第129話 映っても、食えねえしな
一月の中旬に機材が入った。
カメラが三台。二階の正面と、コートの両サイド。ケーブルが通路を這った。黒いケーブルが、床の境目の線の上を横切っていた。
配信の名前は佐伯が付けた。地味な名前だった。要はそれでいいと言った。派手な名前をつける気は、佐伯にも無いようだった。
最初の摩擦は宮里から来た。
「選手の動線に、ケーブルがあります」
「養生します」
「養生しても、通ります。ここ、番場さんが試合前に必ず通る場所です」
宮里は番場が通る場所を覚えていた。何分にどこを通るか。膝の管理はコートの上だけの話ではなかった。試合前の通路の一歩まで、宮里は見ていた。
要はケーブルを引き直させた。二日かかった。
郷田は何も言わなかった。
一度だけ、コートの端のカメラを見て、「あれ、俺が映るのか」と聞いた。
「映ります」
「そうか」
郷田はそれだけだった。映ることを、嫌がりも、喜びもしなかった。八年、無能と書かれ続けた男は、映ることの意味を、たぶん要より知っていた。
会員の募集は一月下旬に始まった。
月千五百円。試合の配信と、練習の短い映像と、選手のインタビュー。試合のほうは、リーグから買った許諾の範囲で、うちのカメラと、うちの実況で流す。
佐伯が告知の記事を書いた。丁寧な記事だった。丁寧すぎるくらいの記事だった。
この町の何を売るのかを、佐伯は書きあぐねているようだった。試合、とは書けなかった。試合なら、行けば見られる。リーグの画面でも、見られる。佐伯は、生配信の告知に、試合以外の言葉を探していた。探して、見つからないまま、丁寧な記事になっていた。
鍬形が、屋台の準備をしながら、要に聞いた。
「兄ちゃん。その配信ってのは、うちの焼き鳥は、映るのか」
要は、一瞬、答えに詰まった。
「……映りません」
「そうか」
鍬形は炭に火を入れた。火が赤くなった。
「まあ、映っても、食えねえしな」
それだけだった。要は笑って、通路へ戻った。笑いながら、その一言が、どこかに引っかかっていた。映っても食えない。カメラはコートしか映さない。
最初の配信は一月の最終週のホームゲームだった。
画面はきれいだった。実況の声も聞きやすかった。カメラはボールを追った。ボールだけを追った。
屋台の煙も壁の札も、画面の外にあった。カメラはコートの四隅の中だけを正確に映していた。正確に映すほど、それは、ただの下位クラブの試合になった。この町が三年かけて作ったものは、四隅の外に全部あった。
事務室のモニターで、要はそれを見ていた。
潮見ブルーホエールズが、映っていた。B.ONEの十七位のクラブが、中位のクラブと戦って、九点差で負けていた。
それが、全部だった。
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