第123話 一枚に、全部あった
十二月の初め、和久井蒼は事務室にモニターを一台持ち込んだ。
中古だった。自分で買ってきたらしい。角が少し欠けている。浜口が「経費で落としますよ」と言うと、「安かったので」とだけ返した。落とすほどの額ではない、ということだった。
映っていたのは一枚の画面だった。
左上に勝敗と順位。その下に観客数。損益分岐との差。協賛の件数と平均額。
右側に、選手が縦に並んでいる。名前の横に、出場時間と在/不在の失点差と、直近三週間の練習の負荷。
いちばん下に、遠征の連戦二日目の勝率が、去年と今年で並んでいた。
一枚に全部あった。要が別々の紙に書いてきたものが、一枚の中で隣り合っていた。
「これ、全部、今日の朝の数字です」
和久井は言った。
浜口が画面に顔を近づけた。
「協賛のこの数字は」
「蔵本さんの日報から、自動で拾ってます」
「日報、手書きですよ、あの人」
「はい。写真を撮って、私が入れてます」
和久井はそこは自動になっていないことを隠さなかった。手書きの手帳と、一枚の画面のあいだに、和久井が一人、立っていた。その一人ぶんの手間を、この人は隠さなかった。
宮里澪が遅れて入ってきた。画面を見て、少しのあいだ黙っていた。
「これ……走行距離、入りますか」
「入ります。宮里さんの計測、形式が毎回同じなので」
「毎回同じにしてました」
宮里は言った。
「誰も見ないので、せめて、あとから見返せるようにと思って」
誰も見ないので、せめて。宮里が二年、そう思って揃えてきた形式が、今日初めて見る人間のところに届いた。宮里は、それを画面の中に見つけて、少し黙っていた。
要は少し離れたところからその画面を見ていた。
二年半、要は自分の紙にこれを書いてきた。書けるのは一日にひとつかふたつだった。今、四人ぶんの仕事が、一枚に載っている。協賛の件数の隣に、走行距離があり、その隣に、勝率がある。別々の紙では決して隣り合わなかったものだった。
「一つ、決めておきたいことがあります」
和久井は言った。
「選手の走行距離と膝の数字は、宮里さんと郷田さんと要さんだけが開けるようにします。経営の数字は、選手には見せません。……両方が一枚にあると、両方を見た人が、両方で人を測り始めます」
宮里が、少しだけ顔を上げた。反対はしなかった。
「要さん。使いにくいところは、言ってください」
和久井が言った。
「直します。これは、要さんの頭の中を、外に出しただけのものなので」
要はうなずいた。
「……いえ」
要は言った。
「僕の頭の中には、こんなに入ってませんでした」
その日の夕方、和久井が要のところへ来た。
四日前に置いていった紙の続きだった。
「幸田蓮さんの件です」
要は、その名前をこの四日で三回、記録の中に探した。
三回とも、自分の紙には出てこなかった。
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