第55話
幼馴染の登場。
アルテミシア学園男子寮、カイトの部屋
玄関先で手紙を手にしたカイトは、それを確認していた。
「さて、一体誰からの手紙だ…えっ?」
封筒に書かれていた宛名に一瞬固まったカイトは、その中を慌てて確かめる。
『カイト君、お久しぶり~!貴方達のお姉ちゃんだよ~!スレイ君が行方不明になってからおよそ6年半くらい経つけど大丈夫?そっちでも行方掴めた?あの時はお姉ちゃん達も直ぐにアルテミシア王国を離れちゃう事になってごめんねー!でも大丈夫!あれから私達も力を付けて、自由に動き回れる様になったから!と言う訳で、早速アルテミシア王国に帰ってきます!あ~、久しぶりのカイト君!目一杯ハグしたり、なでなでしたりして、沢山甘やかすから!』
この手紙の内容に、カイトは顔を青ざめて身体を震わせる。
「…シャーリーお姉ちゃんとネムが帰って来る」
1月下旬、アルテミシア王国、1年1組教室
カイトが頭を抱えて伏せってるのに気づいたエミリア達は声を掛ける。
「どうしたのカイト?何かこの世の終わりみたいな顔してるけど?」
「…姉さん、あの2人が帰って来るんだ。シャーリーお姉ちゃんとネムが」
「えっ?あの2人が帰って来るの?」
「誰だ、そいつら?」
「僕達が10歳の時まで近所に住んでた女の子達だよ。所謂幼馴染って奴だよ。シャーリーお姉ちゃんは、かなり親しみやすくて、僕達も結構面倒見て貰ってたんだよ。ネムの方も、本当に可愛らしい女の子で、良く僕達の後ろをついてきたくらいだよ。母さんが死んでからの2年間は僕達の傍に寄り添ってくれたから感謝はしてるよ。僕が10歳の時、2人共親の仕事の都合でこの国を離れる事になったんだけど、スレイ兄さんが行方不明になった時、あの2人物凄く騒ぎ出したくらいだからね」
「結構良い2人じゃない。それが何であんな顔する事になるの?」
「あの2人、距離感が近すぎる上に、かなり拗らせてるのよ」
「は?一体どういう事だ?」
「シャーリーお姉ちゃんは、極度の甘やかしたがり屋でベタベタにくっついて来る。ネムの方も、極度の甘えたがりでグイグイと近づいてくる。あの2人の過度なスキンシップに、僕達もどれだけ悩まされた事か」
「あの2人、私達と一緒に遊んだり食事したりだけならまだしも、入浴中に突撃するわ、ベッドの中に潜り込むわ、野生の動物やチンピラとかを叩きのめすわ、いつもあの行き過ぎでやり過ぎな過保護にはドン引きしたものよ。あの2人、普段は他の人に対して普通の対応になってるわよ。でも、私達2人に対しては、私達の迷惑にならなきゃ何やっても許されるって考えなもんだから、そのせいで、周囲もあの2人のやり過ぎに対する苦情が殺到していた始末だし、私達もその過保護に振り回されまくったものよ」
「だから帰って来たあの2人も、またどんだけ被害を出すか…」
と、その時、急に教室の扉が吹っ飛ばされ、水色のウェーブロングと白のバトルドレスの長身巨乳美女と、茶髪のリングツインテールで赤を基調としたワンピースとスパッツの美少女が入って来る。
「カイト君~、久しぶり!貴方のお姉ちゃん、シャーリー・ハプナスだよ!」
「同じく、妹のネム・サントライトですよ、カイトお兄ちゃん!」
「…お久しぶりです、お姉ちゃん達…」
応接室
エミリア達も話を聞く事になったのだが、シャーリーとネムはカイトにガッチリホールドしていた。
「あ、あの…2人共、一体何を…?」
「え~、久しぶりに会ったんだもん!バッチリ成分補給しないと!」
「そうですよ!私達のハグ、ちゃんと堪能して下さいよ!」
「…成程、そりゃああんな顔するわ」
「あ、そう言えば貴方達、カイト君の友達?」
「はい、パーティーメンバーです。私はリーダーで、この国の王女、エミリア・フォン・アルテミシアです」
「ハルトマリー・メティーア、魔導士です」
「スバル・フェニア、この教会のシスターもやってます」
「アタシはパーティーメンバーじゃないが、一応名乗っとく。レオニー・ブランシェーダ、城の暗部も兼ねている」
「そうなんだ。いつもカイト君がお世話になってます」
「所でカイトお兄ちゃん、スレイお兄ちゃんの行方、まだ掴めて無いんですか?」
「えっ!?あっ、いや、その、うん、全然分かんない。今、何処で何してるのか~…。って、そんな事より、2人は別れてから6年半の間、何やってたの?」
「あぁ、私達はスレイ君の行方を捜せて、かつ、カイト君達を守れる様、冒険者登録したの。あらゆる仕事をこなしたお陰で、今の私達はAランクにまで上り詰めたんだよ」
「Aランク!?あっ、いや、2人ならあり得るか…」
「その通~り!だからスレイ君とカイト君の事、私達が守ってあげられるよ!」
「いや、大丈夫だって!僕達だってAランクなんだし」
「Aランク?お姉ちゃん達の見てない所で、カイト君そんなに強くなってたんだ」
「そう言う訳だから、2人も僕達に構わなくて良いから!」
「そうだね。じゃあ、話はここまでで良いね。行くよ、ネムちゃん」
「あ、待って下さい、シャーリーお姉ちゃん!」
「待ちなさい」
と、退室しようとする2人にエミリアが声を掛ける。
「何かな、エミリア様?」
「その前にやる事があるでしょう?教室の扉、直して行きなさい」
「え~、良いよ」
その真っ当な正論に2人は承諾、ちゃんと1年1組の教室の扉を直しておくのだった。
昼休み、中庭
エミリア達は昼食の為に訪れていた。
「…で、何でサラッと相席してるの、2人共?」
と、カイトもしれっと混ざっているシャーリーとネムにツッコむ。
「折角だから一緒に食べようよ~!」
「そうですよ。私達、本当に寂しかったんですから!」
「いや、僕だってもう16歳だし、普通に恥ずかし…!」
「はい、あ~ん!」
「うわっ!?サラッとおかずを刺したフォークを向けないで!もう子供じゃないんだから!」
「カイトお兄ちゃん!デザートも作ってありますから、一緒に食べましょう!」
「…何だこれ?」
その後も、休み時間だろうと、授業中だろうと、実技だろうと、所構わずベタベタしてくるシャーリーとネムに、カイトは疲れた様子で放課後を迎える事になった。
「疲れた…」
「お疲れ様、カイト。本当に大変だったね」
「だろうな。アイツら、滅茶苦茶距離感バグってる上に、男共からの嫉妬の眼差しも凄まじかったからな」
「カイト君!この後、お姉ちゃん達と…!」
「はいはい、もうそこら辺で」
と、カイトに抱き着こうとしたシャーリーをエミリアは止める。
「久々に会って嬉しいのは分かりますけど、少しは休ませてあげて下さい。本当、遠慮ってものが無いんだから。では、私は生徒会があるので」
と、退室していくエミリアをシャーリーはじっと見つめるのであった。
夕方、渡り廊下
会議を終えたエミリアは、そのまま帰路に付いていた。
「相変わらずあの2人はやり過ぎ常習犯なんだから。取り敢えず、私の事はバレてないみたいだし、カイトには悪いけど、私もこのままやり過ごして…」
「エミリア様~!」
と、エミリアの下にシャーリーとネムが駆け付ける。
「シャーリーさんとネムさん?一体どうしました?」
「そんな他人行儀は止めてよ。私達の仲じゃない?」
「いえ、実際他人ですし…」
「お姉ちゃんの目を誤魔化せるとでも思ってるの?エミリア様、いや、スレイ君?」
「っ!?」
「私、実は貴方からスレイ君の気配を感じたから、ずっと観察してたんだ~。作法や立ち振る舞いは王女らしく上品でお淑やかなものになってたけど、綺麗な字ながらも見覚えのあるペンの走らせ方、何処かで見た身体の動かし方の癖に至るまで、所々スレイ君の癖が出ている。ねぇスレイ君、君は何で女の子、それもお姫様になってるのかな~?」
「…やっぱりお姉ちゃんの目は誤魔化せないか」
と、仮面を外したスレイも、シェーラと出会ってから今に至るまでの経緯を自白する。
「…成程ね、理由は分かった。でも、あれから私達がどれだけ心配したか分かってるの?」
「それについては、ごめんなさい。私もあの時、家が嫌になってたし、王女が死んだなんて事実が公にバレるのを阻止したかったから、仕方なく」
「でも、心配かけるのは違うよ。それと…」
と、シャーリーはスレイの頭に手を置き、ネムもスレイに抱き着いた。
「スレイ君が生きていて、本当に良かった。久しぶりだね、スレイ君」
「本当ですよ、スレイお兄ちゃん!罰として、私のハグにも、キッチリ付き合って貰いますからね!」
「ハハハ、今までごめんなさい。それと、久しぶり、シャーリーお姉ちゃん、ネム!」
女子寮、大浴場
「…で、何で一緒にお風呂に入ってるの!?」
と、エミリアはシャーリーとネムと一緒に入浴している事にツッコむ。
「そりゃあ、スレイ君とも再会出来たし、しかも女の子同士になっちゃってるじゃない?だからこうして、女の子同士の裸の付き合いで成分をより濃厚に味わっておかないと」
「そうですよ!さあさあ、早く身体を洗いましょう!」
「あっ、ちょっ…!」
と、ネムに引っ張られたエミリアはシャワーの前に座らされる。
「全く…、ひゃっ!?」
エミリアは急に身体を触られた事で声を上げる。
「エミリアお姉ちゃん、やっぱりおっぱい大きくて張りがありますね~。しかも身体も細くて肌もスベスベ…。正に、女の子の欲しがりそうなものを全部詰め込んだ感じがします」
「そうだね~。髪もこんなにサラサラだし、顔もこんなに可愛くてケアも行き届いてる。女の子としての生活も結構頑張ってるんだね」
「ちょっ、お姉ちゃん、ネム、あんまりベタベタ触らないで~!」
と、シャワーを終えた3人は湯船に入る。
「フフッ、何だか夢みたいだね、こんな風に遠慮する事無く、一緒にお風呂に入ってるだなんて」
「えぇ、私も思ってた所」
「それじゃあ、改めてよろしくね、エミリアちゃん」
「私もよろしくお願いします、エミリアお姉ちゃん」
「こちらこそよろしくね、シャーリーお姉ちゃん、ネム」
と、3人は思い思いに風呂を過ごすのであった。
翌日、1年1組教室
エミリアは皆に夕べの事を報告していた。
「へ~、結局バレてたのか」
「やっぱり、あの2人には隠せなかったか」
「えぇ、そうね。でも、あの2人も分かってくれたし、今後も…」
と、急に現れたシャーリーがエミリアに抱き着いてきた。
「ヤッホー、エミリアちゃん!今日の放課後、一緒に買い物に行かない?」
「お姉ちゃん!?」
「ほらほら、折角だから、女の子同士で出来る事、目一杯やらないと!」
「そうですよ!ファッションにコスメにスイーツ、その手の話題はいっぱいあるんですからね!」
「そう言う訳だから、早速今日…」
「も~、勘弁して~!」
と、流石のエミリアも声を荒げる事になる。
これからのエミリアの日常は、更に騒がしくなっていくのだった。
1月のエピソード終了。




