第95話
2年生の夏休みの序章。
アルテミシア学園も終業式を迎え、夏休みに入る事となった。
アルテミシア城へ帰省したエミリアも、翌日から政務の傍ら、アラタやカイト達と共に、例のパーティーの準備を手伝っていた。
「カイト、これ、パーティーの参加者のリスト。担当の者に渡して頂戴」
「分かった!」
「ハルトマリー、書類の不備が見つかったから、書いた本人に返しておいて」
「はいはーい!」
「スバル、一応医務室でも怪我人や体調不良の者がいないか確認を」
「はーい!」
「後、アラタ、リオンがこっそり混ぜた偽造婚姻届も処分しておいて」
「何でこんな物が…?」
「しっかし、夏休み早々にこの書類の量、本当にハードワークだよねぇ」
「しかも、王宮で貴族達のパーティーも開くときた。いくら何でも忙しすぎない?」
「仕方ないでしょう。城も国の中心である以上、政務も疎かに出来ない。今回のパーティーだって、アルテミシア王国の貴族達の顔合わせも兼ねてる以上、今後の交流を円滑に進める為に必要な事だもの。さぁ、皆も手を動かして!パーティーの開催だって直ぐに行われるから!」
扉のノックが響き、エミリアが返事した後に兵士が入って来る。
「エミリア様、ガルウェナー、ヴァンデグド両家のご息女をお連れしました」
「通して頂戴」
と、アリアとフェリシアが入ると、兵士も直ぐに退室する。
「エミリア様、私達も手伝いに来ました!」
「我々も貴族の端くれですので」
「ありがとう。じゃあアリアはパーティー会場、フェリシアはアルベルトお兄様を手伝って頂戴」
「はい!」
「承知しました」
と、2人もすぐさま現場へ向かっていった。
「お姉ちゃん達も手伝うよ!」
「うわっ!何処から入って来た!?」
と、何処からともなくシャーリーとネムが部屋に現れる。
「丁度良かった。なら、アルフォードお兄様の所を手伝ってくれないかしら?あの人も警備体制を整えるのに忙しくて」
「任せて!」
「では、行ってきます!」
と、2人もすぐさまアルフォードの下へ向かっていった。
「…こうして手伝ってくれる人達が現れるのは、姉さんの人望故かな?」
「そうかしら?」
「実際にそうだろう?お前だって、カリスマ性溢れるお姫様なんだから。だからこうして、民達もお前についてきてくれるんだ」
「うふふ、ありがとうアラタ」
「さぁ、仕事もさっさと片づけておくぞ!」
と、エミリア達もかなりのペースで仕事を進めておくのだった。
1週間後、皆の協力によって、パーティーの準備も完了した。
そしてアルテミシア城正門にて、貴族達の入城手続きが行われている所だった。
「はい。招待状、身分証の確認完了しました」
「こちらへお進み下さい」
「馬車の駐車でしたら、こちらの案内に従って、駐車して下さい!」
そして城に入る者達の中には、当然この者達もいた。
「はい。招待状、身分証の確認完了しました。マーティン伯爵、本日はお越し下さり、ありがとうございます」
「いえいえ、折角の招待を無下にする訳にはいかないので」
「では、ご入城下さい」
そう言って、ウィスブール一家及びジルティナとケールも中に入るのだった。
「へへっ、どうよ隊長?見事に城に入る事が出来たぜ?」
「そうですね、中々の手際です。では、私とケールは別行動を取りますので、貴方方はパーティー会場をお願いします」
「へいへい」
「了解したわ」
そう言ってウィスブール一家は真っ直ぐパーティー会場へ向かい、口元をフェイスベールで覆った藍色のマーメイドドレスのケールも人混みを離れて影の中に入り、群青色のカクテルドレスとロンググローブとハイヒールのジルティナも何処かへと向かうのだった。
パーティーホール
エミリアも来場した貴族達に挨拶回りをしていた。
「エミリア様、ごきげんよう」
「学園の方でも大変優秀な成績を修めている様で」
「聞きましたよ。Sランク冒険者になっただけでなく、伝説の剣を手に入れたとか」
「いやぁ、力と頭脳だけでなく、容姿も大変美しゅうございますなぁ」
「皆様も賛辞の言葉ありがとうございます。でも私は別に鼻にかけるつもりはございません。私は常に王族としての責務を全うしているだけなのですから」
「はっはっはっ、何とも高貴で高潔なお方だ。そう言えば、私共の方でも貴方様にお見合いの話がございまして…」
と、その時、エミリアと貴族達の間にアラタが入り込んで来る。
「失礼。彼女は今、私と交際している最中で、我々の仲については国王陛下、王妃陛下共に公認していらっしゃいます。ですので、我々の仲の間での野暮な真似はご遠慮願いたく存じます」
「星空の勇者…!?エミリア様と交際していると言う話は本当だったのか…!?」
「星空の勇者と陽光の姫君…。勇者と姫の組み合わせ…。悔しいが認めざるを得ない…!」
「国王夫妻公認となると、一貴族でしかない我々では口出し出来ない…!」
「そ、そうですな。では、我々もこれで…」
と、貴族達も去っていき、エミリアも一息つく。
「ふぅ、ありがとうアラタ。あの婚活ラッシュ、私も困ってたの。お陰であの人達もこれ以上何も言ってこなくなるわ」
「いや、何。自分の女がしつこく言い寄られてるのが、我慢ならなかっただけさ」
「うふふ、嬉しい事言ってくれるじゃないの。…ん?」
その時、会場の端に立っているジルティナにエミリアが気付く。
「ジルティナ?何で城の中に?」
「何?あれが例のジルティナか?」
そしてジルティナがエミリアとアラタの視線に気付くと、会場から離れていく。
「あっ、追うわよ!」
「あぁ!」
と、2人も慌ててジルティナの後を追った。
アルテミシア城、中庭
ジルティナと2人が中央の噴水を挟む様な位置になると、ジルティナも立ち止まって、2人も足を止めた。
「…貴方、ジルティナでしょう?」
「さて、何の事でしょう?私はそんな名前の者ではありません」
「白を切るつもり!?私が貴方の顔と気配を間違える訳ないでしょう!貴方、どうやって城に入ったの!?そして此処で何をしようとしているの!?事と次第によっては、私がこの場で斬り伏せてでも拘束させて貰うわ!」
「…やれやれ。此処が貴方の居城である以上、見つかるのは当然なのは分かってましたが、やはりこうなりますか」
そう言ったジルティナは1枚の紙を投げ、それを取ったエミリアが目を通すと、それは挑戦状だった。
「お互い事を荒立てたくないでしょう?ですので、こちらが指定した時間と場所で決闘と参りましょう」
「もしかして、私に果たし状を渡す為に、パーティー会場に乗り込んで来たとでも言うつもり?」
「そうですね。私も最強クラスの伝説の剣であるエクスカリバーを手にした貴方の事を測っておく必要がありますからね。それに、魔剣を手にした私と渡り合えるかどうかと言う事も」
「随分自信たっぷりに言うじゃない?まぁ、こちらとしても余計なトラブルを避ける為には、お互い穏便に済む方法で妥協するしかない事に変わりはないし、仕方ない。良いわ、その挑戦受けてあげる」
「感謝します。では、また改めてそちらに書かれている場所へ」
そう言ってジルティナは去っていき、姿勢が崩れたエミリアをアラタが支える。
「…はぁ~、助かった」
「エミリア、よく頑張った。そして我慢も出来たな」
「えぇ、何とかね」
「それで、決闘に行くのは良いとして、俺も一緒に来た方が良いか?」
「えぇ、お願い。流石の私も1人で行く訳にはいかないし、後で1人で帰れる自信も無いから。それに、こればかりは今は皆に黙っててくれる?今は皆に余計な心配をかけたくないから」
「分かった。だが、決闘が終わったらちゃんと言う事」
「分かってるわよ、それくらい。相手はあのジルティナ、敵の主力だもの」
「分かってるなら良い。さぁ、会場に戻るぞ」
「えぇ、ありがとうね。お陰で落ち着いてきた」
こうして、エミリアもアラタから離れ、2人はパーティー会場に戻るのだった。
ジルティナが1人廊下を歩いていると、目の前の影の中からケールが出てきた。
「その様子だと、エミリア王女に果たし状を渡せたみたいね」
「その通りです。それよりもケール、そちらの首尾については?」
「はいはーい。こっちでも兵士や城内の人員の状態を確認したし、地下空間の確認をして来たわよ」
「言われた通りの事をこなしてきた様で何より。我々も会場に戻っておきましょう」
「あら、もう此処での仕事は終わり?」
「えぇ、今回の目的はアルテミシア城の情報の更新、そしてエミリア王女の戦力の分析と把握です。ですので後は、彼女との決闘を待つだけです」
「そう。それにしても貴方も意外な事をするのね、決闘だなんて」
「それはそうでしょう。私の目的は世界の救済。国を滅ぼす事ではありません。ですので、私の方でも事を荒立てずに済む方法を実行したまでです」
「意外だわ。てっきり国落としをやりそうだと思った」
「私が"天の笛"に入ったきっかけは故郷の暴動であって、権力者にこれと言った感情はありません。さぁ、私達もこんな所で立ち話をしてないで戻りますよ」
そう言って2人はパーティー会場へ戻っていく。
こうしていく内に、決闘の時も迫っていくのだった。
次回、決闘へ!




