第118話 説明できない一人
その封筒が届いたのは、十一月の下旬だった。
差出人に会社名が無かった。個人名だけだった。切手が少し多めに貼ってある。重さを量らずに、余分に貼ったような貼り方だった。
浜口が仕分けをして、要の机に置いた。「求人、出してないですよね」と言いながら置いていった。求人を出していないところに、履歴書のような厚みの封筒が来る。浜口はそれを訝しんでいた。
中身は二十二枚あった。
一枚目が手紙で、二枚目から先が、資料だった。
要は三枚目で手を止めた。
表の縦に、B.ONEの二十五クラブが並んでいる。横に、この三年の契約更改の結果。残した選手、外した選手。整った表だった。要が手で書く表とは、字の揃い方が違った。
その隣に二つの数字があった。
一つはその選手の得点とリバウンドとアシスト。もう一つは、その選手がコートにいる時間帯と、いない時間帯の失点の差。
二十四のクラブは、上の数字で残す選手を決めていた。当たり前だった。点を取る選手が残る。表を上から下まで見ても、その線は、ほとんど乱れなかった。
一つだけ、そうなっていないクラブがあった。
潮見ブルーホエールズ、と書いてある。
その行の下に、三人の名前が挙げてあった。
東悠真。李濬浩。それから、苅田悟。
要は資料を最後まで読んだ。
やり方は要のものとは違っていた。要は、映像を漁って、記録用紙を手で数えて、一人ずつ拾った。この資料は、公開されている数字だけを使って、二十五クラブを一度に処理していた。要が二年半かけて一人ずつ拾ったものを、この紙は、一枚の表で並べていた。
結論は同じだった。
要のやり方でも、この紙のやり方でも、潮見の選手は、同じ位置に並んだ。違うのはかかった時間だけだった。
要はその"かかった時間"のことを少し考えた。
二年半だった。映像を何百時間も見た。記録用紙を指で数えた。夜中に、一人で、事務室で。その二年半を、この紙は、公開された数字だけで十数枚に畳んでいた。速さは比べものにならなかった。
だが、結論は同じだった。
同じ結論に、別の道から着いた人間が、この町の外にいた。要は、そのことを恐れる前に、少しだけうれしいと思った。二年半、一人で歩いた道の隣に、別の道があった。それが分かっただけでも、この二十二枚には、意味があった。
最後の一枚にこう書いてあった。
このモデルで、潮見の判断のうち二十一件は説明がつきました。
一件だけ、説明がつきません。苅田悟です。
この選手は出場時間がほとんどありません。母数が足りず、私の手法では何も出ません。にもかかわらず、潮見は二年続けて契約を更新しています。
残した理由が知りたいです。
その下に名前があった。
和久井蒼。
年齢と、簡単な職歴が、四行だけ書いてあった。履歴書としては薄かった。自分のことは四行しか書いていない。二十一枚を、潮見のことに使って、自分のことは、四行だった。
連絡先の下に一行だけ添えてある。
待遇の希望はありません。
要は、その紙を机に置いた。
置いてから、しばらく椅子から立たなかった。窓の外は、もう暗かった。
二年半、要が誰にも説明せずにやってきたことが、外から正確に名前を付けられていた。名前を付けられて、その上で、一件だけ、名前を付けられずに残っていた。苅田悟。要にも、説明できない一人だった。
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