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第96話

エミリアとジルティナの決闘開幕。

 エミリアもパーティーの行く末を見守りながら、ジルティナの事を見張っていた。


(ジルティナ、ちゃんと大人しくしているみたいね。それにしても貴族に声をかけられた時の対応…。本当に外面を作るのが上手いんだから。けど、事を急いては仕損じる。此処には何も知らない人達が大勢いるし、下手に私が乱心したなんて騒がれる訳にはいかない。だからジルティナを見張りつつ、決闘の時まで大人しくしてもらわないと)


 エミリアの視線に気づいたジルティナは、エミリアに近づいて声を掛ける。


「エミリア様、先程から私に視線を向けていますが、どうされましたか?」


「いえ、貴方程の麗しい方までご来場されるだなんて思ってませんでしたから、見惚れてました」


「うふふ、賛辞の言葉が上手い方ですね。貴方の方が大変麗しゅうございますよ」


 そしてジルティナは顔を近づけ、エミリアに耳打ちする。


「私が余計な事をやらかさないか見張ってるつもりでしょう?そして貴方自身も、無関係な人達の前で手を挙げる事が出来ないから見てるだけに留めている。騒ぎを起こされたくなければ、貴方も私の要求を飲んでおきなさい。いいですね?」


「分かってる。貴方こそ、ちゃんと大人しくしてるのよ」


 そしてジルティナもエミリアから離れて、人混みの中に入るのだった。




 そして夕方、パーティーが終了した為、来賓された貴族達も帰宅していく。

 その中に紛れて、ジルティナ達も内緒話をしながら城を出ている所だった。


「では、私は一旦本部で着替えてから約束の場所へ向かいます。ケールやメノウ達ももう帰って結構ですよ」


「あら、そう?なら、私の方でも情報の精査をやっておくわ」


「へいへい。それじゃあ俺達もお暇させて貰うぜ」


「えぇ。皆様、お疲れ様でした」


 そしてジルティナ達が馬車に乗って発進すると、城を出た所でジルティナとケールは転移結晶(テレポートクリスタル)を使って本部に向かう。

 そして本部に着いて自室に向かうジルティナにケールが声を掛ける。


「それで隊長、決闘の方だけど勝てる見込みはありそう?」


「そうですね。実力と練度を計算した所、私の方に勝機は向いてます」


「でも彼女の伸びしろだって計り知れないわよ。万が一の事だって…」


「その時はその時です。私もまた鍛錬を積めばいい」


「とか言って、本当はこれでもまだ本気を出す気がない癖に」


「当たり前でしょう。まだ本格的に動く時ではない以上は。では、私はこれで」


 そう言ってジルティナは足を進めるのだった。




 夜、アルテミシア城、エミリアの自室

 いつものバトルドレスに着替えたエミリアは部屋を出て、部屋の前で待ってたアラタに声を掛ける。


「お待たせ、アラタ」


「今回の決闘、本当に俺は見守るだけで良いんだな?」


「えぇ、心配しないで頂戴。私も絶対に負けるつもりはないから」


「…ふっ、言う様になったじゃないか」


「それじゃあ、行きましょう」


 そう言ってエミリアはアラタの手を取って、転移魔法を発動させる。

 そして転移した先は月明かりが降り注ぐ広い崖の上。

 そこには既にジルティナもいた。


「…来ましたか。てっきり逃げ出すかと思いましたよ」


「馬鹿にしないで頂戴。私だって王女よ。王族のプライドってものがあるわ」


「死人から奪った立場だと言うのに、随分立派な事を言うではありませんか?」


「この立場は奪ったんじゃない、引き受けたのよ。大体、貴方達が本物のエミリアを殺したと言うのに白々しいわね。それと、奪ったって言うのは、貴方達双性者(ジェミメイル)に対して言われる言葉じゃないの?」


「…私は奪ってなどいない。私はティナの顔を、思い出を、生きた証をこの身に宿したんだ。私は元々戦争ばかりのヤードガン帝国で日々の食い扶持を稼ぐ為に幼いながら戦いに身を投じていた!そんな私をティナは住処の面倒を見ながら笑顔で一緒に居てくれていた!だと言うのに、停戦協定にまで持ち込めたと思ったら、市民の暴動が起きて、そのせいで私達は瀕死の重傷を負った!だから私はティナをこの身に宿した時に誓ったんだ!こんな愚か者ばかりが蔓延る世界、この手で粛清してやると!これは私の今のこの世界に対する復讐であり、救済だ!だからお前らの事も絶対に倒す!かつての英雄の血をその身に宿すアラタ・ホシミヤを!元々は下級の階級でありながら、一気に王族にまで成り上がり、貴族階級でも冒険者でも最上層で君臨するエミリア・フォン・アルテミシアことスレイ・ワーグナーを!」


「…ちょっと分かる気がするわ。私もあの家が嫌になってた時、下手してたら、貴方と同じに成り下がってたかもしれない。でも私は、今のエミリアとしての人生を得た事で、この心は正され、人の心の暖かさを思い出し、そして国の為に生きる事を決めた。だから私もこの国を背負う王族の1人として、守るべき民への危機を排除しなければならない!」


 そしてエミリアは抜刀して構え、ジルティナも抜刀して構える。


「アルテミシア王国第1王女エミリア・フォン・アルテミシア、この剣と共に、国の脅威を打ち払う!」


「"天の笛"幹部、特殊精鋭部隊双性者(ジェミメイル)隊長ジルティナ、この汚れた世界を打ち壊し、我々の望む理想郷を作り上げる!」


 両者共に立ちすくみ、近くの木に留まってた鳥達が飛び去ったのを合図に共に駆け出す。

 そして2人の剣が交差し、ジルティナが剣を押し込むとエミリアは仰け反り、その勢いを使って足を蹴り上げる。

 ジルティナも寸でで避けて足を掴み、後ろへ投げ飛ばし、エミリアは空中に放り出される。

 そしてジルティナは炎の斬撃を飛ばすが、エミリアも空中に足場を作って回避。

 エミリアが3回転がって止まった所にジルティナが剣を振り下ろし、エミリアもバック転で回避。

 エミリアが放った光の刀身をジルティナは避け、後ろにあった数本の木々がなぎ倒されていく。


「…成程。そちらも去年の11月以来、ちゃんと腕を磨いている様ですね」


「そっちこそ、まだ手を抜いている事くらい分かってるわよ。ウォーミングアップは十分でしょう?」


「そうですね。では、こちらもギアを上げていきましょうか」


 そう言ってジルティナは虹色のオーラを解放、エミリアもオーラを解放する。

 そんな2人を見ていたアラタも思案していた。


(エミリアとジルティナ、どちらも全属性の魔法適正の持ち主。しかし、練度と経験についてはジルティナの方が上。エミリア、お前はどう覆す…?)


 ジルティナが足の裏に風を起こして円弧を描きながらエミリアの背後を取る。

 そして雷を纏った剣を振り下ろすが、エミリアは風を纏った刀身で防ぎ、それを地面に伸ばして刺して電気を流していく。

 電気が無くなったのを見計らって風を消して、ジルティナの腕を掴み、胴体目掛けて剣を振るうが、ジルティナも障壁を出して防ぎ、エミリアを蹴り飛ばす。

 エミリアが後ずさった所でジルティナは光を纏った剣を振り下ろす。

 悪寒を感じたエミリアが避けるが、刀身が振り下ろされた場所は大きく抉れていた。


「何て威力…!?ただの魔力ブーストにしては崖の下まで貫通している…!まさか…!?」


「そう。これが貴方の持つエクスカリバーの姉妹剣ガラティーンの原型にして、丘を3つ切り裂いた地形破壊の剣、魔剣カラドボルグです」


 と、ジルティナは手にしている螺旋状の刀身の剣を見せつける。


「成程。でもこっちだってエクスカリバーを持ってる。お互いの力は互角の筈…」


「いや、ただ武具に宿る力を振るうだけでは不十分。発想や応用を利かせるのは大事。貴方も冒険者をやってるなら、そこら辺分かってる筈でしょう?」


 そう言ってジルティナは刀身に炎と土を纏わせ、足元目掛けて剣を振るう。

 そして崖は崩れ、3人は崖の下へ向かって落ちていく。

 そんな状態でも3人は空中の瓦礫を伝って崖下へ向かって行く。

 アラタは遠くへ行ってしまったが、3人は生い茂る森の中へ着地していった。


「何ていう威力…!?まさかあんな広い崖が一気に崩れるだなんて…!?」


「伝説の武具はただその力を振るうだけでは足りない。発想を転換して工夫を促し、魔力を初めとした要素で応用を利かせ、その性能を更に引き出す。それでは、このカラドボルグの前で、塵と化しなさい!」


 ジルティナが剣に水を纏わせ突きを繰り出し、エミリアも避け、木々も数本なぎ倒されていく。

 そしてジルティナは風を纏った刀身を横なぎ、エミリアも跳躍し、ジルティナの目の前の木々が土煙を立てて倒れていく。

 エミリアが着地すると、ジルティナが土煙の中から剣を振り下ろし、エミリアも防ぐ。

 そして何度も斬り結んでいくが、エミリアの足元が凍り付き、エミリアもそれに気を取られる。


「しまっ…!」


「カラドボルグの力を大胆に見せつければこちらに気を取られて、他への警戒が疎かになる。そしてこれにて、貴方は終いです!」


 ジルティナが刀身に光を纏わせて振るうが、エミリアも光の刀身で防ぎ、足元の氷も砕け、エミリアは吹き飛ばされる。

 そしてエミリアが大木に背をぶつけ、その場に倒れ込む。


「かはっ…!」


「さて、ここまで力の差を見せつければ、貴方の心も折れた事でしょう。さぁ、この剣の力の前で、塵となりなさい!」


 ジルティナがその巨大な光の刀身を振り下ろそうとした時、エミリアの意識が薄れていく。


(もう…ここまでなの…?私は…このまま…死を受け入れるしかないの…?私は…)


 その時、白い影がエミリアの前に現れ、そして彼女に語りかける。


(…?誰…?貴方は一体…?)


 目を凝らして見たその姿は、エミリアと瓜二つであった。


(貴方は…?)


<…け…いで!…イ、立…上が…!>


(あぁ、そうか…。本物のエミリアが、私に恨み言を…。そうよね…。私は…彼女の顔と立場を奪った…泥棒でしかないから…)


<お願いスレイ、立ち上がって!今は貴方がエミリア・フォン・アルテミシアなのよ!>


(何を言ってるの…?貴方は私の事を恨んでいるんじゃないの…?)


<そんな訳ない!私が死んだあの時、無念で倒れた私と国の事を思って、貴方が新しい私となった時に、私も貴方にエミリアとしての立場を託した!だから貴方を信じる私の為にも勝って!そしてこれからの未来も救って、新しいエミリア!>


(…!そうだ、私は…!)

「まだ…、死ぬ訳にはいかない…!」


 そしてエミリアは起き上がってジルティナの剣を弾き、思い切り足で突き飛ばす。


「…まさか、まだ立ち上れるとは」


「今の私は、本物のエミリアに託され、新しいエミリアとして生きる事になったのよ。そして今は私がエミリア・フォン・アルテミシアなのよ!だから私は負ける訳にはいかない!昔のエミリアに託された未来の為に!そして、皆の生きる明日の為に!」


 そう言ってエミリアは光の刀身を構え、ジルティナも構える。

 そしてお互い駆け出し、刃が交差する瞬間、エミリアの方の刀身が散ってジルティナは空振り。

 ジルティナが呆気に取られている隙に、エミリアはすれ違いざまに斬りつけ、刀身に再び光が集まる。


「ふん!その程度、どうって事は…っ!」


 ジルティナが周囲が光ってる事に気付くと、それは先程分解した光の刀身の欠片が宙に漂い、あらゆる魔力を纏わせているのだった。


「発想を転換させ、応用を利かせ、更なる性能を引き出す、だったわね?」


 そしてエミリアは駆け出し、剣に欠片を引っ付けながら、あらゆる魔力属性の刃で斬り裂いていく。

 ジルティナが負けじと全属性の魔力を刀身に纏わせ、エミリアも残りの欠片と共に全属性の魔力を纏わせる。

 そしてお互いの刃がぶつかり、周囲の木々を吹き飛ばす程の衝撃を出す。

 そして風が止み、土煙が晴れると、そこにはお互いオーラが消え、服が破れて半裸になり、全身傷だらけで剣を交えた姿勢で立ってる2人がいた。

 それからジルティナは倒れ、エミリアの傷も全て治っていった。


「まさか…!この私が…!」


「ジルティナ、確かに貴方から見たら、この世界も愚か者ばかりかもしれない。でも、それでも皆、自分の信じた未来を目指して、今を懸命に生きている!そしてお互いの心をぶつけ合い、認め合って出来た縁で世界は彩られていく!先立った人達の残した思いによって、その意志は未来へ紡がれていく!貴方みたいな、自分以外を信じようとしない人には分かり得ない事でしょうね!」


「偽物風情が…!覚えてろ!」


 ジルティナも力を振り絞って転移魔法を発動、その場から消えるのだった。


「…ふぅ」


「エミリア~!」


 と、その場にアラタが駆けつけて来た。


「ジルティナは?」


「逃げ出したわ。でも深い傷は負わせられた。あれならしばらくは動けない筈」


「その様子だと、お前も俺とアイツと同じ領域に辿り着いたみたいだな」


「えぇ。後、かつてのエミリアに激励を掛けられた」


「かつての?」


「えぇ。彼女言ってたの。私に自分の名前と未来を託したって。だから私も立ち上がる事が出来たの」


「そうか。じゃあ、帰ろうか」


「そうね。それじゃあお願い。私、もうクタクタで」


 と、エミリアもアラタに身を預け、アラタの転移魔法で帰る事となった。




 "天の笛"本部、医療施設

 治療中のジルティナにケールが声を掛ける。


「まさか隊長が敗れるなんて」


「私も彼女の成長速度を見誤ってました。まさか私がこんな失態を犯すだなんて」


「団長の方も、今回の決闘は非公式だから目を瞑ってあげそうだけど、隊長もしばらくお休みね」


「えぇ。ですがこの屈辱は忘れません。次こそは私が勝って見せます!」


「隊長も負けず嫌いだ事」


 こうして、ジルティナもエミリアへのリベンジを誓って胸に火を灯すのだった。

 これを機に、"天の笛"との戦いも苛烈を増していく事となるだろう。

エミリアも更なる領域に達した。

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