第1話:不審者、始まりの街を爆走する
OBT初日、13時
現在注目されている次世代VRMMO『アルカディア・プロジェクト』のサーバーが開放された。300台の専用フルダイブ型VRセットの応募倍率が約35万倍に達するほど注目されている。(サーバーが何度も死にかけた)
「良し! 基本4職(剣士・魔術師・鍛冶屋・錬金術師)のみのシンプル設計。物理エンジンもバニラ(綺麗)で安定している。これなら完璧な健全プレイが生まれる!」
ディレクターの江口は、水なしで胃薬を飲み下しながらガッツポーズを決めていた。だが、その夢はわずか1時間後に、一人の天才バグ愛好家によって粉砕されることになる。
「江口さん、見てください!」
「なんだ?まだうさぎ狩りまでしか進んでいないのか?」
「そうであったらよかったのですが。アインという魔術師プレイヤーが始まりの街を時速200kmで滑走し、初心者エリアのうさぎをひき逃げし続けています」
メインプログラマーの佐藤が、死んだ魚の目でモニターを指差した。
「はあ!? 魔術師が時速200kmで走れるわけねえだろ! どんなチートだ!」
「チートじゃないです。仕様です。完璧に僕の書いたプログラム通りに動いています……」
「今すぐモニターに映せるか?」
「今やってます」
"開始直後"
動画サイトに一本のライブ配信が始まった。『【アルカディア】OBT初日!アイン、アルカディアの地に立つ』
「脱ぐか」
コメント欄
・第一声が脱ぐかってwwwww
・さすがアイン様www
・草
「これ最初のスキルが3つあって【背水の陣】と【居合抜刀】と【土魔術・岩生成】」
コメント欄
・魔術師選んだんだな。今回は魔法使いプレイか
・初期スキル3つ選べるの神仕様だな。何にした?
・魔術師だからハズレじゃね?
・……ん? 魔術師なのに居合?
“40分経過後“
「この『朽ちた刀』って剣士じゃなくても装備出来んのよ。」
コメント欄
・他の人の配信とかみたけど攻撃力0のネタアイテムだぞ
・もしかしてタクミ案件?
・タクミ案件だったら気になる
「察しの通りタクミ案件でまずタクミが精錬したこのゲロスープを飲みます」
コメント欄
・それ継続ダメのゴミだぞ
・↑HP調整だろ
・背水の陣の発動条件ってやっぱHP系?
・もしかして背水の陣か?
・色からして人が飲むものではない
「・・・・クソまずい」
「アイン、HPが1になったから背水の陣準備できてるからいつでもいいぞ」
コメント欄
・HP1ってマジか
・でもお強いんでしょ
・タクミ案件キタァァァ
・でもお高いんでしょみたいなこと言うなww
・逆に味が気になる
「居合抜刀で防御貫通を発動させて背水の陣で強制的に攻撃力を生み出すバグ技だ!!」
「早くボスと戦うぞ」
コメント欄
・え?草原だけど
・ボス部屋は?
・エリアボス的な?
・それだ!
・天才か
シャーッ
〔エリアボス:ポイズンバイパー〕
コメント欄
・やった!予想的中!!
・つよそ〜
・バンツ一丁VSエリアボスは草
「くらえ!!」
シャキィィィン(いい音)
その瞬間ポイズンバイパーが一刀両断された
コメント欄
視聴者一同:は?
・強くね
・これはナーフ案件ですわ
・『悲報』アルカディア1時間で壊れる。
・同接15万越えだぞ
「おい、アイン。居合抜刀を痙攣してる感じの高速でやってみてくれ」
コメント欄
・でた怪文書
・腕がいかれるぞ
・平然と痙攣を要求するタクミ
・いつも通りな検証班
・まだ開始1時間だぞ
ギュウウン
コメント欄
・!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
・画面バグったwwwwwwwwwwwwwww
・待って怖い怖い怖い!!!!!!
・走ってない!!! 残像引きながら全裸がスライド移動してくる!!!
・腕の往復の残像で何も見えねえwwwwwwwwwww
・直立不動で腕だけマッハで振って爆走してくる全裸の魔術師(時速100km)
・↑どんなホラーだよwwwwwwwwwwww
・どこ行くねんwwwwwww
・うさぎを轢き殺すなwwwww
・轢き逃げじゃねぇかw
“現在の運営チーム“
「「・・・・・」」
「え、江口さん? ストレスで胃が破裂しましたか? 意識ありますか?」
「……おい佐藤、俺の目が狂っていなければ、大画面モニターに『全裸の魔術師が凄まじい風切り音を立てて爆走している映像』が映っているんだが、これは一体どういうバグだ?」
「攻撃スキルで高速移動するなァァァ!!」
「江口さん、仕様です。奴、初期スキルの【居合抜刀】を発動した瞬間の1フレームに存在する『前方に0.5メートル高速移動する』というシステム内の数式(判定)だけを、美味しく盗み食いして移動しています」
「意味がわからないんだが!? なんで走るモーションすら起きてないんだよ! 直立不動だぞあいつ!!」
「剣が鞘から完全に抜き放たれる前に、現実の肉体で『納刀』のキャンセルを挟んでいるからです。その結果、抜刀バフの防御貫通フラグと、前進した慣性だけがシステムに残る……。それを腕で、1秒間に数十回往復も痙攣?させることで強引に繋いでいます。完璧にプログラム通り(数式通り)に動いています」
「あははははは!!! 腕の動きどうなってんだよ!! 卑猥すぎるだろ!! なんでボス戦が1秒で終わるんだよバカ!! 腹痛ぇーーはははははは!!(机をバンバン叩きながら大爆笑)」
「笑ってる場合ですか、江口さん。追記パッチ、実装します。徹夜です。これで明日は普通のファンタジーRPGに戻るはずです……」
「プレイヤーたちの行動が斜め上どころか、ほぼ垂直なんだよちくしょうおおお!!」
運営チームとバグ愛好家たちの、垂直すぎる戦争の火蓋は、まだ切って落とされたばかりであった。
なんだこれ。(自分に引いてる)




