第120話
ウィスブール家攻略戦、開幕!
あらゆる証拠が揃った事により、ウィスブール家の強制家宅捜査が実行される事となった。
客室での睨み合いの中、アルベルトが最初に声を出す。
「お前達一家も屋敷にいる者達も、大人しく捕縛されるならそれで良し。抵抗する様なら…!」
その時、マーティンがテーブルの上の彫刻を回転させ、それに内蔵されてるマイクに向けて大声を出す。
「緊急事態発生!アルテミシアの王族とギルドに研究所の存在を気付かれた!非戦闘員は研究データと証拠をなるべく確保して撤退!戦闘員は時間を稼ぎつつ、敵を撃退せよ!」
屋敷全体にその声が響き渡ると、地下の研究員達は研究レポートを持って転移ゲートに駆け込み、屋敷内でも証拠の確保に向かう者と迎撃態勢に向かう者と動きを見せる。
フェリシアがすかさず跳躍、メノウ目掛けて拳を振り下ろすが、彼女も蹴り上げて防御。
そしてメノウはソファーの後ろへ着地、フェリシアもテーブルの上に着地する。
その拍子にソファーが後ろに倒れて、床に投げ出されたマーティンの胸がはだけて乳房が露になり、ピュリファも変声機入りのチョーカーが外れて、低い男の声が漏れる。
「…成程。さては10年前に3人共双性者となって、この家が乗っ取られる事になったのですね?今の反射行動からして、此処の真のボスはメノウの方でしょう?」
「そうだな。此処の事がバレた以上、もう隠し立てをする必要は無ぇ。お前の言ってる事は当たりだよ。但し、双性者は俺達3人だけじゃねぇ。研究員以外の全員だ!」
既に庭の方も戦闘が繰り広げられており、客室の方にもメイドや執事がなだれ込んで来る。
「マーティン、ピュリファ!俺達も部屋に戻って証拠品をまとめて逃がすぞ!」
『はっ!』
エミリア達が撃退をしている中、身なりを整えたマーティンとピュリファもメノウと共に部屋を出る。
「あっ、待て!」
「全く、この程度で我々を止められると思ったら、随分と舐められたものだな!」
そう言ったアルベルトが剣に込める力を上げて、剣を振り被り、敵を一気になぎ倒す。
「俺だって次期国王なんだ。武芸の方も、それ相応の物に仕上がっていて当然だ。我々も急いで後を追う!証拠は1つ残らず確保するぞ!」
と、そこにリアナが屋敷の壁を作り変えて、ミザリーとアルフォード達1番隊が入って来る。
「だったら、地下の捜索の方にも何人か回してくれない?思ったより広いみたいで」
「分かった。だったら地上は俺とエミリア、カイト、ハルトマリー、スバル、レオニー、フェリシアがやる。地下はアラタ、リアナ、ミザリー、シャーリー、ネム、アルフォード達1番隊が捜査を」
『了解!』
こうして、一同は手分けして屋敷を捜索する事となった。
地下突入組はリアナが空間探査で地下の入口及び構造を把握。
アラタが入口を破壊してこじ開けた所で、全員で地下へ突入。
そして一部の兵が研究室の1つに入り、逃げ遅れた研究員に剣を向ける。
「動くな!大人しく投降しろ!」
「分かった!分かったから!」
「畜生!何でこんな事に…!?」
通路を走っている研究員をミザリーが魔法で拘束。
そして研究員の落としたレポートを拾う。
「…成程~。これは良い拾い物をしたかもね~」
別の研究室で兵達が研究員を拘束する様を見ながら、アルフォードは考え事をしていた。
「…地下の規模からして、拘束した者達の人数では広い。何人かに逃げられたか…」
そしてアルフォードは研究員の1人の胸倉を掴み、引き寄せて問い詰める。
「おい!」
「ひっ…!」
「確か此処では人体実験も行われていると言う話だろ!?被験者は何処にいる!?」
「こ、此処より更に下の収容施設に収監されて…!」
「ふん!」
それを聞いたアルフォードは研究員を投げ捨て、リアナに声を掛ける。
「リアナ、悪いが収容施設への道を…!」
「もうアラタ君達を向かわせてるよ~」
そして収容施設に辿り着いたアラタ、シャーリー、ネムは檻の中の者達を見やる。
「かなりの数の人達が入れられてるね~?」
「嘘!?こんな子供まで!?」
「取り敢えず、外に出してあげよ~。皆、もう大丈夫…!」
「っ!伏せろ!」
アラタが2人に飛びついて、シャーリーとネムを伏せさせると、その頭上を1つの影が通り過ぎ、顔を上げて見ると、それは合成獣であり、既に周りが合成獣に取り囲まれていた。
「合成獣!?こんなに大量に!?」
「しかも何だか、様子が変…?」
「恐らく、獣化薬の被験体だろう。奴らも改良型くらいは欲しくなるだろうからな。その改良型を作る過程で出来た者達を此処に置いておいたんだろう。お前らはこいつらを頼む」
「アラタ君は?」
「俺は奥にいるアイツを片付けておく」
そう言ったアラタの視線の先にいたのは、例の赤黒い鎧のゴーレムが合成獣の群れの後ろで鎮座していた。
「あれって、例のゴーレムですか!?」
「でも前にアラタ君達が壊したって…」
「恐らくあれも、前回の戦闘のデータから改良された奴だ。あの魔法石も、盗られたのは1つじゃなかったって話だからな」
「OK、そう言う事なら!ネムちゃん、この人達も後で元に戻してあげるんだから、やり過ぎないでね!」
「合点です!」
「アラタ君、そっちもお願いね!」
「あぁ!」
こうして、地下での戦闘もまた開始される事となった。
屋敷の中でも、カイト、ハルトマリー、スバル、レオニーの手により、目に付いた者達は次々と気絶させられる。
書斎に足を踏み入れたカイトは、周囲を警戒しながら本棚を見渡していく。
その時、カイトの背後からレイピアの切っ先が迫り、カイトも剣で弾いて防ぐ。
そして奇襲してきた者を見ると、頭が老齢の男性、体がメリハリのある女体の執事だった。
「ほう、今のを防ぐとは、中々やりますな若人よ」
「そっちこそ、例にも漏れず、双性者みたいだね?」
「左様。私は此処の執事長を務めるゴードンと申します。私もこの体には感謝しておられるのですぞ。この若さとしなやかさを兼ね備えた体のお陰で、仕事が楽になっているのですから」
「そんなご高説はどうでもいい。貴方も拘束して、一緒に聴取に付き合って貰います」
「やってみなさい。出来るものならね」
こうして、書斎での戦闘も始まろうとしていた。
レオニーが廊下を駆けていると、突如として横から吹き飛ばされ、食堂に押し込まれる。
レオニーも起き上がりながら、その犯人の姿を見やる。
「痛てて…。誰だ、こんな事したの、は…?」
「あら、ごめんなさ~い。あまりにも不躾だったものだったから、手荒な真似をしちゃったわ~」
レオニーはその姿を見て一瞬思考が止まる。
それは全体的に、とてもスタイルが良く、艶やかな黒髪ストレートロングの目麗しいメイドかと思いきや、その顔は青髭のある中年男性の物だった。
「…って、何だその顔!?折角の髪とスタイルが台無しになってるぞ!?」
と、思考が回復したレオニーもツッコむ。
「何よ、失礼ね~?こんな綺麗なメイドに向かって」
「だからそのおっさん顔で全部台無しだって言ってんだろうが!ぱっと見女装した変態親父にしか見えねぇぞ!」
「仕方ないでしょ~?私もメイドに憧れて、似合いそうな美女を選んだけど、顔だけ元の私のままになっちゃったんだから。そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は此処のメイド長のアマンダ。よろしくお願いね、お嬢ちゃん」
「まさかこんなのに当たるだなんて…。仕方ねぇ、これも仕事だ。やってやるよ!」
食堂での戦闘も始まっていく。
ピュリファが廊下を駆けていると、フェリシアが背後から追いついて掴み、そして頭上に持って行ってアッパー、そのまま3階建ての屋敷の天井を突き破り、屋根の上へ放り出し、フェリシアも跳び上がって着地する。
「痛つつつ…。随分と乱暴な事をしますね?」
「そちらこそ、すぐに起き上がるだなんて、やはり双性者と言った所ですね」
「そちらこそ、貴族令嬢として些かどうかと思いますが?」
「仕方ありませんよ、これが私の性分なので。さて、それでは私と1曲、お相手願いましょうか」
屋根上でのワルツもまた幕が上がる。
マーティンは自室で証拠品の持ち出し状況の確認をしていた。
「良し、ちゃんと全部持ったな?それでは全部転移を…!」
「そうはいかない」
と、部屋に入って来たアルベルトが一瞬でメイドと執事を気絶させていく。
「こいつらにも聴取に付き合って貰う。お前にもお縄について貰うぞ、マーティン!」
「私だってただでやられる気は無い!私も全力で抵抗させて貰う!」
そう言いながらマーティンはレイピアを構え、臨戦態勢に入る。
メノウは自室にて隠しスイッチを操作し、戸棚の隠し金庫を開ける。
「…さて、今のうちにこれを転移魔法陣で…」
メノウが中身に手を伸ばしたその時、横からエミリアが手を掴み、そのまま投げ飛ばす。
床に倒れたメノウが見上げる中、エミリアは静かに歩み寄る。
「そこまでよ、メノウ。裏取引だけでなく、向こうに関する事について、洗いざらい喋って貰うわ」
「けっ!誰が言うかよ!俺だってただでやられる気は無ぇ!抵抗させて貰うぜ!」
「絶対に逃がしはしない!アルテミシア王国第1王女として!」
エミリアとメノウもまた、臨戦態勢に入っていく。
こうして、上と下での戦闘の幕が上がっていった!
次回、戦闘開始!




