第62話
1年生の生活が終わる。
放課後、アルテミシア学園校門前
今日はホワイトデーの為、エミリアと待ち合わせしていたアラタは、彼女に小包を渡していた。
「ほら、有名な洋菓子店で買って来たクッキーだ」
「ありがとう、アラタ」
「それで、カイト達の方はどうだった?」
「カイトも頭を悩ませてカップケーキを用意して来たわ。ソーマの方はビスケットを持って来たわ。ランスロットはソーマと張り合って茶菓子のパイを用意して来たの」
「成程。アイツらもそこら辺ちゃんとしてる様で良かった」
「それでアラタはこれからどうするの?」
「実はその事なんだが、ギルドでもしばらくSランクの手を借りる様な案件は無いからって、しばらく休みを貰える様になったんだ」
「本当!?それなら私達も来週には終業式で、その後春休みに入るから、一緒にのんびり過ごせるわね!」
「そうだな。それじゃあ、お前の公務のついでに、俺が稽古をつけてやってもいいぞ」
「うふふ。それじゃあ、しばらくよろしくね」
と、2人は来週以降の予定について語り合うのだった。
それから時が流れ、アルテミシア学園聖堂にて、終業式が行なわれていた。
「皆さん、この1年間本当にお疲れ様でした。来月から1年生は2年生に、2年生は3年生に進級する事になります。これにより、2年生は勉強が更に忙しくなり、進路相談が開始される事になり、3年生も卒業後の進路に合わせて就職あるいは進学する為の忙しい日々を送る事になります。無論、その事については、我々教師陣もサポートを怠りません。ですので、来年度の新学期、更なる勉強に励みましょう」
そして終業式が終わり、生徒達も帰省あるいは寮に残る者達に分かれる。
当然、エミリア達も帰省する方であり、エミリアもアルテミシア城にて、国王夫妻へ挨拶を済ませる。
「エミリア、1年間お疲れ様」
「これから学校も忙しくなるだろうが、お前なら難無く乗り越えられるだろう。まぁ、取り敢えず、先ずは一旦休んでおきなさい」
「はい、お父様、お母様」
そしてエミリアは謁見の間を出て、自室に入る。
「ふぅ~、ようやく1年目が終わった~」
「お疲れ様~。本当に頑張ったわね」
「えぇ、この1年色々あったけど、私も身も心も成長したのを感じるわ」
「そう言う事。だから先ずは休みなさい」
そしてエミリアはこの1日、ユフィとフィーナ、そしてアラタと共にゆっくり過ごすのであった。
何処かの研究室
タケル達は、とある学者の下を訪れていた。
「人類の新たな可能性?」
「あぁ、君達異世界の人間や、それによってもたらされる技術、それらをこの世界の魔法技術と掛け合わせれば、この世界は更なる発展を遂げるだろう。魔導工学においても、君の言ってた電車等を参考に、魔導列車を初めとする乗り物等が普及されたりと言った具合にね」
「素晴らしいです。そうなれば、我がアルテミシア王国でも宣伝させて頂きます」
「でもそんな上手くいくかなぁ?それについては資金も技術者もいる筈だし、何より、賛同者を募らせる事が出来るかどうかも怪しいし…」
「そこで、君達勇者パーティーの出番と言う訳だ。君達の名声があれば人を呼び込む事が出来るし、アンリエット様がいれば、あらゆる国の重鎮達とパイプを持つ事も出来る。何より、君達の実績と信用があれば、皆も信用して、この話に賛同してくれる筈だ」
「成程。それなら僕も、アンリエットと約束してるんです。人々の生活を一緒に助けると。だから人々の生活が豊かになるなら、喜んで協力します」
「ありがとう。実は技術面以外にも、色々と出来そうな事があるんだ。魔法の術式の改善に、あらゆる存在との交信に、龍脈を初めとするエネルギーの流用。後、医学と魔術と錬金術を融合させた人類の新たなる可能性の扉だ!」
と、そこでスレイは自室のベットの上で目を覚ます。
「…500年前の記憶、今回は世界が今の形になるきっかけの内容か。でも、あの博士の言ってた研究、何か"天の笛"のアジトから持ち帰った資料に似てる様な…?」
「500年前の記憶?一体何の話だ?」
と、声のした方を振り返ると、そこにアラタが椅子に座っていた。
「アラタ!?何で私の部屋に!?」
「起きて客室から出た途端、フィーナに幻影で誘導された」
「フィーナ~!」
「や~ね~。そんな怒んないでよ~」
「…それが最近、夏頃から500年前の勇者と姫の記憶を夢で見る様になったのよ。それが何でかは、私にも分かってないわ」
「そうか。…それとお前、素顔の方もほぼエミリアになってた上に、振舞いも更にお淑やかになっていて、言葉遣いも女言葉のままになってたんだな」
「あっ…!」
「まぁ、取り敢えず、俺は出るから、早く支度済ませろよ」
と、アラタが部屋を出てった後、スレイも仮面を被って着換え等を済ませた。
昼下がり、アルテミシア城、中庭
エミリア達はアラタに稽古をつけて貰い、剣や魔法の打ち合う音が響いていた。
そして終了の合図が上がり、一同も一旦手を止める。
「そこまで!…先ずカイトは、まだ剣筋に無駄がある。技と集中力を磨け。ハルトマリーは、術式の構築と展開は申し分ない。だが接近の対策を怠るな。スバルは、攻撃も補助も対応の速度と判断は臨機応変に。最後にエミリア、お前は大したものだ。この1年で1番の伸びしろを見せ、オーラの力も発現させた。流石は、この国の王女を名乗ってるだけはある。全員、これからも精進する様に」
『はい!』
そして休憩を取っている一同の下に、1人の兵士が駆け付ける。
「エミリア様、お客様です。至急、お取次ぎをお願いします」
「えぇ、分かったわ。すぐ支度するから待ってもらう様伝えて頂戴」
「はっ!」
そして支度を済ませたエミリア達は、直ぐに客室に向かう。
「お待たせしました。…って、アーニャ?」
「こんにちは、エミリア様。本日もご機嫌麗しゅうございます」
「彼女がアルベルトから聞いたダンジョンマスターか?」
「珍しいわね、貴方から王宮を訪れるだなんて」
「はい、本日は気になる報告をしに参りました」
「気になる報告?」
「はい。あれから第4階層に挑戦する冒険者もやって来た事で、第5階層の準備を始めた時、近くに別の空間魔法を感知したんです。それで気になって調べた所、何者かが何かしらの目的で作ったものである事が判明しました。それで私もその空間の出入口まで飛んで苦情を言った所、その空間の発生主も、「中の人達の都合上消せないが、別の場所にどかすだけなら」と言って、直ぐに移動させました。まぁこちらも聞いてくれて助かりましたが、一応業務報告と言う事で伝えに来た次第です。後、その人物のローブにこんな模様が入ってました」
と、アーニャが見せた絵は、天使の羽根と光輪と十字架のエンブレムだった。
「"天の笛"…!?」
「アーニャ、その人、その空間を何処に移動させたか分かる!?」
「え?えっと、確か、北西の方へ移動させると言ってました」
「これは調査してみる必要がありそうね。アラタ、付き合ってくれる?」
「あぁ、勿論」
「レオニーにも声をかけたら向かうわよ」
こうしてエミリア達は、"天の笛"の作った空間について調査に向かう事を決める。
果たして、そこに待ち受けるものは何なのか、エミリア達はまだ知る由も無い。
次回、新たな事件が発生。




