第79話 【朗報】一ノ瀬、化けたかもしれん【掌返し】
【B.ONE】潮見ブルーホエールズ 応援スレ Part75
401 名無しの潮見サポ
一ノ瀬、今日やばくなかったか
402 名無しの潮見サポ
>>401 やばかった
別人だろあれ
403 名無しの潮見サポ
この前は、一人で仕掛けて自爆してたのに
今日、一回も無理しなかった
守って、走って、合わせて
最後のアシストとか、去年のあいつからは考えられん
404 名無しの潮見サポ
ダンクのあと、ガッツポーズもせず、即戻ったの見た?
あれ、しびれたわ
405 名無しの潮見サポ
去年、俺、「性格に難あり」って書き込んだんだよ
……あの書き込みした去年の俺を、殴りたい
406 名無しの潮見サポ
>>405 俺もだ
「チーム壊すタイプ」とか言ってた
すまん、一ノ瀬
407 名無しの他クラブサポ
おじゃま
正直、こないだのデビュー見て「あーあ」って思ってた
撤回する
あの若手、役割を絞ったら、化けるやつだわ
408 名無しの解説役
横から
この二週間で、何があったか知らんが
「一人で点を取る選手」から「チームで機能する選手」に変わった
これ、簡単に言うけど、高校で40点取ってた選手には、いちばん難しい変化だぞ
409 名無しの潮見サポ
>>408 誰が変えたんだ、これ
410 名無しの潮見サポ
>>409 番場らしいぞ
一ノ瀬に、つきっきりで教えてたって
そもそも、あの子見つけたのも番場だろ
潮見工に見に行ったの
411 名無しの潮見サポ
>>410 番場が見つけて、番場が育てたのか
生え抜きが、地元の子を、一人前にする
……こんなの、泣くだろ
412 名無しの古参
この前、俺は「擁護できねえ」って書いた
撤回する
……早すぎた起用は、確かにあった
でも、そのあと、ちゃんと直した
直せるクラブに、なってたんだな、うちは
413 名無しの潮見サポ
>>412 古参が撤回するの、はじめて見た
414 名無しの潮見サポ
就職蹴って来た子が、報われて、ほんとよかった
潮見工、部員7人だぞ
そっから、ここまで来たんだ
415 名無しの潮見サポ
つーか、二週間前に一ノ瀬叩いてたやつら、全員集合な
俺もいる
ごめん、一ノ瀬
416 名無しの他クラブサポ
帰る前に一つ言わせてくれ
潮見、今年なんか変だぞ
金ないのにトレーナー雇うわ、主力を予防で下げるわ、指名漏れが二週間で化けるわ
417 名無しの潮見サポ
>>416 変って言うな
418 名無しの他クラブサポ
褒めてんだよ
……たぶん
その夜、Part75は、これまででいちばん長く続いた。
去年、「性格に難あり」と書いた者が掌を返していた。二週間前、「早すぎた」と書いた者も。番場が見つけて、番場が育てた。生え抜きが地元の子を一人前にした。この町にとって、いちばん気持ちのいい話だった。就職を蹴って残った子が、報われた。それだけで十分だった。
要実の名前は、どこにも、出ていない。
一ノ瀬を早まって起用し、拍手の無いコートに立たせた男の名も。そのあと、静かに引いて、現場に返した男の名も。
要は、その夜も、事務室にいた。
浜口が入ってきた。
「一ノ瀬、良かったですね」
「ええ」
「……あの、この前の。要さんが、起用に口を出した件ですが」
浜口は少し言いにくそうだった。
「今日の活躍で、みんな、忘れましたよ。あれは、番場さんが育てた、って話に、なってます」
「それで、いいんです」
要は言った。
「僕は、間違えました」
要は続けた。
「数字で、見えた気になって、現場に手を突っ込んだ。一ノ瀬を、一度、潰しかけた。……あれは、僕の、失敗です」
「でも、直りました」
「直したのは、番場さんと、郷田さんです。僕は、引いただけだ」
要は窓の外を見た。冬の海が鈍く光っていた。
「僕にできるのは、そこまでです。いる選手を、集めること。……いつ、どう使うかは、あの人たちの領分だ。今回、それを、思い知りました」
浜口はしばらく要の横顔を見ていた。
「要さん」
「はい」
「失敗を、失敗のままにしておく人は、めずらしいですね」
「え」
「普通は、あとから自分の手柄にするんです。俺が我慢して使い続けたから、化けた、とか。……いくらでも、言える」
浜口は言った。
「要さんは、言わない」
要は少し考えてから答えた。
「言ったら、次、また、同じ間違いをするので」
浜口が出ていった。
要は手帳を開いた。一ノ瀬樹の欄。その横、二週間前に要は「起用」と書いて、線を引いて消していた。
その下に今日、要は一行だけ書き足した。
数字ではなかった。
――待つ。
要が、覚えるべきことだった。選手を集めるのは、要の仕事だ。だが、育てて、いつ出すかを決めるのは現場の仕事だ。その境目で、要は、待つ。手帳の中で、数字のつかない行がまた一つ、増えた。苅田の「残す」の、隣だった。
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