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7億円で、潰れかけのクラブを買いました ~数字しか見えない俺は、誰も数えない選手を集める~  作者: 猫の飼い主
第三章 値段 ―― 安いからです

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第42話 前夜

【B.ONE】潮見ブルーホエールズ 応援スレ Part59


412 名無しの潮見サポ

最近、体育館の壁、見たか

札がめっちゃ増えてる


413 名無しのにわか

札って?


414 名無しの潮見サポ

商店街の店の名前の板だよ

焼き鳥屋とか、魚屋とか

すすけた木の札から、手作りのプラ札まで、ばらばらに並んでる

なんか、いい


415 名無しの古参

あれな

Part30くらいの頃は、壁、真っ白だったんだぞ

スポンサーの看板、一個も無かった


416 名無しの他クラブサポ

うちの体育館、大企業の看板ばーんって並んでるけど

正直、潮見のばらばらの手作り札のほうが、なんか羨ましいわ


417 名無しの潮見サポ

席にも名前入れられるようになった

うちの子の名前、入れたわ

李濬浩のとなりの席にした


418 名無しのにわか

なんで李濬浩のとなり


419 名無しの潮見サポ

うちの子が、あの人いつも一人だからって

……泣くわ


420 名無しのアンチ

どうせフロントが金ばらまいて集めたんだろ

話題づくりのやつ


421 名無しの古参

それがな、逆らしい

フロントが集めたんじゃねえ

焼き鳥屋の親父が、商店街を回ったんだと

鍬形さんっていう、頑固なじいさんだ


422 名無しの潮見サポ

なんで急に、商店街が動いたんだ?

前は、クラブに金なんか二度と出さねえって空気だったろ


423 名無しの地元民

分からん

けど、うちの近所の店主が言うには

「あの倅が、戻ってきたからな」って

倅? 誰の倅だよ


424 名無しの解説役

知らんけど、選手でも監督でもないっぽいな

少なくとも、名前は表に出てこない


425 名無しの潮見サポ

まあいいや

とにかく屋台は毎試合売り切れ

壁は札で埋まってきた

負けても、客が最後まで帰らねえ


426 名無しの他クラブサポ

そういや、大洋が金出すって話、蹴ったんだろ?

「地方の道楽」って役員に言われたとか、地元紙に載ってたぞ


427 名無しの潮見サポ

蹴ったよ

道楽で上等だっつーの

道楽で、札が三百枚集まるかよ


428 名無しの古参

おれ、Part1から見てる古参だけどな

一つ、最近わかったことがある

昔、前のフロント、郷田さんに何も聞かずに選手を決めてたらしい

Part30の頃、地元紙にちらっと出てた


429 名無しの潮見サポ

まじかよ

じゃああの外国籍、郷田が欲しがったわけじゃないのか


430 名無しの解説役

だろうな

郷田のバスケ、本来は守備から入るタイプだぞ

編成が、現場の邪魔をしてた

……そら、勝てんわ


431 名無しの古参

今年は、ちょっと違う

郷田さん、若手の使い方、変わったよな

なんでだろうな


432 名無しの潮見サポ

Part59だぞ、これ

去年、Part30台で止まってたスレが

……なあ、なんか、始まってねえか?


━━━━━━━━━━━━━━



浜口が事務室に来た。


「オーナー。……数字、固まりました」


「はい」


「来季の開幕までは、つながりました。ぎりぎりですけど、砂は、まだ落ちきりません」


浜口はそこで紙をもう一枚めくった。


「ただ、要さん。……つながっただけです」


「はい」


「うちは、一試合やるたびに、いくらか足りてません。今年は、そこを見ないで、ぜんぶ穴埋めで済ませました」


浜口は、ペンの尻で、その紙を軽く叩いた。


「来季は、ちゃんと出します。一試合で何人入れば赤字にならないか、を」


要は頷いた。


勝った気はしなかった。埋めただけだ。穴が一つ。



浜口が帰りぎわに言った。


「そういえば。練習場の、照明」


「照明?」


「一つ、切れてたやつ、ありましたよね。冬の頃から、ずっと」


「ありましたね」


「協賛の残りで、直せます。……一つだけ、ですけど」


要は少し黙った。


一つだけ。


だが、あの日に暗かった隅が、次の練習からは明るくなる。


「直してください」


「はい」



浜口が出ていった。


要は窓の外を見た。


二月が終わろうとしていた。あと二ヶ月と少し。シーズンはまだ終わらない。


四勝三十四敗。


順位表のいちばん下は、変わっていない。


だが、壁には札が並び、席には子どもの名前が入り、練習場の隅の照明が一つ、明日から灯る。


(……あと、七つだ)


要は、そう思った。十勝までの、残りの数だった。


その勝ち方を、要は、まだ知らない。

――最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

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