第101話 【朗報】うちら、二年ずっとハンデ戦してた?【外国籍】
九月下旬。開幕。
体育館の裏で、要は選手が出ていくのを見ていた。マーカス・レイは、最後から二番目だった。膝に、テープが二重に巻いてある。宮里がそこを一度だけ手で押さえた。レイは何も言わずに通路へ出た。
第一クォーターの最初の交代だった。
郷田が三人の名前を呼んだ。
ダリオ・サントス。マーカス・レイ。李濬浩。
三人が同時にコートに立った。
相手のベンチが動いた。
要にはその動きの意味が分かった。去年まで、潮見と当たるクラブは、ゴール下のサントス一枚に二人を当てておけばよかった。潮見の外には脅威がいない。中を潰して、外へ回して、また中へ回す。その往復で潮見は崩れてきた。二年間、ずっとだった。
今日は、その一枚が、消えていた。
レイがゴール下に立ち、サントスが一歩外へ出る。相手が中へ入ろうとすると、二人が同時にそこにいる。外へ回すと、李濬浩が走って戻っている。
第二クォーターの半ばに、要が気づいたことが一つあった。
東悠真が二人ぶん走っていなかった。
去年まで、外の穴を埋めていたのは東だった。中が抜かれれば東が戻り、外が空けば東が出る。第四クォーターの東の足が止まるのを、要は二年、見てきた。
今日の東は自分の相手の前に立っているだけでよかった。それだけで足りていた。
点差は第二クォーターに開いた。
そして、そこから縮まらなかった。
派手な逆転はなかった。ブザーの前の一本もなかった。相手が追い上げようとするたびに、内と外のどちらかで止まる。十二点差が、十四点になり、十点になり、また十三点になる。
そういう試合を、潮見はこの二年、一度もしたことがなかった。
最終スコアは七十八対六十五だった。
三千二百人が入っていた。屋台は売り切れていた。試合後のコートで、一ノ瀬樹が子どもを並ばせて、かけっこの列を作っていた。宇野匠がその隣で笛を持っていた。
番場剛は、ベンチから立って、コートの五人を見ていた。十八年目の男は何も言わなかった。
【B.ONE】潮見ブルーホエールズ 応援スレ Part83
201 名無しの潮見サポ
開幕勝ち
しかも内容がいい
202 名無しの潮見サポ
なんか今日、殴られてる時間がなかったな
いつもの「中入られて外空いて終わり」が来なかった
203 名無しの通りすがり(にわか)
バスケ詳しくないんだけど
今日って何が違ったの? 選手一人増えただけ?
204 名無しの他クラブサポ
>>203 一人増えたのがでかいのよ
外国籍は同時に2枚、プラスでアジア枠が1枚
合計3人までコートに立てる
うちらは普通に3人立ててる
205 名無しの通りすがり(にわか)
>>204 え、潮見は?
206 名無しの他クラブサポ
>>205 サントスとリー・ジュノの2枚だけ
外国籍の枠が1つ、ずっと空いてた
207 名無しの潮見サポ
……え
208 名無しの潮見サポ
待って
じゃあうち、二年間ずっと
相手3人のところに2人で出てたってこと?
209 名無しの古参
そうだよ
210 名無しの潮見サポ
そうだよ、じゃねえよ
なんで誰も言わないんだ
211 名無しの古参
言ってたよ、ずっと
誰も聞かなかっただけだ
212 名無しの潮見サポ
郷田の采配が悪いって言ってたやつ
213 名無しの潮見サポ
>>212 俺だわ
ごめん
214 名無しの潮見サポ
去年ガルーダに24点差でやられたやつ
あれも枚数か
215 名無しの古参
あれは枚数だけじゃないが
枚数がなきゃ話にならんのも本当だ
216 名無しの潮見サポ
二年ハンデ戦して18勝してたのか、うち
217 名無しの他クラブサポ
それは普通に、監督が有能では
218 名無しの潮見サポ
で、その空いてた枠を今さら埋めたのは誰なんだ
219 名無しの古参
そこは出てこねえよ
いつも通りだ
220 名無しの潮見サポ
どうでもいい報告だが、屋台に唐揚げが増えてた
221 名無しの潮見サポ
>>220 気づいたか
222 名無しの潮見サポ
開幕勝ちの唐揚げはうまい
覚えとけ
その夜、事務室に浜口が来た。
「三千二百でした」
「はい」
「開幕にしては、いい数字です。去年の開幕は、二千七百でしたから」
要はうなずいた。
四千二百と、三千二百。千人ぶんの隙間がそこにあった。
勝ち星はその隙間を一人も埋めない。
「浜口さん。明日、商店街に行きます」
「屋台の話ですか」
「いえ」
要は言った。
「協賛の話です。……去年の三百二十七件を、来月までに、倍にします」
浜口が少し驚いた顔をした。
「倍って。……要さん、あれ、一軒ずつ回って集めた数ですよ。一人でやったら、シーズンが終わります」
「はい。ですから、一人ではやりません」
要は、机の引き出しから、古い名簿を出した。大洋重工が撤退した年の協賛企業の一覧だった。
その一枚目のいちばん下に、担当者の名前が印刷されていた。
蔵本、と読めた。
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