トマトを選ぼうっ♪
「あら? サイテンじゃない」
南光次郎さんと別れた後、スーパーでの買い物の最中、今度は別の人から声を掛けられた。お色気ムンムンな女性で、目立ちがはっきりしていてスタイル抜群。いろんな修羅場を潜っていそうなカンジ。なんていうか……、夜の住民ってオーラだ。だから、スーパーマーケットが似合わないよね。もちろん、いい意味でだよ。そう、いい意味で似合ってない。
サイテンも知っている風で、ドキッとした表情をしたけれど、すぐに切り替えやがった。アレは済ました顔ってヤツを作ってるよ。ボクは今、勉強したね。大人のコミュニケーションの仕方をさっ。
「おや? カエデさんですか。お久しぶりです」
「ええ。元気だった?」
ていうか、サイテン、あの人のこと名前で呼ぶんだ。ふ~ん……。なーんか親しげな雰囲気。立ち位置の距離も近いし。サイテンもなんか「ヤバッ」って顔を一瞬してたし。関係ないけど。
「この通りですよ。カエデさんは?」
「もちろん。あなたのおかげで、お店も絶好調よ」
「それはよかったです」
「今度、また飲みに来て。あなたさえよければ、ゆっくりとお話しましょう」
「はい、機会があれば」
機会があればって。
どんな機会だろうね。
「ところで、こちらの方は彼女さん?」
「花形といいます」
ニッコリ笑顔だ。
「カエデよ。へぇ~。サイテンがこの子とねぇ。よければ、ウチで働く? 時給高いわよ? ちょっと若いけど、あなたなら……、ってさっき思ったけど、どうもあなたは男性が苦手みたいね。サイテンかどうか分からなかったから少し前から様子を見てたけど、男の人が通るたびに避けてたから。サイテンは別みたいだけど……。無意識かしら。よくこの子のハートを射止めたわね。ちょっと難易度高いわよ、この子」
「実はその途中でして」
「へぇ~。サイテンが、ねぇ。でも大丈夫よ。花形さんだっけ? あのね、サイテンは乱暴なことしないし、上手だから安心していいわよ。ちゃあんとキモチよくしてくれるわ」
「ふぇ? ……ッな、なぁっ!」
「わっ。これはサイテン、相当頑張らないといけないわね」
「アピールはしているんですが」
「たまったら、あたしとする? あなたのモノはまだマンションにあるし、大歓迎だわ」
「遠慮しときます」
「そうね。彼女、すごそうだもんね」
ななななにがさ。
何がすごそうなのさっ。
「カエデさん。お店の準備は大丈夫ですか?」
「あっ。そうなのよ。早く行かないと、開店遅れちゃう。じゃあ、またね。お店で待ってるわ。お二人での来店だっていいのよ?」
「考えておきましょう」
「ありがとう。じゃあね」
バイバ~イ、と手を振って去っていく女性。
そして笑顔で見送るボクたち。
……ふぅ、終わった。
……さて。
「サイテン、説明」
「は、はいっ」
「説明」
「はい。あのですね。その……、あのですね」
「早く」
「ッ! え、えっと。以前――」
「簡単に」
「以前、お世話になりま――」
「お世話にぃ?」
「は、はい……。その、一緒に住んでまして、その……」
「へぇ。一緒に、ねぇ」
「いや、その。才能をですね」
「才能ぅ? なんのさ」
「ビールですっ。七対三の黄金率で注ぐことができやすくなる才能ですっ」
「ふ~ん……。で、随分親しそうだったね」
「そ、それは、その。つまりその、深い関係でもあったわけで」
「深い関係ぃ?」
「……ねちょねちょでぐちょぐちょなえっちなやつです」
「ふぇ? えぇぇっ?」
そそそ、そんな擬音語つけなくてもっ!
「おや? もしかして想像しちゃいました?」
「そんなことないよっ」
「それとも嫉妬してくださっているのですか?」
「そんなことあるわけないっ」
「それはそれは。とても残念です」
くぅぅっ。
ニヤニヤしやがってぇ……。
「買い物の続きをしましょうか。次はなんでしたっけ?」
「……とまと」
「おや。カオルさんと同じように真っ赤なトマトがたくさんありますよ」
「うきゃーっ! やめ、もうやめ! いじわるナシっ。ごめんなさいっ」
過去を探らないようにしますっ!




