第119話
嵐の前の静けさ…。
ウィスブール家、メノウの部屋
メノウは研究レポートと裏取引の報告書に目を通していた。
「…良し、麻薬も安定した売れ行きで、獣化薬も成分を抑える事で制御出来る様になった。この前のデモンストレーションが功を成して、発注依頼もかなり来てる。量産の目途の方は?」
「はい、現在安定した薬のデータを基に、体制が整った為、1週間後には納品可能です」
「上出来。後、あのゴーレムの改修の方は?」
「はい、パワーの出力調整と、フレームの強度を引き上げ、新しく組み込んだ魔法石も、魔力の出力の上昇と安定が完了しました。既に最終調整に入っており、すぐに完了する見込みです」
「ご苦労。引き続きゴーレムの調整と獣化薬の量産を続ける様に」
「はっ!」
研究員が退室した後、水晶に通信が入り、メノウも応答する。
「よう隊長。うちの作った薬とゴーレム、役に立っただろ?」
<はい。そのお陰でこちらも目的の物を入手出来ました。そして調べた所、本物であり、役立つ物でもありました>
「そりゃ良かった。俺も手を貸してやった甲斐があったと言うものだ」
<えぇ、本当に。ですので、そちらの方でも引き続き開発と研究をお願いします>
「言わなくても、ちゃんとやるよ」
<後、非常時の対応も怠らない様に。では、私はこれで>
そう言って通信が切れると、メノウは背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。
「…そうだな。万が一の事態になったら、俺も動くしかなさそうだな」
アルテミシア城、アルベルトの執務室
アルベルトはシェーラから分析結果の報告を受けていた。
「エミリア達が持ってきた水晶、確かにあれは表に出回る事の無い魔法石よ。一般的な魔法石は大気に満ちたマナが結晶化して出来上がった物だって事は知ってるわよね?でもこれは、澱みや瘴気等言った良くない物の吹き溜まりで出来た物。強力な力を宿している反面、混ざっている悪意や負の感情に蝕まれ、精神に異常をきたす恐れがある。それ故に魔女でさえ手を出すのも憚られる代物なのよ」
「成程。連中はそれをゴーレムの動力として使っていたって訳か」
「そっちについてはどうなの?」
「あぁ。こっちでも情報を精査した所、ここ10年間の記録に改ざんと隠蔽の形跡が発見された。周辺も洗ってみた所、貴族の方も金回りに不審な点があり、警備等にも不自然な点が見受けられた。エミリアの読み通り、あそこは黒と見ていいだろう」
「と言う事は、強制捜査を実行するのね?」
「あぁ。こっちでも例のゴーレムの装甲にあったロゴと、取り逃した違法の魔法石、そしてネウロから渡された獣化薬の分析データもある。これだけ証拠があれば十分だ。これより、ウィスブール家の強制家宅捜査の準備に入る!ギルドやエミリア達にも俺の方から要請も出しておく!」
アルテミシア学園、生徒会室
エミリア達は生徒会の公務に勤しんでいた。
「椿、このファイル、職員室に出しておいて!」
「承知しました!」
エミリアからファイルを受け取った椿は、生徒会室を出る。
椿が完全に離れた途端、ハルトマリー、スバル、レオニーが入って来る。
「…さて、これから行われる作戦の話に入りましょうか。これから私達は、ウィスブール家への強制捜査に入る事になる。そのきっかけは、先日私達が戦ったゴーレム、その装甲に、ウィスブール家のロゴが入っていた。あの魔法石と合わせて、ウィスブール家が"天の笛"と癒着関係を持っている事に気づいた。だとすると、夏のパーティーの時、ジルティナを手引きしたのも彼らだと言う事にもなる。よって、私達もウィスブール家に乗り込み、証拠を1つ残らず確保する。決行は今度の土曜日!全員それまでに準備を済ませて頂戴!」
『了解!』
冒険者ギルド、会議室
こちらでも、アラタ達Sランク組も、ウィスブール家に関する話をしていた。
「私の"目"の方で見てきた所、予想通りだったよ~。屋敷のあちこちに隠し棚や隠し部屋があって、地下でも違法な研究が行われていたよ~。しかも、過去に私が目を付けていた違法な品の数々のおまけ付きでね~」
「あい、分かった。こちらもアルテミシア城が捜査令状と逮捕令状を発行してくれている。我々も準備を整え次第、強制捜査に出る!私はギルドの指揮を担当する!だからお前達、現場の方は任せたぞ!」
「勿論だ!」
「はいは~い!」
「任せて!」
「作戦の決行は土曜日!それまでに準備を整え、エミリア達と城の兵達と合流し、全員で連携して、ウィスブール家の不正の証拠を確保!そして加担している者達を全員逮捕していくぞ!」
こうして、それぞれの撲滅への準備が進んでいくのだった。
土曜日、ウィスブール家、メノウの部屋
メノウが報告書の整理をしている所に、メイドが慌てた様子で部屋に入って来る。
「メノウ様、お客様です!」
「何だよ?まだ薬の受け取りの時間じゃあ…」
「いえ、それが、アルベルト王子とエミリア王女、そしてアラタ・ホシミヤがいらっしゃったのです!」
「何だと?だとしたら、隠し金庫や地下室にある物がバレるのはマズい。マーティンとピュリファは?」
「はい、既に知らせを受けて、客室に向かっております」
「分かった。俺も客室に向かう。何としても、地下の物がバレる前に追い返すぞ」
「はっ!」
慌てて部屋を出たメノウは、途中でマーティンとピュリファと合流する。
「分かってるな、お前ら?怪しまれない様に帰って貰うぞ」
「はい」
「承知しております」
そして客室にて、6人は対面し、会談に入る事となる。
「突然押しかけて来て申し訳ありません。どうしても話しておきたい事があったもので」
「いえいえ、お構いなく。それで、急ぎの話と言うのは?」
「はい。先日、私とアラタが仕事で別の街に行ってた時、ゴーレムの暴走事故に遭遇しまして。それでそのゴーレムを破壊した際、剝がれた装甲の一部にこちらの家のロゴが彫られていたのを確認しまして」
「あ、あぁ、そうでしたか。実はそのゴーレム、まだ調整中だった所、ちょっと目を離した隙に盗まれてしまいましてね。まさか別の街で動かして事件を起こされていたとは」
「盗まれた?おかしいですね?この屋敷は一見無防備に見えるが、魔術センサーが張り巡らされていて、そして至る所に物理的な仕掛けだってある。だったら侵入者にはすぐ気づける筈ですし、そちら側で対処も出来た筈。それにそのゴーレムを持ち出した者も試験運用を頼まれたと言ってましたよ?言い分が矛盾している。そう、まるでその者を庇っているかの様だ」
「夏に城で開かれたパーティーにいた銀髪の麗しい女性、あれは誰かに随伴されていた筈です。だと言うのに、受付をしていた者も記憶がおぼろげでしてね。そちらでも何か心当たりはありませんか?」
「い、いや、知りませんな。我々もあんな美人、初めて見ましたよ…」
「話を戻しますが、例のゴーレムに使われていた魔法石。あれはうちの暗部が目を付けていた違法品でしてね…。何でそんな物が使われていたのですか?」
「そ、それは…」
「それに、ゴーレムが暴走した際に周囲に使われていた違法薬物。あれを分析した所、そちらの領内で取れる素材が使われている事が分かりました。それで気になって別件で押収していた麻薬も調べた所、これもまたそちらの領内で取れる素材が使われていました。で、そちらの履歴を調べた所、これも改ざんと隠蔽の跡がありました」
「うちのギルドにも情報通の者がいましてね。彼女にも調べて貰った所、警備等に賄賂を受け取った者もおり、周辺の貴族にも、問題の麻薬があった事も確認されたと言っていました。そしてこの屋敷の地下の事も」
「な、何を言ってるのです?そんなものは全くのデタラメ…!」
「言い訳しても無駄だ。もう調べはついてる。知っているだろう、ミザリーの"目"の事を。彼女の"目"によって、この地下で行われている人身売買や誘拐、違法な実験はもう見抜かれているんだぞ。なぁ、"天の笛"のスパイにして、ブローカーよ」
エミリアが指を鳴らすと、エミリア達の背後に転移ゲートが現れ、そこからカイト、ハルトマリー、スバル、レオニー、シャーリー、ネム、フェリシアが入って来る。
更に外の方でも転移ゲートが現れ、そこからリアナ、ミザリー、アルフォード達1番隊がやって来る。
「さて、こちらでも、この家の不正が発覚した事で、捜査令状と逮捕令状も出ている。年貢の納め時だぞ。マーティン・ウィスブール、ピュリファ・ウィスブール、メノウ・ウィスブール、お前達を麻薬密売、非合法な研究に実験、賄賂に隠蔽、人身売買に誘拐の容疑で、この屋敷を強制捜査、そしてお前達を逮捕する!」
アルベルトの号令の下、ウィスブール家への突入作戦が開始された。
次回、ウィスブール家強襲!




