第127話 場所だけ、変えました
年内の最終戦は、十二月の第三週だった。
相手は順位が三つ上のクラブだった。潮見はここまで十勝十三敗。去年の同じ時期より、四つ多い。四つの差を要は覚えていた。
三千四百人が入っていた。
第一クォーター、幸田は動かなかった。
コーナーに立っていた。前の試合で、二分間、誰もいないコーナーを見た男が、今日は、動かなかった。
黒木が一本目を出した。見ずに出した。幸田はそこにいた。
入った。
相手はそこに一人を寄せた。
すると、ゴール下のレイに、二人が付けなくなった。レイが押し込んだ。跳ばずに位置で押し込んだ。
相手がゴール下に戻した。
コーナーが空いた。
二本目が入った。
第二クォーターに、相手のベンチが、タイムアウトを取った。
要はその光景を記録より先に見ていた。
このクラブの試合で、相手がタイムアウトを取るのは、たいてい、潮見が離されて客が帰る前だった。相手が困って止めるのを、要はこの二年、ほとんど見ていない。困らせる側に、潮見が回ることは無かった。
後半、相手は守り方を変えた。コーナーに、最初から一人を貼り付けた。
その瞬間から、外の一枚が、消えていた。
サントスとレイが、内側で二人になった。東が外を走った。宇野がその隙間に入った。コーナーに一人貼り付けたぶん、相手は、どこかが一人足りなくなっていた。
次の一本は幸田ではなかった。宇野がコーナーの反対側で打った。
相手のベンチが、二度目のタイムアウトを取った。
第四クォーターの残り六分だった。
最後の一本はコーナーだった。
黒木が運んで、二人に寄られて、逆サイドへはたいた。東が受けて、また逆へ返した。ボールがコートを二往復した。
そのあいだ、幸田は一度も動かなかった。二往復のあいだ、ずっと、同じ場所にいた。
幸田の四本目が入った。
八十四対七十一。点差は、第三クォーターに開いてから、縮まらなかった。
幸田の記録は十二点。コーナーからの三点が五本中四本。
黒木のアシストは十二だった。今季の最多だった。
事務室で、和久井が数字をまとめた。
「幸田さんの出場時間、変わってません。十六分です」
和久井は言った。
「打った本数も、五本です。去年までと、ほとんど同じ。……場所だけ、変えました」
浜口が画面を覗き込んだ。
「それで、六点増えるんですか」
「六点と、黒木さんのアシストが四本と、レイさんのゴール下が二本ぶんです」
同じ時間、同じ本数で、場所だけを変える。それだけで、三人の数字が、動いた。
要は画面を見ていた。
この二年半、この選手は、要の紙に一度も書かれなかった。書かれないまま、四年、名簿にいた。
「和久井さん」
「はい」
「この選手、僕は、二年間、見ていました」
要は言った。
「見ていて、何も思いませんでした」
和久井は画面から目を離さずに答えた。
「私は、会ったことがありませんでした」
「……」
「会ってたら、たぶん、私も気づきません。器用な人は、目で見ると、ちゃんとやってるように見えるので」
会わなかったから、見えた。要が二年、目で見て見えなかったものが、会わずに数字だけを見た人間には、見えた。要の目と、和久井の数字は、そこで逆になっていた。
廊下で、幸田が黒木に何か話しかけていた。
黒木は、いつものように、短く答えていた。二人が並んで歩いていく後ろから、宇野が、コーナーに立つ練習をしながらついていった。
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