第116話 【相談】札の壁、並べ替えるって話が出てる【町の話】
【B.ONE】潮見ブルーホエールズ 応援スレ Part87
88 名無しの潮見サポ
壁、また増えてない?
つーか札のサイズがバラバラになってる
89 名無しの潮見サポ
>>88 段ができたらしい
3000円/5000円/10000円
デカい札の店は、金出してるってこと
90 名無しの潮見サポ
えぐい商売してんな
91 名無しの地元民
えぐいっていうか
これ、いいのか?
92 名無しの潮見サポ
>>91 何が
93 名無しの地元民
金額が見えるってことだろ
うちの近所の店、三千のままなんだけど
この前「うちの札、小さいままで悪いな」って言ってた
94 名無しの潮見サポ
それ、言わせちゃだめなやつじゃん
95 名無しの潮見サポ
待って
並べ替えようって話が出てるらしいぞ
大きい順に
96 名無しの地元民
それはやりすぎ
97 名無しの潮見サポ
入口正面が一万で
いちばん奥の、いちばん小さいのが米屋だろ
98 名無しの古参
そうだ
99 名無しの潮見サポ
米屋って、昔いちばん出してた店じゃなかったか
100 名無しの古参
いちばん出してた
101 名無しの古参
で、いちばん損した
102 名無しの潮見サポ
……
103 名無しの潮見サポ
そもそも、あそこが五百円しか出さなくなったのは誰のせいだ
104 名無しの古参
大洋だよ
105 名無しの古参
協賛金だけ持ってって、礼の一つもなかった
返せとも言わずに東京帰った
106 名無しの潮見サポ
切ったのはどこの誰だったっけな
107 名無しの潮見サポ
>>106 やめろ
今日はその話じゃない
108 名無しの地元民
関係あるよ
あの五百円は、五年前の傷なんだから
109 名無しの潮見サポ
話変わるけど
今の営業の人、大洋の人だったらしいな
110 名無しの潮見サポ
は?
敵じゃん
111 名無しの古参
違う
切られた側だ
撤退のとき協賛金返せって社内で言って、それで名簿に載った人だ
112 名無しの潮見サポ
……
113 名無しの潮見サポ
それを聞くと、悪く言いにくいな
114 名無しの潮見サポ
いや、でも
順番つけたのは、その人だろ
115 名無しの地元民
>>114 それはそう
116 名無しの潮見サポ
善人だから正しいってわけじゃないもんな
117 名無しの潮見サポ
結局どうすんのこれ
118 名無しの古参
知らん
うちらの町の話だ
クラブに決めさせる話じゃねえよ
119 名無しの潮見サポ
>>118 それは、たしかに
焼き鳥屋から呼ばれたのは、その週の火曜だった。
呼んだのは鍬形で、来いと言われたのは、要と蔵本の二人だった。
店にはまだ客がいなかった。
鍬形は、いつものように、炭を返していた。
「壁の話は、聞いた」
「はい」
「並べ替えろって言ってんのは、去年うちらが頭下げて回ってたとき、一枚も出してなかったとこだ」
鍬形は言った。
「あれは、放っとけ」
蔵本が口を開いた。
「鍬形さん。私は」
「言うな」
鍬形が遮った。
「あんた、また自分のせいだと思ってんだろ」
「……」
「大きさで決めてんのは、うちらだ」
鍬形は火箸を置いた。
「あんたは、選べるようにしただけだ。選んだのは、俺だ」
鍬形は、串を一本、火にのせた。
「俺が五千にしたのはな。クラブのためが半分で、あとの半分は、米屋より小さいのが嫌だったからだ」
鍬形は言った。
「それは、俺の恥だ。あんたのせいにすんな」
店の中がしばらく静かだった。
「それに、な」
鍬形が言った。
「小せえ札が恥ずかしいってのは、どういうことだと思う」
要が顔を上げた。
「その札に、値打ちがあるってことだ」
鍬形は言った。
「三年前、うちらの札は、一枚も無かった。壁は、ただの壁だ。……無いのは、恥ずかしくもなんともなかったろ」
要は答えなかった。
答えられなかった、というほうが近かった。
「一つだけ、頼みがある」
鍬形は言った。
「並べ替えは、やめさせろ」
「はい」
「掛ける場所は、出した順にしろ。金の順じゃねえ」
鍬形は言った。
「早く出したやつが、いい場所だ。……米屋は、去年の暮れに出した。俺が三回通って、やっと出した五百円だ。あれより早い札は、そんなに無え」
蔵本が顔を上げた。
「あれを、奥に置いたのは、誰だ」
「……私です。大きさで、割ったので」
「なら、戻せ」
鍬形は串をひっくり返した。
「大きさは、店が決める。場所は、順番が決める。それでいい」
壁が並べ替えられたのは、その週の金曜だった。一万円の札だけは、入口の正面に残った。先に、そう言って売った場所だった。
米屋の五百円の札は、入口から三枚目に移った。
その隣が鍬形の五千円だった。四十年、隣同士の二軒が、大きさの違う札でまた並んだ。
米屋は何も言わなかった。
蔵本はその店には行っていない。行かないと要と決めていた。
十一月の第三週、ホームゲームの日。
一万円の段を選んだのは、最終的に六軒だった。鉄工所と、造船の下請けだった会社が、そのうち二つを占めていた。
山根鉄工の十一人は、入口正面の札の下に座っていた。
試合後、蔵本が事務室に戻ってきたのは、九時を回ってからだった。
鞄を置いて、椅子に座って、しばらく動かなかった。
「山根さんが、来てました」
蔵本は言った。
「三十年、あの人が試合を観に来たのは、初めてだそうです。下請けのころは、券をもらっても、行かなかったと」
「……なぜ来たんですか」
「聞きました」
蔵本は手帳を開いた。
「金を出したからだ、と言われました。出した金がどう使われるか、見に来た、と。……それだけです」
浜口が遅れて入ってきた。
「掲示板、荒れてましたよ」
「はい」
「途中から、大洋の話になって、蔵本さんの話になって、最後は『クラブに決めさせる話じゃねえ』で終わってました」
浜口は言った。
「……あれ、うちの掲示板ですよね」
「そうです」
「町の会合みたいでしたよ」
要はその報告を机で聞いていた。
「浜口さん」
「はい」
「三年前、あの板には、うちの悪口しか書いてありませんでした」
要は言った。
「今は、町のことで揉めてます」
その夜、要は帰る前に、通路の壁を見た。
入口から三枚目に、小さな木の札が掛かっていた。
大きさは、周りの半分もない。
だが、そこが、いちばん人の通る場所だった。
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