アイヌの船乗り
アシリレプの存在が、渡島半島のアイヌには、大分知れ渡ったようです
この後、徐々に海運に携わるアイヌが増えていきます
小樽に入港していた島本屋の船に、船頭のアシリレプを訪ねてきた者がいる
余市のコタンのものだった
彼らは、森に入るより海に出て漁撈や交易を得意としていた
アイヌが和人の船の船頭をしていると聞いてやってきたらしい
尋ねてきたのは、どうやらそのコタンの長老のようだ
長老
「アイヌが和人の店で、船頭をやっているとは、本当だったか!」
「どういう経緯で、和人の船に乗った?」
アシリレプは、徳内と自身のコタンの関係を話した
コタン内部の諍いのもとになるのを嫌って出て行く事にした
徳内の妻の伝手を頼って島本屋に、最初は水主として雇われた事を話した
長老
「どこでも同じような話はあるものだな。」
「お前を頼って、余市のコタンから人が来たら、面倒を見てくれるか?」
アシリレプ
「その者を見ないで、返事はできない。」
「仮に面倒を見るとしても、二、三年は下働きと覚悟してほしい。」
「和人の言葉を、ちゃんと話せないと駄目だ。」
長老
「……」
「分かった、いつまで小樽の港にいる?」
アシリレプ
「あと三日ほどいる。」
長老
「忙しいところ、申し訳なかった。」
「また、会いに来るかもしれん。」
事情が分からぬうちに、返事は出来ない
アシリレプは呟いた
「良い奴なら歓迎だが、小樽の繁盛を見て憧れているだけなら、叩き返さんとな。」
翌日、長老と一緒にアイヌの若者が来た
若者はセネックルと名乗った
余市は明治以前も、ニシンの漁場として知られていた
そのため、松前藩も場所を作っていた
アシリレプはセネックルに尋ねた
「なぜ、海に出たい。」
セネックル
「昔、俺たちのコタンのものは宗谷まで行ってたそうだ。」
「今は、場所に縛られて目の前の海にしか出られない。」
「そこにお前が、もっと遠くまで行ってると聞いた。」
「俺は先祖も行っていない、遠くの海を見てみたい。」
アシリレプ
「遠くに行くと、和人ばかりだぞ。」
「しかも商売をするのなら、頭の下げ方も覚える必要がある。」
セネックル
「……」
「やらしてみてくれ。」
アシリレプ
「俺の一存では決められぬ。」
「箱館で大旦那と、船頭頭に話はしてやる。」
「それで良いなら、明日から水主見習いに雇おう。」
アシリレプ、青年から目を外し、長老の顔を確かめる
長老は、黙ってうなづく
アシリレプ
(半年、人物を見て大丈夫だったら言葉と帳面を習いに行かせよう)
(大旦那経由で、ふでさんの所で冬に勉強を受け入れてもらおう)
セネックルが端緒となって、この後徐々にアイヌの船員も増えていった
セネックルが、徳内村で年下の娘から文字と帳面を習う事にびっくりするのは別のお話で
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