第56話
2月のエピソード開始。
とある山岳地帯
そこにある洞窟の前に、ルミナスが降り立った。
<タケル、アンリエット!こっちも片付いたよ!>
「ありがとうシアン!こっちもドラゴンとの交渉が成功した!これで此処はしばらく静かになるよ!」
「しっかし、倒す以外にも交渉で解決って、勇者様は軽いと言うか肝が据わってると言うか」
「失礼ですよ、ライム。心優しいと言って下さい」
と、緑のウェーブロングの魔導士の少女と、銀髪のストレートロングのシスターも話に加わる。
「君達もありがとう、ライム、ハンナ。2人にも助けられた」
「いやいや、良いって事よ。…ねぇタケル、私達も旅に連れてってくれない?何か貴方達について行けば、私も更に面白い体験が出来そうだし」
「えっ、でも…」
「良いでしょ~?私が居れば、タケルも前に出ながら、私も魔法でアシスト出来るし」
「そうですね。私の回復と加護があれば、タケル様も攻めが万全になるでしょう」
「タケル様、ここはお2人のご厚意に甘えていいのでは?」
「う~ん、そうだね。じゃあ、これからよろしく、ライム、ハンナ」
と、そこでスレイは自室のベットで目を覚ます。
「…500年前の記憶、今回はこんな内容か。まぁ、それは良いとして…」
と、スレイは後頭部をシャーリーの胸に埋められ、ネムが顔を自身の胸に埋めてる構図で一緒にベッドに潜り込んでる事に顔をしかめる。
「何で2人共、私のベッドの中で寝てるのよ!」
と、スレイはベッドから追い出す形で2人を叩き起こす。
「あ、スレイ君、おはよう~。」
「スレイお兄ちゃん、おはようです~」
「「おはよう」じゃないわよ!何勝手に人のベッドに潜り込んでるのかって聞いてるの!」
「え~、別にいいじゃん、私達の仲でしょう~?」
「無断で人の部屋やベッドの中に入るなって言ってんの!この前、勝手にカイトの部屋に入って騒がれたでしょうが!」
「あの時はお互い異性だったから騒がれたかもだけど、今は女の子同士だから問題無いでしょう?」
「それ以前に2人は此処の関係者じゃないよね?だから騒がれる事になったんでしょう!?」
「関係者だよ~、私達、貴方のお姉ちゃんと妹でしょう~?」
「駄目だ、全く話が通じない…」
と、スレイは呆れながら仮面を被り、着替えて朝食の支度に掛かる。
「朝ごはん作ってあげるから、それ食べたら早く部屋から出てってよ」
「エミリアちゃんが作るの~?楽しみ~」
「エミリアお姉ちゃん、良いお嫁さんにもなれそうですね」
「はいはい、茶化さないの」
と、朝食を作ってるエミリアをフィーナは呆れながら見ていた。
「…アンタだって、2人の相手満更じゃない癖に」
2月上旬、アルテミシア学園、1年1組教室
「あの2人、あれから毎日の様にお前らに会いに来るよな」
「本当よ。お陰で朝から騒がしくなっちゃうし」
「それでも朝から普通に動けてるエミリアはまだましな方だよ。でもカイトが…」
と、白くなって机の上でうつ伏せになってるカイトを見やる。
「そりゃそうだ。いい歳した男女だと言うのに、あんなレベルの高い女2人がグイグイ押し寄せて来てる上に、周囲からの嫉妬や渇望の眼差しの的になってるんだ。気苦労も相当の筈だ。しかも、もうバレンタインの時期になってるんだから尚更な」
「そうか、もうそんな時期か」
その言葉に、周囲がバレンタインの話題を出している事に気付く。
「私達も友チョコぐらいは用意しておこうか」
「折角だから、皆で手作りチョコにする?エミリアも作ろうとしてるくらいだし」
「アタシはパス。そんな凝ったもん作れねぇし」
「それはまだ1週間先の事だし、それは置いといて、先ずはカイトのケアをやっときましょう」
「あぁ、そうだね。カイトの方も何かブツブツ言い始めちゃってるし」
「僕はもう子供じゃないのに…。羞恥心だってちゃんとあるのに…」
と、エミリア達は急いでカイトのメンタルケアをするのであった。
アルテミシア城、騎士団演習場
第1騎士団は現在、演習場にて、稽古を行っていた。
そして監督を務めているアルフォードの下に訪ねてくる人影があった。
「ヤッホー、アルフォード君!元気してる?」
「…エミリアとカイトから聞いていたが、またお前らの顔を見る事になるとは思わなかったぞ、シャーリー、ネム」
「何でそんな嫌そうな顔をしてるのかな~?私達の仲じゃない?」
「お前らが過去に起こしたやらかしの数々のせいだよ!あの周りの迷惑を考えない過保護のせいで、俺もどんだけ頭を下げさせられた事か!」
「そんな息を荒げないで下さいよ、アルフォードお兄ちゃん。血圧上がっちゃいますよ?」
「その原因であるお前らに言われたくないわ!」
そして休憩時間、アルフォードは執務室に2人を招いて話の続きをする。
「…で、何の用で此処に来た?」
「そりゃあ、スレイ君とカイト君と再会したから、今度はアルフォード君とも…ってのは冗談で、エミリアちゃんから聞いた例の組織の件で話に来たんだよ」
「…"天の笛"か」
「確かに彼らのやって来た事は普通に許される事じゃないよ。私達だってそうだし。でも、そのせいで2人の生活が脅かされるなら、私達だってやぶさかじゃない。最低でも、スレイ君がもうあの頃の生活に戻れなくなった事に対する代償は支払ってもらわないと」
「それについては俺も同意見だが、アイツだって…」
「分かってる。今のエミリアちゃん、あの頃より幸せそうにしてるし、あの子だってお姫様としての生活を気に入ってる。取り敢えず、エミリアちゃんの今後の生活の為にも、私達も出来る限りの協力はするから」
「そうか、よろしく頼む」
「あっ、そうそう。私達からのバレンタインチョコ、ちゃんとアルフォード君の分も用意するから楽しみにしててね!」
「余計なお世話だ!あっ、いや、そりゃあチョコ貰えるなら俺も嬉しいけど、何で俺が欲しがる前提なんだ!?」
「え~、アルフォード君、昔から真面目だし、女の子との交流も最小限にしか抑えて無かったし、どうせ今でもそうでしょう?だから、せめて私達からのチョコくらいは貰っとかないと」
「いらん事言うな!後、俺も学生時代ちゃんと貰ってたわ!」
"天の笛"本部
ジルティナは慌てた様子の団員から報告を聞いていた。
「合成獣が脱走した?」
「はい。アルテミシア王国辺境に構えている研究所から、研究員が目を離した隙に…」
「急ぎ捕獲して連れ戻しなさい。必要なら殺処分も構いません」
「はっ!」
と、団員が急ぎ足で去った後、ジルティナは後方に声を掛ける。
「ケール、聞いてましたね?貴方もアルテミシア王国へ」
「サクッと私の影で捕まえて来るわね」
と、影から顔を出したケールが影の中に潜り進んで行く。
そこから入れ替わりにやって来たケイリーが話しかけて来る。
「合成獣って言うと、俺ら双性者とは別に研究されてる奴だろ?」
「えぇ、そうです。素材が人間のみとなってる私達双性者と違い、合成獣は人間以外の者も使われ、それ故に混ぜ合わせた獣の姿になったり、人間の形から大きくかけ離れた姿として出来上がります。それ故に、暴走のリスクを孕む者も生まれるし、人間の中に紛れる事が出来ない者もいるのです」
「そんなもんを作ってるだなんて、ボスは何と戦う気なんだろうなぁ」
「無駄口叩くくらいなら、貴方もケールを手伝って来なさい」
「へいへい。捕獲でも殺処分でも手伝って来ますよ」
と、ケイリーもその場を去っていった。
「…エミリア王女一行に見つかる可能性もありますが、この場合は致し方ありませんね」
こうして、"天の笛"も予測出来てなかった事態の1つが起きようとしていた。
次の事件が発生する。




