第57話
新たな事件が発生。
とある山岳地帯
1人の男性冒険者が傷だらけで座り込み、目の前の何かに恐怖していた。
「ひっ…!何だよこいつは!?こんな奴、見た事も聞いた事も…ぎゃあ!」
と、その何かに無惨に殺されてしまった。
後日、近隣の住民からの通報を受けた騎士団は、現場の調査をしていた。
「こりゃあ酷い。一体どうしたら、こんな事になるんだ?」
「運び込まれた死体の検証をした所、被害者は正面からやられたと言う話だが、木に付いた傷跡に、地面の痕跡、この付近の魔物にしては妙なものばかりだ。まるで、従来の生息地帯から外れた魔物が周辺をうろついている様な…」
「考察は後にしろ。今は死傷者が発生している事態なんだ。これより、緊急警戒態勢に入る。騎士団だけでなく、Bランク以上の冒険者にも声を掛けろ」
『はっ!』
アルテミシア王国は現在、騎士団の見回りだけでは手が回りきらない為、Bランク以上の冒険者にも手分けして見回りに入って貰っていた。
エミリア達も現在、街中の散策をしていた。
「それで、犯人に関する情報って何か無いの?」
「現場を検証した騎士ですら、相手は魔物なのか人間なのかすら分かってないって話よ」
「こっちも学期末試験も控えている以上、勉強の時間の確保の為に、急いで解決しないと」
「だがどうする?アタシも部下達に路地裏や下水道を張らせてるが、手掛かりが掴めていない。相手もそれなりの知能は持ち合わせているみたいだ」
「取り敢えず、レオニーも部下と連携して、引き続きそこら辺を捜索。私達は現場周辺を調査しつつ、犯人の足取りを追うわよ」
そして、街の裏側をレオニーに任せ、エミリア達は事件現場へ向かう。
「…此処にある血痕、確かに致死量を超えている。死んだのは間違いない」
「木に付いた傷跡、爪でひっかいた様な跡だけじゃなくて、巨大な噛み跡まである」
「地面の方も、巨大な力で抉った跡まである。確かに生態系から外れた魔物の線を考えるべきだね」
「まだそんなに時間は経ってないから、犯人はまだそんなに遠くには行ってない筈よ。誰か目撃者でもいれば、情報も絞り込める筈だけど…」
と、その時、近くの茂みから音が聞こえた為振り返ると、そこに顔を覗かせている者がいた。
「まさか目撃者?ねぇ貴方、ちょっと聞きたい事が…!」
エミリアが声を掛けた途端、その人物は逃げ出し、エミリア達も後を追いかける。
「えっ、ちょっ!?何で逃げるの!?私達は話を聞かせて欲しいだけなの!だから…って、え?」
そして開けた場所に辿り着き、その姿を見たエミリア達は一瞬呆ける。
その人物は、手足が猫を思わせる10代半ばの少女だった。
「貴方、もしかして獣人?それとも魔族?あっ、ごめんなさい。私達は貴方に危害を加える気はないから安心して」
「あっ、あの、助けて下さい!実は私…!」
と、その時、後ろの木々が突然なぎ倒され、そこからライオンの頭と蛇の尻尾と熊の胴体を持つ巨大な獣が現れた。
「何だこいつ!?こんな魔物、見た事ない!」
「兎に角、今はこの子を守る事が最優先!貴方も早く下がって!」
エミリア達が臨戦態勢に入った瞬間、何処かから矢が飛んで来て魔物に当たり、そしてのけぞる。
「うん、そうだね。エミリアちゃん達はその子をお願い」
「ここは私達に任せて下さい!」
そして背後を振り向くと、そこに十字架の長剣を構えているシャーリーと、赤色の弓を構えているネムが立っていた。
「シャーリーお姉ちゃん、ネム!?どうして此処に!?」
「私達にかかれば、エミリアちゃんとカイト君の所に駆け付けるのは、造作もない事だよ!」
「答えになってない…」
「そう言う訳だから、ここはお姉ちゃん達に任せて…!」
と、その時、魔物が咆哮を上げると、2人目掛けて突進して来る。
「2人を襲う悪い魔物は、私が撃ち抜いちゃいます!」
ネムが弓を構えると、炎を纏った無数の矢が魔物を穿ち、その足を止める。
「2人に及ぶ危険は、お姉ちゃんが全部消してあげる!」
そしてシャーリーが光の斬撃で魔物を打ち上げ、そして無数の光の剣を展開する。
「ちょっと待って、お姉ちゃん!それは…!」
光の剣の雨が魔物に降り注ぎ、魔物は消し炭になり、周囲の地形も大きく抉れた。
「…跡形もなく吹き飛んだ。あの2人、ホーリーナイトとアーチャーとしては確かに上位だろうけど…」
「流石に地形に影響を与える真似はやり過ぎじゃあ…」
「アイツはエミリアちゃんとカイト君を殺そうとしたんだよ?なら、これくらいの罰は当然でしょ?」
「限度ってものがあるでしょう!?あぁ、これ何て言ったら…」
頭を抱えるエミリアの手を少女が引っ張り、エミリアも振り返る。
「あっ、ごめんなさい。あの魔物はもういなくなったから安心して」
「あの、もしかしてエミリア王女御一行ですか?あの組織が言ってた…?」
「組織?まさか貴方…!」
「そこまでだ」
と、声に振り返ると、そこにケイリーが立っていた。
「そいつはうちの実験体だ。返して貰うぞ」
「ケイリー!今回の件、やっぱり貴方達が絡んでたの!?」
「半分正解、半分ハズレ。今倒された奴もそいつもうちの実験体の1つの合成獣。人間以外も素体にして混ぜ合わせて作った。しっかし、それが不味かったなぁ。動物的本能とかで暴走のリスクがあるし、今回だってそれで施設を脱走されたし、人間ベースの奴らも、それに乗じて一緒に抜け出しやがった。殺された奴については仕方ねえが、まだ生きてる奴だけでも…って、え?」
と、その時、ケイリーに向かって矢が飛んできた為、彼女も慌てて斧で斬り落とす。
「危ねぇ!いきなり何するんだ!?」
「貴方だってエミリアお姉ちゃん達の命を狙ってるんでしょう?だったら、速攻で排除しませんと」
「いや、今回は合成獣の捕獲か殺処分で、今は別にそいつらは…。って、うおっ!?」
と、シャーリーが剣を振りかぶって来たので、ケイリーも慌てて後ろに跳ぶ。
「だから人の話を聞けよ!って言うか、何笑顔で剣を振りかぶってんだ!?」
「も~、すばしっこいなぁ~。だったら…!」
シャーリーが剣に巨大な光を纏わせ、左逆袈裟斬りで地面ごとケイリーを宙に上げる。
「ネムちゃ~ん、今だよ~」
「合点です!」
と、ネムが業火の矢の雨をケイリー目掛けて降り注がせる。
「ちょっと待てぇええええ!」
そして矢の雨が止んだ後に、小規模の焼け野原が出来上がった。
「うわ~、今回ばかりは流石にケイリーに同情するよ…」
「…別方向からケイリーに向かって魔力の流れが発生していた。仲間に助けられたみたいね」
「構わないよ。何度でも私達がやっつけるから」
エミリア達から大きく離れた木の影からケールが出て来て、更にケイリーを引っ張り出した。
「危なかった…。何だアイツら、幾ら何でも容赦なさすぎだろ…」
「今回ばかりは、貴方も命の危機を感じる程だったみたいね」
「うるせぇ。それより、そっちの方は?」
「あの場にいた2体以外、人間型も獣型もちゃんと捕まえておいたわよ」
「だろうな。お前も一緒なんだから当然か」
「本当はあの人間型も捕らえたかったけど…」
「仕方ねえ。エミリア王女一行だけでなく、あのやべー2人組がいる以上、諦めるしかねぇよ」
「でも、今回の件で合成獣の事もバレちゃったわね。後で隊長にどやされるわ」
「大丈夫なんじゃねぇの?流石のジルティナも、あの連中にバレる事は承知の上だったみてぇだし」
「なら、多少は想定の範囲内と言う事ね。ほら、戻るわよ」
と、2人は転移結晶を使って、アジトに戻っていった。
エミリアは保護した少女をアレックスの国に預け、冒険者ギルドに事の顛末を報告していた。
「はい、分かりました。騎士団にも、こちらから話を通しておきますね」
そして諸々の手続きを済ませたエミリア達は、ギルド内の個室に入り、防音結界も張る。
「まさか今回も"天の笛"が絡んでいたなんて。」
「合成獣だっけ?あんなものまで作っていたなんて」
「アイツら、本当に目的の為なら、命の侮辱をためらわないんだな」
「あの時のケイリーの口振り、恐らくまだいた筈だし、彼女を助けた奴も他の合成獣を捕らえ終わったから来た筈よ」
「つまり、あんなのがまだゴロゴロいるって訳か。厳しくなるな」
「大丈夫!その時はお姉ちゃんが倒してあげるから!」
と、シャーリーがエミリアに、ネムがカイトに抱きつく。
「そうですよ!私達が全部消し飛ばしてあげますから!」
「いや、2人にやらせるとまたやり過ぎをやらかすでしょ!?」
「それについては、私達もちゃんと強くなるから!だから離れて~!」
と、エミリアもカイトも2人に苦言を言うのであった。
これからの"天の笛"との戦い、益々激しくなっていくだろう。
2人はとんでもなく強いです。




