第2話:【伝説】カメラが捉えた『連続スノボ美技』
アインのメチャクチャOBT始まるよ〜(死んだ魚の目)
OBT二日目、午前9時。
「居合抜刀の修正パッチ、適用完了です」
江口が勢いよく立ち上がる。
「内容は!?」
「【居合抜刀】の発動条件を変更しました。『納刀状態を3秒以上維持』かつ『全身が完全静止状態』でのみ発動可能です」
「よぉぉぉし!!」
江口はガッツポーズした。
「これで終わりだ! もう高速移動も居合ダッシュも出来ん! 普通の剣技になった!」
「はい……理論上は」
「理論上って言うな」
「勝ったんだ俺たちは!!」
“サーバー解放の13時“
配信タイトル:『【アルカディア】神パッチ感謝。今から5分で壊します』
コメント欄
・いつもの
・始まった
・運営逃げて
・今日は何分持つかな
・5分って言ってるだろ!
「3秒静止かぁ」
全裸のアインが草原に正座していた。
「結構厳しいな」
「いや、“お前が静止”する必要はない」
「なるほど?」
コメント欄
・分からない
・分かりたくない
・嫌な予感だけは分かる
「つまり“地面側”を動かせば、お前は静止判定になる」
コメント欄
・?????
・何言ってんだこいつら
・地面を動かす???
ゴゴゴゴゴゴ……
アインが巨大な岩を生成した。
アインは岩の中央で腕を組み、完全静止した。
コメント欄
・儀式始まった
・また変なことしてる
・全裸で仁王立ちするな
「3」
「2」
「1」
タクミが指を鳴らす。
ギュォォォォォォォッ!!!!
岩が突然、超高速で前方射出された。
しかしゲームの判定では一歩も動いていない。
コメント欄
・!?!?!?!?
・人が止まったまま移動してる
・怖い怖い怖い
・また始まったぞ
「居合いく」
シャキィィィン!!
居合抜刀が発動。
同時に、岩が地面を削りながら加速した。
「なんじゃそりゃぁぁ!?」
周囲のプレイヤーが悲鳴を上げる。
全裸の男が直立不動のまま岩の上で草原を滑走していた。
コメント欄
・スノボだこれ
・いやホバークラフト
・滑り方がホラーなんよ
・なんで真顔なんだよ
ズズゥゥゥン!!
地面を突き破り、 フィールドボス〔ポイズンスネーク〕が出現した。
「レール発見」
コメント欄
・レールじゃねえ
・ボスを競技場扱いするな
ポイズンスネークが牙を突き出す。
アインは岩ごと直角に突っ込んだ。
「フロントサイド・ポイズンスネーク・ボードスライド!!」
ガガガガガガガガガガガッ!!!!
火花が爆発した。
巨大な蛇の体の上を全裸のアインが真横に滑走する。しかも本人はカメラへドヤ顔したまま完全停止。
コメント欄
・画面止まった!?
・止まってるのに進んでる
・情報量が多い
・ボス轢き逃げで草
・フロントサイド・ボードスライドだな
・有識者きた!!
・ちな、ボードを真横にしてレールを滑り降りる技
・調べたけど俺にはできんな
「飛び上がって攻撃するから離れとけ」
「了解」
コメント欄
・了解じゃない
・何すんだろ(諦め)
ボスを利用した即席ジャンプ台。
アインが空中へ投げ出された。
「リコーダーを咥えろ!!」
カシュン。
インベントリから飛び出したリコーダーが、アインの口に装着された次の瞬間。
空中で時間が止まった。
コメント欄
・!?!?!?!?!?
・芸術点高すぎる
・怖ぇよ!!!!
青空を背景に全裸のアインがエビ反り姿勢で完全静止していた。
しかも口にはリコーダー。
シュババババババババッ!!!
周囲へ居合抜刀の斬撃だけが連続発生し、ポイズンバイパーが輪切りになる。
「リコーダーグラブ・メソッドエアー・WITH・エアリアル居合抜刀」
コメント欄
・名前長ぇよ
・なんで空中で静止判定なんだ
・リコーダー関係ある?
・芸術作品やめろ
・メソッドエアー・グラブだな
・ちなみにどう言う技?
・有識者カモン
・空中で体を大きくエビ反りさせるスノボの花形技なんやけど状態がおもろすぎるwwwwww
・アインぐらいの身体能力がないとできねぇよ
“現在の運営チーム”
「「・・・・・」」
江口がゆっくり振り返る。
「佐藤」
「はい」
「空中で静止してたぞ」
「してましたね」
「なんで!?」
「リコーダー装備モーションが、1フレームだけ全身硬直扱いになります」
「修正しろ」
「学校イベント用アイテムで初期設定がこうなので。」
「なんで学校イベント作った!?」
「僕が酔った勢いで……」
「お前ェェェェ!!」
“2時間後“
「アイン」
「ん?」
「山脈から街まで距離測った」
「いけるか」
「理論値では」
コメント欄
・また理論値
・理論値を信じるな
・大技希望
・トリプルコークトリプルコーク1080らへんが来たら嬉しい
・断崖絶壁
アインは岩の上で静止していた。
「1フレームでもズレたら死ぬ」
「余裕」
コメント欄
・死亡フラグやめろ
・さあ何が来る!!
ギュォォォォォォォッ!!!!
岩が山脈から射出された。
“数分後”
始まりの街。
「……なあ」
「ん?」
「空に何かない?」
青空の彼方に小さな黒い点。
それは超高速回転しながらゆっくり街へ近づいてきていた。
コメント欄
・来た
・飛来物確認
・怖い怖い怖い
・なんだこれ!?
・有識者が困ってる
「行くぜぇぇぇ!!!」
豆粒サイズの全裸がドリルのように回転しながら降下してくる。
高度50メートル。
「着地いける!」
その瞬間。
「「あ」」
コメント欄
・あ
・死んだな
・大事故確定演出
・有識者がそう言うからそうなんだろう
・南無阿弥陀仏
回転軸が崩壊。
時速200kmの慣性エネルギーを維持したまま全裸アバターが地面へ激突した。
激しくバウンドしながら、
始まりの街の中央噴水へ一本の矢のように垂直落下した。
コメント欄
・芸術点高すぎる
・噴水エンドwwww
・足だけ出てるwwww
・何回転してたんだ
・有識者が困ってる
・自分オリンピックの実況やってた時期があってめっちゃ回ってた
・名付けるなら?
・一体何回転してたんだ…
・名付けるなら「2500コーク・9000」かな
・すげぇ名前してんな
・オリンピックの実況者まで見てる実況ってなんだ…
・有識者が引いとる
・解説席が黙ったぞ
・競技判定不能
美しい街並みの中、噴水から全裸の足だけがバタバタ動く。
ピタッ。
“現在の運営チーム”
「「・・・・・・・・・・」」
「江口さん」
「なんだ…」
「今SNSで『居合スノボー』が世界トレンド1位です」
「そうか」
「あと海外で『SAMURAI SNOWBOARD』としてミーム化してます」
「そうか…」
「追加パッチ作りますか?」
江口はしばらく虚空を見つめていた。
やがて机の引き出しを開ける。
そこには、なぜか業務用サイズの胃薬。
コメント欄付き監視モニターには、
噴水に上半身が埋まったままピクリとも動かない全裸アインが映っていた。
江口は無言で胃薬を掴む。
バリッ。
「江口さん!? 飲まずに噛んでます!!」
バリバリバリバリ。
「やめてください!! それ錠剤です!! ガムじゃないです!!」
「……佐藤」
「はい」
バリバリ。
「俺はな」
ボリボリ。
「普通の」
ガリッ。
「ファンタジーRPGを」
バリバリバリ。
「作りたかっただけなんだ……」
「江口さん、胃薬を主食にしないでください」
モニターの中では、
噴水から生えた全裸の足が、
再びピクピク動き始めていた。
コメント欄
・復活したwwww
・ゾンビかよ
・足だけで笑う
・運営の救助待ち
・皆さんはスノーボードは安全にやりましょう
・説得力しかねぇ
佐藤が静かに新しいパッチノートを開く。
「……次はどう修正します?」
江口は胃薬を握り潰しながら叫んだ。
「プレイヤーたちの行動が斜め上どころか、ほぼ垂直なんだよちくしょうおおおおお!!!!」
その後胃薬15箱が消えた




