第94話
夏休み前のひと時。
夜、ウィスブール家屋敷、食卓
そこでは、メノウが上座の席に座り、右手側に貴族夫人のドレスを着たマーティン、左手側にメノウと同じ顔立ちの貴族夫人が座っていた。
「…かぁ~!やっぱ屋敷の中で食う飯は美味ぇ!家の中ってのは安心するもんなぁ!」
と、メノウはマナー無視な姿勢で食事を取っていた。
「メノウ様、やはり人の目が無いからと、その様なガサツな食べ方はどうかと思われますぞ」
「うるせぇ!外ではちゃんとルールやマナーを守ってんだから良いだろう!」
と、マーティンからの注意もメノウは軽く流す。
「して、メノウ様。新たな融合体の保管場所は確保しましたが、次はどの様にして、行動すればよろしいのですかな?」
と、貴族夫人はその美人な顔立ちと佇まいに似合わないいかつい男声で、メノウに今後の方針を問いただす。
「まぁ待て、ピュリファ。こっちだって王宮の連中に怪しまれない様に動いておく必要がある。あのウェインも自分に容疑が掛かる様なヘマをしたせいで、エミリア王女に感づかれた。こんな時でも目立たず慎重に、そしてヒントも残さない様に動け。だからお前の方も、変声機のメンテとチェックを欠かすんじゃねぇぞ」
「承知しました」
「そしてマーティン、例の話はどうなっている?」
「はい。そちらについても、滞りなく順調に進んでおり、王宮も承認致しました」
「そいつは結構。それなら俺達も仕掛けれらるってもんだ」
メノウは足を組んで肘掛けに寄りかかり、グラスに優雅に口をつける。
「今度のアルテミシア学園の夏休みの期間中、王宮でパーティーが開かれる。そのパーティーに俺達も出席する様、上からも指示が来ている。何の為にそんな指示を出したのかは、まだ分からねぇが、これも仕事だ。お前らも、その時までに準備を進めておけよ」
『はっ!』
「メノウ様」
と、男声のメイドが通信水晶を持って入って来る。
「本部のジルティナ隊長からです」
「繋げ」
と、ジルティナとの通信を開かせる。
<こんばんは、メノウ。そちらについては順調ですか?>
「よう、隊長。こっちも仕事は上手くいってるし、アンタが言ってたパーティーにも入れる様にしたぞ」
<それは結構。そのパーティーには私も同行しますので、その時はよろしくお願いしますよ>
「了解だ。こっちでも準備しておくから、楽しみにしておけよ」
と、その言葉を最後に通信が切れるのだった。
「…と言う訳で、マーティン、お前は隊長の偽造の身分証明書を用意しておけ」
「はっ!」
「ピュリファ、お前も隊長のドレスやメイク等の手配もしておけ。隊長に恥をかかせるなよ」
「はっ!」
「ククク、夏のパーティーが楽しみだ」
と、メノウも邪な笑みを浮かべるのだった。
それから時は流れ、7月頭。
アルテミシア学園は1年生が臨海学校に行っている間も、残った2年生と3年生は授業に励み、進路相談も受けていた。
そんな中、エミリア達は中庭でスバルの誕生パーティーを開いていた。
『ハッピーバースデー、スバル!』
「皆、ありがとう」
「去年の臨海学校の自由時間の時も思ったけど、本当にケーキだけで良いの?」
「うん、私もそんなに凝ったプレゼントは柄じゃないから、ケーキだけで充分だよ」
「何よ~?折角の主役なのよ?もうちょっと欲を出してみなさいよ~!」
と、フィーナはスバルの周りを飛び始める。
「ちょ、フィーナ。本当にあんまり煽らないで。本当に程々で良いから」
「そうよフィーナ。本人もこれで良いって言ってるんだから、あんまりうるさく言わないの。取り敢えず、今日の誕生日を済ませたら、また明日から試験勉強ね。そろそろ期末試験も近くなってるから」
『は~い!』
と、皆は誕生パーティーを過ごしていき、次の日に試験勉強に取り組むのだった。
"天の笛"本部、ジルティナの部屋
ジルティナはケールと共に、夏のパーティーに関する話をしていた。
「…と言う訳で、その日のパーティーには貴方も同行して欲しいのです」
「了解したわ。確かに直ぐ騒ぎを起こすのが目に見えてるヴァーリとファムとかは無理だし、ラフィニアとダーリンとか言った、それぞれの表の仕事に掛かり切りな人達は呼べないものね」
「えぇ。その点、貴方は騒ぎを起こさず、隠密行動に専念出来るし、誰かに見つかっても上手く流して誤魔化す事も出来る。そう言う訳ですので、当日の方は一緒に仕事して貰いますよ」
「了解。こっちもダーリンが夏のツアーに行っちゃうし、私も暇になる所だったし」
「仕方ないでしょう。ラーナは表ではカリスマアイドルとして活動している以上は」
「兎に角、私も当日に着るドレスを見ておくから、隊長もちゃんとメノウ達に見てもらうのよ」
「分かってます。これからその仕立てに向かう所ですので」
「そう。それじゃあ、私はこれで」
と、ケールも退室していった。
「…さて、私も向かわねば」
と、ジルティナも直ぐにメノウの下へ向かうのだった。
今年の臨海学校も、これと言った問題は起きる事なく、今年度の1年生達も海を満喫出来た。
そして時が流れて7月中旬、アルテミシア学園も期末試験を迎える事となった。
生徒達も思い思いに試験に取り組み、それぞれ一喜一憂の結果を残した。
そして中庭にて、エミリアは皆に労いをしていた。
「終わった~!」
「疲れた~!」
「皆お疲れ様、よく頑張ったわね」
皆もエミリアが淹れた紅茶を飲んで一息入れる。
「あ~、落ち着く~」
「やっぱりエミリアの淹れる紅茶は良いね~」
「さて、期末試験も終わった訳だけど、私も夏休みに入ったら忙しくなっちゃうのよね」
「何の話?」
「また書類仕事に掛かり切りになるとか?」
「あ~、違う違う。実は夏休みの期間中に王宮でパーティーが開かれる事になっててね。私もその準備に駆り出される事になってるのよ。そのパーティーには大勢の貴族も出席するから、城中も本当に忙しくなっちゃうのよ」
「あっ、そう言えば私もお父様から、そんな話を聞いた様な…」
「それでアタシら暗部も、その裏方の警備にも回らなくちゃならねぇんだよ」
「それで夏休みの課題と通常業務だけでなく、パーティーの準備もやらなくちゃならないものだから、私も本当に更に忙しくなっちゃうのよ」
「いや、僕達だってちゃんと手伝うよ」
「そうだよ。私の方でも教会に頼んでそっちの手伝いに行くから」
「同じパーティーメンバーなんだから、遠慮せずに言ってよ」
「ありがとう、皆。それじゃあ、パーティーの準備、手伝って貰えるかしら?」
「勿論だよ」
「それに、アラタさんだって手伝いに来るんでしょう?」
「うん、アラタにも話したら、手伝ってくれるって言ってた」
「よし、そんじゃあ、張り切ってやっちゃおうか!」
「そうしよう、そうしよう!」
こうして、夏休みの話と共に、中庭での時間も過ぎていった。
"天の笛"本部、ジルティナの部屋
ジルティナは現在、メノウと通信をしていた。
「当日のパーティーの段取りについてですが、ちゃんと頭に入ってますか?」
<抜かりねぇ。俺もマーティンもピュリファもちゃんと入念に準備している>
「そうですか。私もケールも事前準備を行っている所ですので、当日はよろしくお願いしますよ」
<分かってるよ。俺達だってそこら辺弁えてる。そんじゃあお互い、ウェインみてぇなヘマをやらかさねぇ様にな>
その言葉を最後に通信が切れ、ジルティナも部屋に置いてある剣に目を向ける。
「…これからアルテミシア城に入る以上、私も出し惜しみ無しで行く。これからこの魔剣カラドボルグを以て、今後の任務を遂行させて貰う」
と、ジルティナも真剣な眼差しで今後について語る。
どうやら今年の夏も、一波乱が起きる事となるだろう。
次の事件の予感。




