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7億円で、潰れかけのクラブを買いました ~数字しか見えない俺は、誰も数えない選手を集める~  作者: 猫の飼い主
第十一章 箱 ―― 箱の話は、いつ始めますか

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第141話 二分十一秒

交代の表示が出た。


背番号がコートに出ていない番号だった。この試合、一度も出ていない番号だった。


湊川のベンチが少し動いた。ベンチの端でコーチが一人、資料をめくった。めくって、途中で手を止めた。


要にはその動きの意味が分かった。三田村亮は今季、十四試合で合計六十八分しか出ていない。


相手の資料には出てすぐ下がる二分しか載っていない。


六年、二分ずつしか使われなかったことが、この一瞬だけ価値になっていた。二分の選手の資料は、二分ぶんしかない。この選手がどこから打つかを、湊川のベンチは持っていなかった。


最初のポゼッション。


黒木隼人が運んで時計を一度殺した。急がなかった。急がないことで湊川の五人をいったん、自分たちの守りの形に落ち着かせた。


それからレイにあずけた。


レイがゴール下で体を二つ引きつけた。跳ばずに位置だけで二人を自分に集めた。ゴール下が二人ぶん厚くなる。そのぶん外が一人ぶん薄くなる。


ボールが外へ出た。


三田村がトップの右にいた。誰もそこに寄っていなかった。寄る理由を、湊川が持っていなかった。打たないはずの番号のその一歩を、誰も警戒していなかった。


打った。


高い弧だった。六年、練習後のコートで誰にも頼まれずに打ち続けた弧だった。


入った。三点差。


アウェイの六十人が、一拍遅れて気づいた。


湊川が次の攻撃でゴール下を突いた。


綱島のドライブがたまたま三田村の側に来た。三田村の前を簡単に抜けた。三田村の足は動いていた。動いていたが、行き先が半歩遅れた。守れない。六年、そう言われてきた通りだった。


失点。五点差。


三田村は戻りながら下を向かなかった。守れないことは六年、分かっていた。今日守るために出されたのではないことも、分かっていた。抜かれた一本を、三田村は顔に出さなかった。


二本目のポゼッション。


今度は幸田がコーナーにいる。相手がそこに一人寄った。コーナーの四割四分を、湊川は資料で持っていた。幸田には寄れた。


その内側が空いた。


宇野匠が走りながら出した。走りながら見ないで出した。潮見の若いのが一人また、見ないで出せるようになっていた。


三田村はもうそこで待っていた。走り込む幸田と待つ三田村。二人の場所が噛み合っていた。


打った。


入った。二点差。


湊川のベンチから声が飛んだ。何を言っているかは、要には聞こえなかった。だが指が三田村を指していた。ようやく湊川が三田村を見つけた。打たないはずの番号に、ようやく名前がついた。


そこから相手が三田村を狙い始めた。


三本目のポゼッションで綱島が三田村の側に回った。守れない側を突きにきた。


郷田が手を挙げた。


交代だった。


三田村がコートから出た。狙われるその一歩手前で、下げられた。二分の中でいちばん値打ちのある一秒で、下げられた。


出場、二分十一秒。三点シュート、二本中二本。得点、六。


ベンチで三田村はタオルをかぶらなかった。


膝に手をついて息をしていた。今季でいちばん短い出場だった。いちばん短くて、いちばん意味のある出場だった。


点差は二点になっていた。


湊川のアリーナが少しだけ静かになっていた。


太鼓が鳴っていた。だがさっきまでの塊ではなかった。揃っていた音のどこかが、ずれ始めていた。打たないはずの番号に六点取られたことが、五千二百の音の拍を乱していた。


要は二階からそれを見ていた。


隣で和久井が言った。


「……私、あの二分は、出せませんでした」


「はい」


「第四クォーターの、六点差。相手がまだ気づいていない。あそこ、私の紙には無いです」


和久井はコートを見たままだった。


「郷田さんが、六年、見てたんだと思います」


六年、使わずに見ていた。使わなかった六年ぶんが、その二分のどこに出すかを決めていた。和久井の紙が二分の長さを裏づけ、郷田の六年がどの二分かを選んだ。数字が長さを測り、記憶が場所を選んだ。

――最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

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