きあいだーっ♪
ボクたちの食卓は、会話が多い。
今日も今日とて、「こんなことがあったよー」とみんながそれぞれお話する。他愛のないものばかりで、ボクたちはそれを楽しんでいる。会話自体が楽しいからね。サイテンが来てから、話題はさらに豊富になったよ。嬉しいね。今回の主役はボクの見た、帰りでの事件のことだ。
「今日さぁ、すごい人みたんだよー」
「どうしたの、カオル?」
「んとね。駅のホームで電車を待ってたらね、おじいさんがホームから落ちたんだよ。そうしたら、一人の男の子が飛び込んで、おじいさんを助けたの。たぶん、高校生かな? すごいよねー」
「それはすごいですねぇ。見習わなくてはいけません」
「すごいわね。滅多にできるもんないわよ」
「でしょ? すごいよねー。メタボな体型なのに、軽やかに助けてたよ。かっこいいよねー」
「そ、そうですか……」
「サイテンさん、ファイト!」
「ん? ボク、おかしなこと言った?」
「いいえ。言ってませんよ。ただ少し、私が嫉妬しただけです」
「ぐはっ。サイテンさん、なんて黒い笑顔っ」
「ちょ、ちょっとー。話の腰を折らないでよー」
「あ、ごめんごめん」
「すみません」
「いいよー。んでね、その男の子、タスキがけしてたんだー。変わってるでしょー」
二人が声をそろえて、「え゛っ」とびっくりしている。
だよね。不思議だよね。あんまりみないよね。というか、はじめて見たよ。タスキなんてしてる人。こう、和服の袖をたくしあげるようなカタチで学生服を紐で結んであって、「気合入ってます!」ってカンジの人だったよ。甲子園の応援団みたいなの。ボクもびっくりしたよ。
「その男の子、クラスの子かもしれない……」
「えっ! すごいじゃん。教え子がヒーローだなんて、感動ものだよっ」
「へぇ~。だとしたら、道大くん、お姉さんのクラスにいるんですね」
「あ、名前もおんなじ。ってことは、同一人物?」
「かもしれませんねぇ」
「世間は狭いわね」
「そうですねぇ」
「えっ! サイテンまで知ってるの? なになに、すっごい有名人なの?」
なんだか仲間はずれな気分!
みんな知ってるだなんて、ねー。
そりゃぁ、奇抜な格好だから有名かもしれないけどさっ。
「そうね。学校の中では有名ね」
「私は、才能を渡した繋がりですね。明日、ポイント確認しとかないと」
「そうなんだ。サイテン、すごいねっ。人助けに貢献してるよっ」
「いや~。すごいのは道大くんですよ。でも、ありがとうございます」
「あっ。もしかして、カオルのは可愛いブレスレットだけど、小笠原くんのはタスキ?」
「はい。気合のタスキを渡しました」
「あれか、ホケモンか」
「ちなみに、効果はひんし状態になっても生き残るというものです」
「ますますそうじゃない。呆れた。天使って、そんなの取り扱ってんの?」
「私がそういうのを好んでるだけですけどね」
「サイテンさん、もう少し考えた方がよくない?」
「意外と喜ばれるんですよ」
「えっ? なになに? ネタ? ネタなの?」
なんか二人で盛り上がってない?
わかんないんだけど。ホケモンとか、わかんないんだけど。いいや、知ってるよ? ホケモンでしょ? 電気ねずみのやつ。かわいいけど、でも、タスキ関係ないよね……?
「ゲームのアイテムと同じ効果なのよ」
「ですです。高校生でしたから」
「そうなんだー。でも、どうして姉さんは知ってるの?」
「そりゃぁ、ゲームを学校に持ち込んでたりする男の子もいるし、男の子の話題がそうだったりするからよ。いやでも覚えるわよ」
「そうなんだー。でも、どっかで聞いたことのある名前だよね……?」
「それは、あたしの持ってるプロ野球名鑑を見てもらえばわかるわ。かっこいい人で、ファンなのよ。あんたに前、好きな芸能人の話題のとき、教えたはずよ? 移籍したし、もう一花咲かせることができるはずっ!」
「ですです。井端選手とトレードみたいな形になりましたが、両選手とも活躍して欲しいですねぇ」
「おっ。サイテンさん、話がわかるわね」
「お姉さんも、渋いですね。もしかして、小笠原選手がキャッチャーだったことも?」
「もちろんよ! 最高の二番打者だったわっ!」
「ちょ、ちょっとー。わからない。わからないよ」
「全く、この小娘ちゃんは。セとパの違いすらもわからないんだから」
「せとぱ?」
「セ・リーグとパ・リーグのことです。プロ野球には計十二球団あるのですが、その中でも六球団にわかれて総当り戦を繰り返すんです。つまり、二組の総当たり戦ができあがるわけで、一組をセ・リーグ。もう一組をパ・リーグっていうんです」
「へ、へぇ~……。きょ、巨人なら聞いたことあるよ」
「巨人はセ・リーグね。ちなみに、私は千葉ロッテマリーンズのファンよ。ファンクラブにだって入ってるんだから」
「おおっ。では、スタンドでジャンプしたりするんですか?」
「するわ。しまくるわっ。でもじっくりみたいときはやっぱり内野席ね。あぁ! 数えることのできた観客数が夢のようだわ……。十八連敗も懐かしい……」
「なかなか年季の入ったファンですね」
「子どものころからだから」
「ちょ、ちょっとー。わからない、わからないよ」
なに、なんなのさっ。
二人してさっ。
「全く、この小娘ちゃんは。家事ばっかりしてるから、あたしがここでいつも野球の話ができないのよっ。早坂に期待してるあたしの身になりなさいっ」
「意味わかんないよ。ってか、誰? はやさか?」
「ぐはっ。今回ばかりはまともな返答かもっ」
「確かに、ほとんどの人が知りませんよ。マイナー球団の、マイナー選手なんて」
「サイテンさん、裏切ったわね……!」
「私は横浜ファンなんで」
「えっ、あの、よくわからないけどさ。優勝できたらいいねっ」
「そうですね。最下位以外なら歓迎です」
「ゆ、ゆうしょうは……?」
「なんて訓練されたファンなの……っ!」
う、うん?
どうして優勝できないって思うんだろ?
みんな、プロなんだよね……?
「ですが、よかったですよ……」
「なにが?」
「計算できそうな投手の入団が?」
「いえいえ。道大くんのことですよ。電車にひかれたら、死ぬところでしたからね」
「……えっ?」
「気合のタスキでしょ? 死なないんじゃないの?」
「即死とひんしは違いますから。ひんしは死にそうなダメージ。即死は死亡。電車にひかれたら誰だって死にますよ」
え?
それってさ……。
「タスキの意味ないじゃんっ!」
「……あっ。それもそうですねぇ」
って、気付いてなかったの?
早く教えてあげないとっ!




