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7億円で、潰れかけのクラブを買いました ~数字しか見えない俺は、誰も数えない選手を集める~  作者: 猫の飼い主
第七章 線 ―― 埋める金のほうが、先に尽きる

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第87話 【速報】桧山、疲労骨折で今季絶望【うわ】

【B.ONE】潮見ブルーホエールズ 応援スレ Part77


301 名無しの潮見サポ

桧山、やっちまったな

疲労骨折、今季絶望だって


302 名無しの潮見サポ

>>301 マジか

得点王争いしてたのに


303 名無しの他クラブサポ

おじゃま

桧山、うちの若手だわ

全試合フル出場してた

……無理させすぎたんだよ、うちが


304 名無しの潮見サポ

桧山って、志水と同期だよな

冬に、比べられてた


305 名無しの潮見サポ

>>304 あー、いたな

「潮見は志水を休ませてるけど、桧山は毎試合フルで出て点取ってる」

「志水を出さない潮見は甘い」

みたいな話


306 名無しの潮見サポ

それ、俺も書いた気がする

「金ないのにトレーナー雇って、一番いい選手を使わないのか」って

Part73のころだ


307 名無しの他クラブサポ

>>303 うちのサポだけど、言わせてくれ

桧山と志水、あの冬、脛の疲労はきっと同じくらいだったんだ

潮見は志水を止めた

うちは、桧山を使い続けた


308 名無しの潮見サポ

>>307 ……


309 名無しの潮見サポ

>>307 やめてくれ

それ、気づきたくなかったやつだ


310 名無しの潮見サポ

うわ

俺、あのとき、潮見のトレーナー叩いてたわ

「金の無駄」って

……すいません


311 名無しの潮見サポ

志水、今季、怪我での離脱はゼロだぞ

休んだのは、全部、休ませたときだ

しかも後半戦、調子上げてる


312 名無しの潮見サポ

桧山は、今季絶望

志水は、無事で、伸びてる

……この差は、でかい


313 名無しの古参

Part1から見てる古参だけどな

あのトレーナー雇ったとき、俺も「金あるのか?」って思った

半年で、答えが出るとは思わなかったわ


314 名無しの潮見サポ

潮見、あのとき志水を止めてたのは……これか


315 名無しの他クラブサポ

正直、羨ましい

うちにも止めてくれる人がいたらな

桧山、まだ二十三だぞ


316 名無しの潮見サポ

>>315 それ、いちばん、こたえるやつ



その夜、Part77は、静かに伸びた。


半年前、この町は宮里澪を責めていた。金がないのにトレーナーを雇い、いちばんいい選手を、使わせない。試合を落とした。


その半年前の書き込みに今、答えがついていた。


折れなかったことは、折れた誰かが出て、初めて証明される。宮里がそう言っていた。その通りになった。



宮里は、その夜も、事務室で選手の脚の数字を追っていた。


浜口が入ってきた。手にスマホを持っていた。


「宮里さん」


「はい」


「掲示板、見ましたか」


「見ません」


宮里は数字から目を離さなかった。


「桧山選手が、疲労骨折で今季絶望だそうです」


宮里の手が止まった。



「……そうですか」


宮里はしばらく黙っていた。


それから、静かに言った。


「喜べない、ですね。こういうのは」


浜口はその横顔を見ていた。


半年前、この人は、責められていた。何も言い返さず、ただ選手の脚を数え続けていた。今、その正しさが証明されたかもしれない。だが、宮里は勝ち誇らなかった。折れたのは二十三歳の他所の子だった。



「浜口さん」


宮里は言った。


「私の仕事は、これが正解だったと証明されないほうが、いいんです」


「え」


「どこの子も折れない。それがいちばんいい。……私が正しかったって分かるのは、いつも誰かが折れたときなので」


浜口は何も言えなかった。


数字で書けない仕事のいちばん苦いところだった。半年前、宮里は言った。何も良くなっていない、志水が折れなかっただけだ、と。あのとき浜口には、半分しか、分からなかった。


今日、残りの半分が、分かった。


「宮里さん」


浜口は言った。


「来季の予算、遠征のぶんも、メディカルのぶんも。……もう、渋りません。俺が、通します」


宮里は少し驚いた顔をした。それから、小さく、頭を下げた。


「助かります。……数字で書けるように、これからも選手を折らせないので」



同じころ、要が見ていたのは、志水の離脱の記録だった。怪我での離脱は、一度も無い。休んだ日は、すべて休ませた日だった。その隣に、要は何も書き足さなかった。


これは要の手柄ではなかった。宮里が止めた。郷田が支えた。志水が耐えた。要は宮里を雇っただけだ。値をつけて、あとは任せた。それだけだった。

――最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

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