コーヒーは甘くないとねっ♪
姉さんと二人でリビング。サイテンはお風呂。
ボクは、熱帯魚を眺めていて、姉さんは新聞片手にテレビだ。テーブルの指定席に座って、いつものようにNHKのニュースをボーっと聞きながら、いつものように新聞の一面、二面、三面記事を読んで、いつものように少し苦めのコーヒーを飲んでる。いつものように二十一時前に流れる明日の天気を調べるまで、姉さんのこの状態は続く。
熱帯魚ってのは、ネオンテトラちゃんたち。三十五センチ水槽を泳ぐ彼らは、体長二センチくらい。背中はメタリックブルーで、尻尾には赤い線がある。群れで行動していて、キラキラ光ってる。綺麗で、名前を付けようとしたけど、見分けがつかなくて断念しちゃった。
同居人は石巻貝さん。水槽に生えたコケを綺麗に食べてくれるお掃除屋さんだ。黒くてまん丸とした貝で、水槽の内側にくっついている。見た目は地味で、最初は「エ゛ッ。気持ち悪い」と思っちゃったけど、一緒に生活していると、だんだん可愛く見えてくるから不思議だね。特に、うにうにと触覚を出しながら動く姿が可愛いんだ。
それからコリドラスくんもいる。ぽっちゃりとした体型が最高。ボクにとってのゆるキャラだ。しかも、アルビノ種だから白いんだ。うさぎみたいだよー。居場所は水底で、よく、ネオンテトラちゃんの食べ残しを食べてる。彼も、お掃除係りだ。
餌は熱帯魚用フレーク。少し与えてみる。これ、量が多いと食べきれない餌が病気の元になるからね。少なめにしないといけないんだ。すると、すっごく薄いから、水面に浮かんでしまった。結局、水流があるから、ひらひらと落ちていったけどね。んで、ネオンテトラちゃんたちがむしゃむしゃ食べて、底に落ちたのをぽっちゃりさんたちが拾って食べてる。可愛い。じーっと見てると癒されるよねー。
そんなゆったりとした時間が流れていると、ラジオのように流れるニュースの合間に、サイテンの、なにかよくわからない調子外れな歌が聞こえてきた。「きょっうの、ゴっハンっは、キッシュってぇ♪ 知っらない食べ物びっくりだ~♪」って。即興でテキトーに作って歌ってるよね、これ。楽しそうだねー。それに、お風呂にいるからよく響くみたい。ここまで聴こえているの気付いてるのかな? たぶん、気付いてないんだろうなー。
「楽しそうね」
「ふふっ。そうだね。サイテン、楽しそうだね」
だよね。そうだよね。
サイテンの歌、面白いよね。
「いや、サイテンさんじゃなくて。カオルよ」
「えっ? ボクが?」
「そう。サイテンさんが来てから、楽しそうよ。ずっと笑顔」
「そうだっけ? 怒ってばかりな気がする」
「自分じゃ気が付かないものよ」
「そうなの?」
「そうよ。ずっと笑ってる」
そっかー。
笑ってるんだー。
うん。確かに、サイテンといると楽しいしね。
「さっきだって、サイテンさんのこと考えてたでしょ」
「あんな歌を聴いたらねー」
「歌? そうなの? 歌ってたんだ」
「うん。お風呂で。聴こえなかった?」
「聞こえなかったわ」
「響いてたよー」
あれを知らないとは。残念。
「……まぁ、そういうことよ」
「どういうことさ?」
「まだ日が浅いし、わからないけど。たぶん、サイテンさんはイイ人よ」
「そっか。まだ、二日だっけ。なんか、ずっと前からいるような気がするよ」
「馴染んでるのね」
「そうかな?」
「そうよ」
「なら、安心かな。変に固くなられても、困るからね」
「別のところは硬くしてるわね」
「もう。そんなことは言わないの!」
「相談には、ちゃんとのるからね」
「なんのさ」
「なんでも、よ。そういえば、コーヒー。もう少し砂糖少なめでいいわ」
コーヒーを飲む姉さん。
相談ねぇ……。けれど、姉さんのコーヒー。苦いと思うんだけどなー。ボクなんか、結構甘めにしちゃうけど……。だって、甘いほうがおいしいよね? なんで苦いのが好きなのかな。人の好みっていろいろあるよねー。
「あんたは甘いほうがいいんでしょうけど」
「うん。じゃないと飲めないし」
「カオルさーん! 着替えって、どこにしまいましたっけー?」
おっ。お風呂から上がったみたいだね。
そうそう。サイテンのパジャマとか、脱衣所兼洗面所のところにあるボックスに置いたけど、勝手に探すわけにもいかないもんね。姉さんの下着だってあるんだし。サイテンにとっては一大事だねっ。
「はいはーい。今行くよー」
「すみませーん」
「サイテンが呼んでるから」
「はいはい。いってらっしゃい」
「うん。サイテン、ちょっとまってねー」
笑顔かぁ……。
いいことだねっ♪




