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明るい食卓だねっ♪

 

「祝! 渡辺俊介(37才)、レッドソックスとマイナー契約へ! かんぱーい!」

「かんぱーい」

「ねえ、なんのこと? なんのこと?」


 いつもの食卓。

 けれど、姉さんの盛り上がりが半端ない。

 今日のメインは豚バラと厚揚げのキムチ炒めだよ。辛いものだからお酒に合うかなー、と思って作ってみたよ。キムチの賞味期限が切れそうだったってのもあるけど。おつまみ程度にしか食べないから、どうしても余っちゃうんだよねー。そうそう、キムチって賞味期限切れるの早いよねー。お漬物のくせにさっ。

 食べてみると、厚揚げがキムチの辛さをマイルドにしててイイカンジ。今回はお豆腐を使ったけど、もやしもいいよね。シャキシャキ感がたまんない。でも、ボクはこっちの方が好みかな。お豆腐好きだからねー。サイテンと姉さんは、さらに豆板醤(とうばんじゃん)をトッピングしてた。おいしいって言ってたのに……。せっかくマイルドにしたのにねー。どうして辛くするかなー。

 お料理は好評だったからいいけれど、肝心の会話だよ。ついていけない。でもたぶん、野球の話だよね? ボクがついていけないっていったら、野球の話だもんね。


「なんのことって、そりゃぁあんた、渡辺俊介のメジャー挑戦を見守っていきましょうってヤツよっ!」

「とある野球選手が、アメリカに挑戦するんですよ」

「あ、知ってる。田中って人でしょ? ニュースで見たもん」

「違うわよっ! マー君といっても、こっちのまーくんよっ! まーくんはまーくんでも、マスコットキャラクターのまーくんよっ!」

「サイテン、どういうこと? 姉さんのテンションが上がりすぎて怖い」

「えーっとですね。つまり、お姉さんの好きなチームの選手が、アメリカに挑戦するんですよ。それで、その彼なんですが、まぁ、なかなかの顔ですし、おそらく、お姉さんの好きな選手の一人だったのではないでしょうか」

「結婚したかったわー」

「姉さんって年上好きだよね」

「いいじゃない。基本的に年上には、人生に裏打ちされた包容力ってのがあるのよ。あんたも似たようなもんでしょーに」

「なっ! なにを根拠に……っ!」

「まぁいいわ。今日は気分がいいのっ。飲むわよー。パァーッと行くわよー!」

「というわけで、おつまみの追加、頼みます」

「う、うん。あるものでいいなら……」

「そうですね。お願いします」

「うーん……。お豆腐のサラダでいいなら、すぐにできるよ」

「お肉ー! お肉がいいのー!」

「はいはい。それなら肉豆腐かな? 絹でいいなら」

「それなら塩味でお願いー! サイテンさん、ビール注いどくわよー!」

「おおっ。これはこれは」


 なんちゅープチ宴会だ。二人でビール飲みながら華を咲かせてる。おっさんにもほどがあるぞ。喜んでくれるのは嬉しいんだけどねー。野球の話をお酒の肴にするところとか、特にそう。まぁ、好きなことを笑顔でおしゃべりするってのは、いいことだけどさー。サイテンがフォローしてくれるけど、できれば、知ってる話題がいいよねー。

 なんて考えながら、冷蔵庫からひき肉とお豆腐、ねぎを取り出す。ねぎはすでに細かく刻んであるものをタッパーに入れてあるから、最後に薬味としてそれを加えるだけでOKな形になってる。うちには酔っ払いが二人いるからね。早く作れることに越したことはないんだよー。んで、本体はというと、水にほんだしと塩、みりんを加えて、お豆腐とお肉をパパッと入れて、菜ばしで適当に崩しながら炒めるだけの簡単クッキング。おしょうゆベースもいいんだけどね。姉さんとボクはもっぱらコッチかな。焼き鳥とかも塩味を選んじゃうしねー。


「……ねぇ、聞いてるの?」

「はいはい。聞いてますよー」

「あんた、今日、学校で何したのさ」


 あれ? いつの間にか会話の内容が変わってる。あるよね、こういうとき。適当に返事してたら、会話が激変してることって。結局、ボクが聞いてないってだけなんだけどさ。

 出来上がった肉豆腐をお皿に盛って、薬味を加えて食卓に並べる。すぐさま箸が飛んできた。レンゲ置いてるんだから、それですくえばいいのに。お行儀悪いよ、姉さん。


「お弁当は助かったわよ。でもさ、小笠原くんたちの興奮がすごいことに」

「道大くんのガッツってあだ名、いいですね」

「でしょー。あたしが付けてやったのよ」

「ガッツってあだ名の男の子なら、今日、あったけど……」

「そう、その子よ。おじいさんを助けた男の子」

「えーっ! そうなんだ。それなら、タスキの効果、伝えればよかったよー」

「あ、それは、夕方に伝えましたから大丈夫です」

「そうなの? 大丈夫だった?」

「むしろ燃える展開だと言われました」

「なにそれ」

「いいじゃない、いいじゃない。それよりさー、あんた、その格好で学校行ったの?」

「うん。おかしいかな?」

「ううん。そんなことないんだけど」


 パーカーワンピース姿のボクに、姉さんは疑問を抱いたみたいだ。まぁ、そうだよねー。おもいっきり女の子だもんね。でもさー、一々着替えるのって、面倒だよねー。だからそのまんまなんだー。どのみち、誰かに会うって用事もないし。バレないんなら、別にいいんじゃない? あと数時間後に戻るけど、そのころにはもうパジャマだしねー。


「ようやく、女の子としての自分と向き合い始めたのかなぁって」

「なにいってんの? 酔っ払ってる?」

「んー。まだダメかー」

「いいじゃないですか。ほら、この肉豆腐、おいしいですよ。塩味なんて食べたことがありませんでした」

「でしょでしょ。時間があったらニンニクとかニラとか入れても良かったんだけどねー。二人ともさっき豆板醤入れてたし、自分で入れるかなーって思って、軽く作ったんだー」

「なるほど、豆板醤ね。入れてみよー」

「ですです。ビールも注ぎますよ」

「ほいさ。でさー、小笠原くんたちが騒いでねー。もう、大変だったんだから。『妹さん、くーださい』とか言い出したから、年上の彼氏いるって言ったわよ。その落胆ぶりったら最高っ!」

「趣味悪いよ、姉さん。というか、彼氏っていないし」

「ここ、ここ。ここにいますよ。年上の彼氏が」

「あんたも年上好きー。あははっ」

「はいはい。酔っ払いさんたちは、そろそろお水をコップに入れましょーねー」


 

 なんていうか。

 相変わらず野球の話はわからないけれど。

 明るい話題ってのも、最高の調味料だよねっ。



 



 

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