第60話
3月のエピソード開始。
3月頭、アルテミシア学園
今日この時、学園では卒業式が開かれていた。
所々から別れを惜しむ涙の声が聞こえてきている。
そして今、卒業生代表のラウディーの答辞となった。
「卒業生代表、ラウディー・ビーネット。本日、この時を迎えられた事を心より嬉しく思う。我々は今、この時を以て、この学園から旅経つ事となる。中には我々がこの場から去る事を卒業生も在校生も涙ぐましく見届ける事になった者達だっている筈だ。しかし、これが永遠の別れと言う訳ではない!信じていれば、また会える時だって来る筈だ!だから我々一同、その時を迎える時が来るまでに、より一層成長を遂げておこう!そしてお互い、その成長を遂げた姿を見せて、胸を張って再会を喜び合おう!それまで皆、強く生きていこう!自分にも胸を張れる様に!」
そして卒業式は終わり、皆3年生達との別れの時が来た。
涙ぐましく別れを惜しむ者もいれば、暖かく卒業生を見送る者もいる。
在校生達にも、卒業生から記念の品を貰ったり、サインを貰う者だっている。
そしてエミリア達現生徒会も、ラウディーとリリアンと別れの挨拶をしていた。
「ラウディー先輩、リリアン先輩、今までお世話になりました」
「あぁ、そっちこそ、身体には気を付けるんだぞ」
「アイラ、トール、後の事はよろしくお願いね」
「任せて下さい。僕もアイラもレニンも、ちゃんと生徒会を守っていきます」
「うえーん!ラウディー先輩、リリアン先輩、やっぱり私は寂しいだよ~!」
「あらあら、レニンったら」
「エミリア、ウェイン。君達も引き続き、3人の事を支えてやってくれ」
「はい」
「大丈夫です。俺も仕事はちゃんとやりますんで」
「では、俺達はこれから荷造りに取り掛かる。それから準備が出来次第、メルティ王国に向かう。これから外国での生活になるが、俺とリリアンも何とかやっていく所存だ。皆も、俺達が去った後のこの学園の事、ちゃんと守っていってくれ」
「皆、風邪とか引かない様、身体には気を付けるのよ」
『はい!』
「では皆、行って来る!」
そう言ってラウディーとリリアンは皆に背を向けて進んで行った。
これから2人に、どんな困難があろうと、必ず夢を掴み取れるだろう。
そんな2人に恥じぬ様、エミリア達も生徒会に励むのだった。
それから時が流れて休日の日
王都の街道に、1台の荷馬車がやって来た。
「ほら、街に着いたよ、お客さん」
「左様か。案内感謝致す」
「良いって事よ。こっちも悪いね、護衛頼んじゃって」
「何、こちらも乗せて貰った駄賃としては丁度良かった。…して、此処はどういった場所だ?」
「あぁ、お客さん、この国に来るのは初めてかい?此処はアルテミシア王国。あらゆる文化や種族を受け入れ、それによって発展させている国だよ」
「成程。相分かった」
そう言って、その人物は馬車から降りる。
「あ、お前さん。アンタも先ず最初に冒険者ギルドに寄ったらどうだい?アンタ腕っ節は立つし、きっと直ぐに活躍出来るよ。あそこなら、宿だけでなく、色々と親切にしてくれるしさ」
「そこまで教えてくれるだなんて、誠感謝しか得ないな」
「そう言うお前さんこそ、何しにこの国に?」
「自分の世界と見聞を広める為に」
冒険者ギルド
エミリア達も現在、ギルドマスターに呼び出されていた。
「ダンジョンのリニューアル階層のテスターですか?」
「えぇ、ダンジョンマスターが魔物達の人員の見直しがてら、一部の階層をリニューアルしましてね。そのテスターをエミリア様達にお願いしたいのですが…」
「まぁ確かに、あのダンジョンとの契約と守秘義務の都合上、こちらの人員も限られますが、他にも当てはある筈でしょう?」
「いやはや、生憎、他の者達も皆出払ってる状態で…」
「仕方ないですね。分かりました、引き受けます」
「ダンジョンのテスター?一体どういう事?」
「あぁ、実は此処のダンジョン、王国と魔族領の提携で成り立っているものの1つで、テスター以外にも、ドロップアイテムの融通と、お互いのレベリング調整、潜り方の講習に、野営での実地テスト、ボス階層を使った訓練に至るまで、合同運営で成り立たせている関係なのよ」
「それ、魔族側に利害があるの?」
「あるわよ。平和なご時世でも、ちゃんと戦闘経験を積む事が出来るから」
「それ、言っちゃって大丈夫な奴?」
「当然、この話はそのダンジョンがある国の王族と冒険者ギルドのギルドマスター、そして一部の職員と冒険者しか知らない極秘事項よ。後、この話は外部に漏らしてはならない規約があるから、貴方達もこの事は絶対誰にも言っちゃ駄目だからね」
「そう言う訳ですので、準備が出来次第、よろしくお願いします」
こうしてエミリア達は、受付カウンターでダンジョンに潜る準備をする事に。
「さて、これからダンジョンに潜る訳だけど、向こうだって仕事である以上、手を抜く事は無い。当然、私達の事を殺す気で襲ってくるから、緊急脱出用の転移結晶は必須ね。後はポーションと食料等の諸々を持てるだけ。素材回収袋を忘れない様にね」
「お役所仕事の為に入るダンジョン攻略…」
「何か世知辛い世の中だね…」
「ん?確かダンジョンは一般の冒険者も攻略に来てる筈でしょ?うっかり目的の階層に入っちゃったりしない?」
「あぁ、それなら大丈夫。ちゃんと一般開放されるまで、セキュリティロックが掛かっている仕様だから。それまでは帰還用のワープゲートまでしか使えないし、テスト中の階層へ繋がる階段の扉も、ダンジョン運営の手で関係者にしか開けないセキュリティが設けられているから」
「成程~。そこら辺の管理は徹底してるんだ」
「それじゃあ、準備が出来次第ダンジョンに…」
「失礼、そこの方々」
と、そこに黒と朱色の着物を着た黒髪ポニーテールの少女が編み笠を取ってやって来る。
「私はこう言った場所に来るのは初めてでな。此処で仕事を受けるにはどうしたらいい?」
「あ、でしたら、先ずはこの受付で冒険者登録をして下さい。そうすればランクに応じたクエストが受けられますよ」
「左様か、かたじけない」
「って言うか貴方、変わった格好だけど、何処から来たの?」
「あぁ、実は私、東方の地より流れ着いた侍なのです」
「東方?確かアラタやアリアの話だと、江戸時代までの日本の様な場所だって話だった様な…」
「そんな遠い所から、何しにこの国に?」
「それについては、今後の見聞を広める為に流浪の旅に出ている所存なのです。それでこの国に立ち寄ったついでに、腕試しでもと、此処に立ち寄った次第です」
「成程。それじゃあ、詳しい事はギルドで聞いて。色々とためになるから」
「左様ですか、ありがたき幸せ。…っと、そう言えば名前がまだでした。私の名前は、花宮椿。姓が花宮、名が椿です。以後、お見知り置きを」
遥か東方の地より、この国に流れ着いた侍の少女、椿。
数奇な出会いを経たエミリア達は、その後ダンジョンに向かうのであった。
いざ、ダンジョンアタックへ。




