第143話 うるさかったか
【B.ONE】潮見ブルーホエールズ 応援スレ Part99
701 名無しの潮見サポ
勝った
702 名無しの潮見サポ
ガルーダに
アウェイで
703 名無しの潮見サポ
三年目で初じゃないか?
去年24点差だぞ
704 名無しの他クラブサポ
おじゃま
配信で見てたけど、あの4Qの交代なに
知らん番号出てきて2本打って消えた
705 名無しの潮見サポ
三田村
うちの選手だよ
706 名無しの他クラブサポ
うちのスカウティング資料、あいつ「二分・出場僅少」で終わってるわ
打つなんて一行も無い
707 名無しの潮見サポ
>>706 それ、笑えないな
二分しか使われてなかったのが武器になってる
708 名無しの潮見サポ
つーか、なんで二分で下げたんだ
乗ってたじゃん
709 名無しの古参
そこだよ
710 名無しの古参
三田村は守れねえ
六年、それで使われなかった
だが、相手が「あそこが穴だ」と気づくまでに、少し時間がかかる
711 名無しの古参
気づかれる前に、下げた
712 名無しの潮見サポ
えっ
713 名無しの潮見サポ
待って
それって
714 名無しの潮見サポ
守れねえから使えない、じゃなかったってことか
715 名無しの潮見サポ
守らせなきゃいいんだ
716 名無しの潮見サポ
六年
六年だぞ
誰も思いつかなかったのか
717 名無しの古参
思いつくのと、やるのは違う
二分で下げるってのは、監督が怖いことをやってる
外したら「なんで下げた」って言われるのは郷田だ
718 名無しの潮見サポ
ところで焼き肉の賭け、どうなった
719 名無しの潮見サポ
>>718 なつかしすぎる
Part47だぞそれ
「逃げなかったら焼き肉な」ってやつ
720 名無しの古参
あれは昇格したら、だ
まだ三年目
721 名無しの潮見サポ
>>720 三年目でガルーダに勝ったんだが
722 名無しの古参
……そうだな
勘定は、まだ先だ
723 名無しの潮見サポ
今日バス出てたらしいな
六十人くらい
724 名無しの地元民
うちの商店街から何人か行った
焼き鳥屋の親父も行ったって
725 名無しの潮見サポ
親父、店どうしたんだよ
726 名無しの地元民
臨時休業
貼り紙に「湊川」とだけ書いてあった
727 名無しの潮見サポ
草
728 名無しの潮見サポ
初アウェイ遠征だったが、湊川のアリーナすごいな
トイレが綺麗で、椅子に背もたれがあった
729 名無しの潮見サポ
>>728 帰ってくるな
うちのパイプ椅子が悲しくなるだろ
730 名無しの潮見サポ
でも試合は、うちが勝ったんだよなあ
通路で綱島が待っていた。
負けた側が勝った側を待っているのは、珍しかった。
「番場」
「よう」
綱島はしばらく何も言わなかった。
それからこう聞いた。
「うるさかったか」
番場は少し考えた。
「前半は、うるさかった」
「後半は」
「……静かだった」
綱島は笑った。今度はうまく笑えていた。
「そうか」
「あの二分の男は、なんだ」
綱島が聞いた。
「三田村だ。六年、うちにいる」
「知らねえ」
「俺も去年まで、あいつが何ができるか、知らなかった」
番場は言った。
「教えてもらった」
「誰に」
「うちの、若いのに」
綱島は通路の壁に背をつけた。
「なあ、番場」
「ん」
「俺が残ってたら、俺も、そういうふうに使われてたのかな」
番場は答えなかった。
答えないのが答えだった。綱島はこの六年、ずっと使われ方に困ったことがない。困ったことがない選手には、そういう二分は来ない。
「……忘れてくれ」
綱島は言った。
「次は、勝つ」
「ああ」
出口の外で蒲生京介が要を待っていた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「うちの選手が、試合後に、三田村という選手の名前を検索していました」
蒲生は言った。
「出てこなかったそうです。記事が、一本も無い」
「……そうですか」
「あなたのクラブは、記事が無い選手で勝ちますね」
蒲生は言った。
「東もリー・ジュノも、一ノ瀬も幸田も。うちが検索するころには、もう使われている」
蒲生はコンコースのほうをあごで指した。
帰る客がまだ店の前に立っていた。ハンバーガー、クラフトビール、地元の菓子。負けた試合のあとで、人が金を使っていた。屋台と同じことだった。ただ桁が違った。屋台が鍬形の炭一つなら、ここは街の一区画だった。
「五千二百です」
蒲生は言った。
「客席は五千二百。年間の稼働は、百三十日」
「……試合は、三十日ですよね」
「残りの百日が、本業です」
蒲生は言った。
「ライブ、展示会、成人式、企業の総会。うちの売上の四割は、バスケをやっていない日に出ます」
要は答えなかった。
「去年、二十年かかると申し上げました。三年目ですね。……早い」
「まだ、十七位です」
「順位の話は、していません。観客が二倍、売上が三割増、離脱者がリーグ最少。うちが二十年でやったことを、三年でやっている」
蒲生は高い天井を見上げた。
「ただ、この先は、順位では上がれません。……あなた、箱の話は、いつ始めますか」
要は答えなかった。
答えられなかったというのが正しかった。潮見の体育館は五千席あって、その八割二分が損益分岐で、それ以上は物理的に入らない。要が三年動かしてきた数字のすぐ上に、動かせない天井があった。今日勝った相手の建物が、それだった。
蒲生はそれ以上は聞かなかった。聞かないことがこの男のいちばんの問いだった。
「ホームゲームは、三十日です」
蒲生は駐車場のほうへ歩き出しながら言った。
「残りの日を、誰が、あなたのクラブの売上に変えるんですか」
蒲生は振り返らなかった。
帰りのバスの中で選手は静かだった。
三田村亮はいちばん後ろの席にいた。膝に和久井が渡した紙が置いてあった。
二百四十一回ぶんの二分の記録だった。
潮見に戻った翌日、要はコーチ室に寄った。
郷田は紙を見ていた。もう次の相手の紙だった。
「郷田さん。掲示板、読みますか」
郷田は顔を上げなかった。
「八年、読んでた」
要は何も言えなかった。
「無能って書かれてんのを、全部な。……それも、仕事のうちだと思ってた」
郷田はペンを置いた。
「去年から、やめた」
「なぜですか」
「褒められると、鈍る」
郷田は言った。
「負けてるときに読むのは、平気なんだよ。腹が立って、次の紙を書く。……勝ってるときに読むのが、危ねえ」
郷田はまた紙に目を戻した。
「あんたは、最初から読まねえだろ。あれは、賢い」
「……逃げてるだけです」
「同じだよ」
郷田は言った。
「読まねえ理由が、あるかどうかだ」
その夜、要は事務室で古い手帳を出した。
三年前のものだった。表紙の角が擦れている。
初めのほうの頁に、選手の名前が並んでいる。そのいちばん下に、ヘッドコーチの名前があった。
郷田学。
その横に要はあの日、一文字だけ書いていた。
「?」
当時、要にはこの男が分からなかった。有能なのか、無能なのか。八年勝てなかった監督が、駒を渡されていなかっただけなのか、それとも本当に勝たせられない男なのか。
判断できなかったから、判断を書かなかった。
要はその頁をしばらく見ていた。
三年たって、答えは出ていた。要が出したのではない。郷田が自分で出した。六年見ていた選手を自分で見つけて、自分で場面を選んで、要には言わずに使った。
要はその「?」を消さなかった。
手帳を閉じて引き出しに戻した。
――最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
続きが気になったら、ブックマークしていただけると嬉しいです。
ページ下の★評価も、続きを書く力になります。




