日はもう寝よう。
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全ての家が復旧して、残るは宮殿だけだという時だった。
いつも通り作業をしていた。
「セッコウこっちに運んでくれ!」
「あいさー! 適度に水飲めよ!」
「おう! ありがとよ!」
「手の空いてるやつは食料を頼む!」
「誰かここに置いた設計図もってってないか?」
「あ、あるよー! ごめんごめん」
「セメントが足りん!」
「石でどうにかなるんじゃない?」
「いや、丈夫なほうがいいからな……」
「そっかー、どっかセメント余ってないか聞いてくるよ」
「そろそろ薪割り代わってー」
「はいよ、お疲れさん。ゆっくり休みな」
「ありがと。ちょっと横にな……
ドーーーンッ
心臓にまで響く大きな爆撃音が門の方から聞こえた。みんなが動揺する中、門番の犬が走って情報を伝えにきた。
「おそらくまた奴らだ! 遠くから門を攻撃された!」
それを聞いてみんなパニックに陥る。
「みんな避難するぞ! 早く地下シェルターに!」
「クソ! もう少しで完成なのに!」
「思ったより早かったな!」
「うえーん、こわいよー!」
一番動揺していたのは俺だった。奴らが来ることは予想していたが、もう来るとは。展開が早すぎる。まだ軍の配置なんてできていない。
ここからのシナリオを想像する。
俺が出るしかない。このマントの力があれば戦える。それに今回の特典もまだわかっていない。もしかしたらすごい技が使えるかもしれない。
「どうする海川? 俺はいつでも戦えるぞ!」
「ありがとうリザードマン。力に自信のある奴は一緒に戦ってくれ! 俺も戦う!」
「うおお!!」
「うおお!!」
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みんなの避難を見届けた後、門の方へ急いだ。
敵は既に街の真ん中まで入ってきていた。相手はたったの四人。魔法使い、射手、騎士、そしてーーあと一人は何だ? 明らかにオーラが違う。武器も持っていない。
「止まれ! 貴様ら何者だ!」
それに対して、謎の素手男が答える。
……それを聞いて俺は全てを理解した。この世界に来てからの違和感が全て繋がった。
なるほどこれがこの世界か。これが神のやりたかったことか。何が面白いのか理解できない。
人の努力を何だと思ってやがる。人の命を何だと思ってやがる。それをこんな簡単に壊していい訳がない。
いや、俺はわかっていたのかもしれない。今回の俺の立場を。俺の運命を。神がどんな奴かを。ああ、腹立たしい。
それよりもーー今は神よりも"俺"に腹が立つ。あっさり受け入れやがって。楽しみやがって。嬉々とした顔しやがって。
それが"俺"の求めていたものか?
俺はここで死ぬ運命なのだろう。でも、いつまでも運命を受け入れる俺ではない。そろそろ抵抗する時だ。反抗期だ。死にたくないわけではないが、今は過去最高に腹が立っている。
ーー運命に、神に、俺に、背く時だ。
こうやって俺が反抗すること自体が神の想定内なんだろ? お前の作ったシナリオなんだろ? 俺はさらにその上を行ってやる。お前の思い通りにはさせない。お前の構築した世界の登場人物が"心"を持っているんだということを見せてやる。
ーー運命を、世界を、俺を、俺が変えてやる。
……させねーよ。