お弁当を届けにっ♪
「とりあえず、学校に着いたけど……。どうしよう」
キーンコーンカーンコーン。
午前中。
ボクは、姉さんの勤める学校にいた。
というのも、姉さんが弁当を忘れたから。
びっくりしたよ。「いってらっしゃーい」って見送って、お掃除してたら玄関にポツンとあるんだもん。けれども、これはいけないと、雨の日にも関わらず、急いで出たのが運の尽き。傘は差してたんだけど、ずぶぬれになっちゃったんだ。
かと思いきや、今は晴れてるし、靴下までびちょびちょになってたし、最悪だったよ。寒いし、濡れた身体が余計に冷えたから、『お願い』して、乾いた服に着替えたよ。お尻が隠れるほどの長めのパーカーワンピースにスキニーパンツ。ブーツも履いて、Pコート。インナーも防寒対策パッチリな仕様になったよー。結構、暖かい。雨が怖いけど、後で元の服に戻るし、まぁ、いいや。……何気に便利だね、コレ。
いやね、なんかね、女装とか男装とか、もうどうでもいいやって思ったのさっ。開き直ったっていうかね、ぶっちゃけ、女性用のボクサーパンツを履き続けてるし、抵抗なんてほとんどなかったです、はい。いつものような格好してても、女の子扱いされるし。男性的なものだと、下着購入のときみたいに、逆に変な目で見られるというか……。「背伸びしちゃって。もう少し色気があればねぇ」なんて陰口言われるんだよ。色気ってなんだよ、色気って。どうせ、ボクには似合いませんよー。ボクにセクシーさを求めるのが間違いなんだ。そんなこんなで、最近、ユニセックスなものばかり着るようになってきたよ。いざってときに便利だしね。
んで、そんなボクがお弁当片手にオロオロしていると、体操服姿の、一人のメタボな男子学生が声を掛けてくれた。んー? どっかで見たことあるような……。
「どうしたんスか?」
「あっ、その、えと……。姉さん……、あー、花形先生はいますか?」
「たぶん、職員室にいると思いますけど……?」
「あ、よかったぁ」
安心だよー。
この学校かどうかすら、不安だったからね。
いやさ、名前は知ってるよ? 一致したし、たぶん間違いないと思ってたんだ。でも、やっぱりさ。初めてだし、不安になるよね? 違ったらイヤじゃない? だから、ちょっと怖かったんだよー。安心花丸笑顔だねっ。
「な……、なにかあったんスか?」
「お弁当を忘れたみたいで、届けにきたんです」
「そ、そうっスか。次、数学だから。俺、届けますよ」
「いいんですか? ありがとうございますっ」
おおー。
すっごくいい人だねっ。
と思ってたら、ゾロゾロとたくさんの体操服の男子学生さんたちが歩いてきた。うおっ。汗の臭いが半端ない……。これは、授業が終わった直後かな?
「なんだー? ガッツ、ナンパかー?」
「ガッツありすぎだろー」
「うおっ。なになに、モデルさん?」
「抜け駆けはなしだろー」
「ガッツ、この人誰?」
うわぁ……。
囲まれてしまったよ……。ちょっとどころか、かなり怖い。男の子たちは背も高いし、体格いいし。運動後で興奮してて、鼻息荒いし。ボクはこんな格好してるし、足がすくんじゃうよ。
「やめろよ。怖がってんだろ」
「なんだよ、ガッツ。カッコつけんなや」
「そうだそうだー。俺たちだって話てーよ」
「なになに、どうしたんですか?」
「名前、なんていうんすかー?」
「あー、もう、うるせー。この人、花形先生に弁当届けにきたんだってよ」
「おおおー。ハナセンの!」
「マジかよ。ハナセン、妹いたのか!」
「こりゃあ、授業で言うしかねーな」
「妹さんもロッテファンなんですかー?」
「何歳なんですかー?」
頭がぐるぐるする……。
一斉に話しかけないでー。
……あれ、遠くから、なにか、二メートルぐらいの熊が見える……?
「おいっ! お前ら、とっとと着替えろッ」
「やべぇッ! ゴリラに見つかった!」
「よし、田中。お前草むしり決定な」
「先生、誤解ですっ! 違うんです! いつもは裸の王子様って呼んでますっ!」
「そんなにトイレ掃除もしたいとは」
「なんとーっ!」
「みんな、田中の犠牲を無駄にするなっ」
「急げー。早く着替えるぞー」
「ちょ、俺を置いていくなーっ」
男の子たちみんなが走り去る。
ドドドドド……。
まさに、ドドドドド。気のせいか、土煙も見えたよ。
と、お弁当をまだ持ってることに気付いちゃった。どうしよ。
「どうなさいました?」
あ、熊さんが一人、目の前にいる。
さっきの剣幕が嘘のように晴れやかだ。
なんていうか、これはこれで怖い。
「あの、花形先生にお弁当を届けに……」
「あぁ。それでアイツらが。では、僕が届けましょう」
「よろしくお願いします」
で、カバンごと手渡し。
なんというか、申し訳ないね。
「すみませんが、お名前をお聞きしても?」
「花形です。花形薫」
「わかりました。では、届けておきますよ」
「ありがとうございます」
というわけで、任務完了!
ふいー。お弁当届けるだけなのに、大変だね、これは。




