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第63話

今回より、ダブリス編開幕。

 アーニャから"天の笛"に関する報告を受けたエミリア達は、ある程度の日数が掛かると見て、遠征の支度を行い、目的の場所へ向かう事にした。

 そしてアルテミシア王国北西の開けた場所にて、スバルは精霊に探知を頼んでいた。


「…うん、分かった、ありがとう」


「どう、スバル?」


「丁度、あの大木の根本に、空間魔法の痕跡がある。あの先に例の空間がある筈だよ」


「あそこに"天の笛"に関する何かがあるみたいだね」


「何が隠されているかは、これから調べないと分からない。…しかし、そこの2人までついて来るとはな」


 と、アラタは後方のシャーリーとネムを見る。


「そりゃそうだよ。エミリアちゃんとカイト君を守ってあげなくちゃならないし、アルフォード君からもよろしく頼むって言われてもいるからね」


「お姉ちゃん…」


「よし、こっちも解析出来たわ。入口を開けるわね」


 と、ハルトマリーが大木の出入口を開ける。


「さて、それじゃあ鬼が出るか蛇が出るか、入ってみなくちゃ分からない」


「行きましょう、この先にある物を確かめに!」


 そして一行は出入口に突入し、その先の空間に入るのだった。




 そして空間に入ったエミリア達が見たものは、大きな都市であった。


「何、此処…?何で街の中に出るの?」


「恐らくこれは、空間魔法によって疑似的に再現された都市と景色みたいだな」


「それに無人って訳じゃないみたいですよ?ちゃんと人もいます」


「街の奴らもちゃんと活気があるから、生活の保障も充分されてるみてぇだし、外と全く同じ暮らしだって出来てるみてぇだ。…どうした、エミリア?」


「おかしい…。此処、"天の笛"の関係施設の筈よね?何で都市なんて大掛かりな物を造るの?どう考えても手間がかかり過ぎてる。それに此処にいる人達、若い女性ばかりだわ」


「あっ…!言われてみれば、男性や中年に老人の姿が無い様な…?」


「何言ってんの?男ならちゃんといるでしょう?」


 と、そこに1人の女性衛兵が声を掛ける。


「え?何処にも見えませんけど?」


「何だ貴方達、正規の手続きで此処に入って来た訳じゃないのか?なら気づかないのも当然か。この街の住民達は皆、男女融合によって作られた雌雄同体の人間達の街だよ」


「えっ!?って事は貴方も!?」


「そうだよ。この街は、融合体の為に造られた街だよ。しっかしアンタら、随分と身なりが良さそうじゃない。結構良い所の人達?」


 と、衛兵は急に自分で自分の頬をつねる。


「えっ、何?何なの?」


「あぁ、ごめんごめん。彼氏彼女としての部分でやきもちを焼き合っちゃった。此処の人達は複数人分の思考や感情を同居させた状態で過ごしてるもんだから、複数の思考や感情を平行で同時処理しちゃうのよ」


『えぇ~…』


「まぁ取り敢えず、詳しい事は此処を治めている領主様に聞きなよ。案内するから」


 と、彼女の案内の下、一行は領主の下へ向かうのだった。




 そうして着いた領主の屋敷で、メイドに応接室へ案内される。

 そして現れたのは、エミリア達と同い年の、貴族令嬢用のドレスに包まれたグラマラスな肢体を持つ、茶髪のウェーブロングをハーフアップにした、可憐な貴族令嬢だった。


「初めまして、旅の方々。私はこの街の領主を務める侯爵、リザロッテ・ティナーファですわ」


「カイト・ワーグナーです」


「ハルトマリー・メティーアです」


「スバル・フェニアです」


「レオニー・ブランシェーダだ」


「アラタ・ホシミヤだ」


「シャーリー・ハプナスだよ」


「ネム・サントライトです!」


「エミリア・フォン・アルテミシアよ」


「まぁ!あのエミリア王女に勇者の血族のSランク冒険者様ではありませんか!その様な方々が、わざわざこの様な場所までお越しになるなんて!」


「私とアラタの事を知ってるなら、話が早いわ。此処がどういう街なのか聞かせて貰える?」


「はい、そう言う事でしたら。この街の名は、ダブリス。男女融合によって雌雄同体となった者達の為の街です。此処にいる者達は皆、あらゆるパターンで男女融合し、それを受け入れ、この街で暮らしているのです。そして、そんな住民達の生活を支える為に、私も領主として尽力しているのです」


「見たところ、私達と歳変わらないのに、領主をやってるだなんて意外だね」


「それはそうですよ。私は父と母と娘での融合ですから。父の頭脳で街を治め、母のスタイルをそっくりそのまま受け継ぎ、娘の若くて瑞々しい身体で更なる美貌を手にして、もう10年はこのままです」


「10年?と言う事は、この街は10年前から存在していると言う事か?」


「えぇ、この街を造った方から、統治の経験がある私に領主をやって欲しいと頼まれ、他の貴族達とも連携して、何とかこの街を治めているんですよ。それによって、この街も治安が維持され、外部との貿易も滞りなく進み、人々の生活も保ててます。…それはそうと、皆さん、本当に綺麗な方々ですね。惚れ惚れ致します」


 と、リザロッテのスカートの前部分が不自然に盛り上がり、赤面とにやけ面になって微笑んでいる自身の頬をつねった。


「失礼。父として姫様達に欲情し、母として自身に腹を立て、娘として恥ずかしくなってしまいました」


「貴方もそうなんですか。…って言うか、それで日常生活送れてるんですか?」


「えぇ、私も住民達も問題なく過ごせてますよ。さぁ、皆さん遠い所からやって来てお疲れでしょう。私の屋敷を使わせますので、どうぞ皆様、ごゆっくりこの街を見てって下さい」




 そして割り当てられた客室にて、エミリア達は密会をしていた。


「恐らくこの街は、双性者(ジェミメイル)と深い関わりを持っているわ」


「だろうな。融合魔法にだって、失敗例ぐらい存在する。リザロッテもあの衛兵も人格が不完全だった。大方、此処は融合の失敗あるいは不完全な者達を置いておく為の街だろう」


「確かに、今まで会った双性者(ジェミメイル)は、ちゃんと精神が主人格に統合されてたりもしてたよ」


「街の人達の様子、何か引っ掛かるものを感じたんで、魔力探知をしてみたら、街全体に認識を操作する魔法の結界が掛けられていた」


「成程。それで自分達が融合体である事に何も疑問や不満も抱かず過ごせてる訳だ」


「それに彼女の名字、ティナーファ。今思い出したんだけど、確か10年前に閉鎖された街の領主の名前よ。確かその理由は、街全体が急に神隠しにあったみたいに、そこにいた人達が忽然と姿を消して、調査をしてもその足取りが掴めなかったからって話だったわ」


「あぁ、それアタシも聞いた事ある。確かアルテミシア王国の辺境伯の街の話だったな。こっちも暗部として、そこら辺の情報は押さえてある」


「と言う事は、双性者(ジェミメイル)も合成獣(キメラ)も、そうやって行方不明になった人達を材料にして造られたって事だよね?」


「"天の笛"も、そんな昔から非人道的な実験に手を染めていたって事ね」


「そこら辺の裏取りだって必要よ。明日から皆で手分けして調査しましょう」


「なら、この屋敷だけでなく、例の連携している貴族達ともコンタクトを取る必要もあるな」


「それと、街全体の様子を見ておこう。1人でも認識が阻害されていない人がいないかも確認したいし」


「結界と出入口の調査もね。奴らの術式と足取りも確認しなきゃだし」


「衛兵がいるって事は、有事の際の戦力もちゃんと用意されてるって事だ。念の為、事前に把握しておく必要があるな」


「それじゃあ、明日の調査に備えて、今日はもう休みましょう」


 と、一行はそれぞれの部屋で就寝するのであった。




 そして迎えた翌朝。

 先ず早くに起きたエミリアとアラタが洗面所に向かっていた。

 そこには既に先客がおり、ネグリジェ姿で顔にクリームを塗り、髭剃り片手で髭を剃ってるリザロッテがいた。

 巨乳で可憐な貴族令嬢が髭を剃ってる姿に、2人も眠気が吹っ飛んだ。


「あ、エミリア様、アラタ様、おはようございます」


「お、おはよう、リザロッテ…」


「こっちは朝から意外なものを見たせいで、眠気も吹っ飛んだぞ…」


「あぁ、これですか?これは父としての要素で、朝起きると髭が生えちゃうんですよ。まぁ、この髭も直ぐツルツルになれる程剃りやすいし、剃ったら次の朝まで生えませんから」


「そうなの…?貴方が気にしてないなら良いけど…」


「はい。お2人も朝の支度に来たのでしょう?折角ですから、ご一緒にどうぞ」


 と、2人は困惑しながらリザロッテの隣で朝の支度をするのだった。

 それから程なくして、エミリア達の潜入捜査が開始されるのであった。

先ずは導入から。

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