第118話
久々の戦闘パート。
アルテミシア城、アルベルトの執務室
アルベルトは兵士から捕らえた犯罪者の取り調べの結果を聞いていた。
「今回、路地裏で捕らえた売人を問い詰めた所、取引に使われていた麻薬は、何者から渡された物を、仲介手数料を言い値で貰う事を条件に売り子をしていたと言う事です」
「そうか。それで、誰から依頼されたのかは聞き出せたのか?」
「いえ、売人が言うには、全身を黒いローブで覆っていて、フードも深く被り、麻薬も手袋をした手で渡してきた上に、声も何かノイズの掛かった様なものだったとの事です」
「声については、恐らくボイスチェンジャーを使って、身元を特定されない様にしたんだろう。しかし、あまり目立たない事案とは言え、麻薬の密売まで行われているのは、悩ましい所だな」
「あぁ、そう言えば、売人が仲介人の下を去る時に、そいつが呟いた言葉を聞いたとの事です。何でも、「試験段階の麻薬も売れ行き上々。新薬が楽しみだ」と」
「何っ!?まさか元締めは何か更にマズい薬を作って、それも売り出そうとしているのか!?全ての王宮騎士に通達!違法売買の取り締まりを強化せよ!」
「はっ!」
兵士が退室した後、アルベルトも1人思案していた。
「この事に"天の笛"も関わってなければ良いが…。エミリア、皆、無事であってくれよ」
ミザリーから伝説の武具の話を聞いたエミリア達は、早速その場所へ向かった。
話によると、コレクターをやってる貴族が、骨董品と思われる武器を購入したとの事。
エミリア達は交渉の為に、その貴族のいる街へやって来た。
「この街の何処かに、例の貴族が住んでいるんだよね?」
「えぇ、そうよ。そしてその実態を調査して、本物なら譲って貰う様交渉するのが、今回の仕事よ」
「でも本物だとしても譲って貰えるかな?その人、地元からの評判だって悪いんでしょう?」
「そうなんだよね。コレクションを汚したり傷つけたりした事が原因でクビになった使用人もちらほらいて、そのせいで地元の人達から嫌われまくっているって話だし…」
「だからと言って、尻込みしている訳にはいかないだろう?"天の笛"だって嗅ぎ付けているかもしれないんだぞ?アイツらの事だ。武器を手に入れる為なら、周囲の人間だって巻き込むのが目に見える。それに嫌われ者だからって、見捨てて良い理由にはならない。俺達の方でも被害を防ぐ為に、奴らよりも早く手に入れなければならない」
「アラタさんの言う事も最もなんだよね。姉さんの力で何とかならない?」
「馬鹿言わないで。そんな事したら職権乱用の横暴もいい所だわ。それに犯罪者でもない以上、取り締まる事も出来ない。粘り強く交渉するしかないわ」
「そう言う事だ。ほら、行くぞ」
こうして一同は目的の貴族の屋敷を見つけ、中に入れて貰う。
そして応接室で50代男性で高圧的な態度を取るコレクターと会合する事に。
「…と言う訳ですので、最近仕入れた骨董品の武器を見せて貰えませんか?違うと分かれば、そのまま此処に置いて良いですので」
「あのですね。いくらエミリア様と言えども、私の大事なコレクションを手放すつもりはありませんよ!あれにいくらつぎ込んだと思っているんですか!?それにああ言った物は、価値の分かる者の下にあるべきでして…!」
「噂通りの性格の悪さみたいだな」
「王族相手に、何て上から目線な態度…」
「このままじゃあ埒が明かない。だが、こうしている間にも"天の笛"の連中だって…」
と、その時、別の部屋から轟音が響いた為、その場に向かうと堅牢な扉が破られており、その向こうの部屋の中にいるケールが、中央にある物に手を伸ばしていた。
「ケール…!」
「あら、貴方達も来ていたの?でも残念。これは私が貰っておくわ」
「貴様!その汚らわしい手でそれに触れるな!」
ケールがコレクターに向けて投げた何かが刺さり、それはよく見ると何かの液体が入った注射器だった。
そして中身が注入されると、コレクターの身体は2足歩行する巨大な狼の物となり、焦点の合っていない目でエミリアを捉えると、手の爪を振りかざして、エミリアもバックステップで避けて、その手はエミリアの立っていた床に穴を開けた。
「一体何が…!?」
「この薬、攪乱とかには使えそうね」
「お前、一体何を使った!?」
「獣化薬。うちの研究所が合成獣の実験の過程で作った薬でね。この薬を打たれた者は獣の要素をその身に宿す事になる。けど、合成獣としては失敗ね。すぐに自我が消えて暴走する。やっぱりちゃんとした手順で作った奴じゃないと意味ないわね」
「こんな物まで作ってただなんて…!?」
「じゃあ、目的の物は手に入ったし、お暇するわね」
「待て!…っ!」
カイトが追いかけようとするとコレクターが腕を振るってきたので避けて、ケールもその隙に影の中に潜った。
暴れるコレクターをスバルが精霊魔法の鎖で拘束する事に。
「一応動けなくしておいたよ!」
「けど、肝心の武器が持って行かれちゃった!」
「大丈夫!魔力探知で反応は掴めている!」
「恐らく、転移結晶を使う場所を探しているんだろう!」
「私達も転移される前に追いかけましょう!」
そう言ってエミリア達はその後を追って屋敷を出る。
そして目にした光景に驚愕の顔を浮かべる。
街のあちこちで合成獣が暴れており、人々も逃げ回って、衛生兵もその対応に追われていた。
「何だよ、これ…!?街のあちこちがパニックになってる…!?」
「恐らく、さっきの薬をあちこちにばら撒いたんだろう!」
「今はケールを追いかけましょう!幸い、衛生兵でも対応出来るくらいみたいだし、何より、これが薬によるものなら、彼女も予防策として、ワクチンくらいは持っている筈よ!」
「ケールの反応もまだ近くにあるよ!」
「急ぐぞ!」
そうして5人が駆け込んだ路地裏の広場にケールが佇んでいた。
「あら、迷わずこっちに来たのね?街の対応を手伝わなくていいの?」
「時間稼ぎを狙ってたんでしょうけど、そうはいかないわ。あれも衛生兵で対応出来る範囲で済んでいたわよ。それを返して貰うだけじゃない。皆に打った薬のワクチンも渡して貰うわよ!」
「成程。確かにあれは攪乱にしかならないし、薬である以上、ワクチンを考えるのは当然。でも、私が持ってきたのが薬だけだと思わない事ね!」
ケールが手を掲げると、近くの廃材の山から赤黒い鎧が飛び出してきて、その一撃をエミリア達も散開して回避する。
「何だ、この鎧!?」
「生命反応が無い…!?これ、ゴーレムだよ!」
「ご名答。これもうちの研究所が開発した新作のゴーレムでね。今回の仕事のついでに稼働テストして欲しいって頼まれたのよ。それじゃあ、精々良いデータを取らせて頂戴ね」
既に高台に移動して武器の入った箱に腰掛けるケールがそう言うと、周囲から合成獣達が一斉に押し寄せ、襲い掛かって来る。
「まさか、この周辺の人達に薬を!?」
「仕方ない…!こいつらを無力化して、ゴーレムを破壊するぞ!」
「いや、こいつらはすぐに元に戻せるぞ?」
と、その時、合成獣達に注射器が刺されるとその場に倒れて人間の姿に戻っていく。
そしてエミリア達の前に降ってきたのは、ネウロであった。
「ネウロ先生!?どうして此処に!?」
「此処には偶然、買い物で来てたんだよ。そしたら急にこの騒ぎだ。で、連中の近くに転がってた注射器を調べて、これが薬によるものだと気づいた。それで私の方でも、すぐさまワクチンを作って打って回っていたって訳だ」
「馬鹿な!?この短時間で1からワクチンを大量に作るだなんて!?」
「おいおい、私は科学に魔法に医学、錬金術に精通している天才科学者だぞ?この程度、造作もない事だ。ほら、お前らもあの鎧、とっとと片付けろ!」
「あっ、はい!ありがとうございます!」
「よし、俺達も早く終わらせるぞ!」
こうしてエミリア達も改めてゴーレムの前に立ち、臨戦態勢を取る。
「流石にワクチンは想定外だったけど、こっちはどうかしら?」
先ずはスバルが全員に加護を与えて、ハルトマリーが闇の槍を数本飛ばす。
ゴーレムが左手をかざすと槍が静止、その隙にカイトが斬り掛かり、ゴーレムは後ろに跳んで回避。
エミリアとアラタがゴーレムの右腕と左脚を斬り落とし、ゴーレムは倒れる。
しかし、ゴーレムに魔法陣が展開されると、右腕と左脚が動き、そして元通りにくっついて、ゴーレムも起き上がる。
「自動再生機能か…!」
「有効な手段は、稼働停止にさせるか、大本を取り除くかよ…!」
ゴーレムが亜空間から剣を出すとエミリアに斬り掛かり、彼女も剣で防ぐ。
それから数回斬り結び、ゴーレムが上段に構えた所をエミリアは右脚を斬り落とし、バランスが崩れた所をハルトマリーが影からの棘で背中の四隅を突き刺す。
脚が直ったゴーレムが棘をへし折り、そして棘も消えて穴も塞がっていく。
ゴーレムがハルトマリーに突進した所をカイトが受け流し、その腹を斬り付ける。
自己修復中に2人は離れ、スバルが精霊の鎖で縛るが、ゴーレムも引きちぎる。
その隙にアラタが炎の斬撃で斬り裂き、その胸の水晶が露出する。
「これがこいつの核か…!」
アラタが手を伸ばすが、ゴーレムも手を伸ばしてきた為、バックステップで回避。
胸の穴が塞がったゴーレムが魔法陣を展開。
周囲に魔力弾を撃ち込んでいく。
煙の中からエミリアが風の弾丸を飛ばし、胸の装甲を剝がして、ハルトマリーが影の触手で手足を拘束。
煙が晴れた所でカイトが手足を斬り落とし、スバルが精霊の弾丸で頭も吹き飛ばす。
「ここまで壊れれば、再生に時間がかかるだろう!」
魔力ブーストで強化したアラタが駆け出し、胸の水晶に手を伸ばす。
そして核を失ったゴーレムはその場で機能停止して倒れる。
それを確認したエミリア達が安堵している中、エミリアはゴーレムの胸の装甲に見やる。
「これは…」
「やっぱり伝説の武器を持ってる上に、神と戦った2人じゃあ、本気を出すまでもなくやられるか」
その言葉に一同が振り返ると、ケールの足元から既に箱が無くなっていた。
「お目当ての物なら、先に本部へ転送しておいたわよ」
「ゴーレムを囮にしている間に…!」
「そう言う事~。じゃあ、私はこれで」
そう言ったケールがゴーレムの下に降り立ち、転移結晶で共に離脱した。
「今回はケールにしてやられた…!」
「まぁ、こればかりは…って、どうした、エミリア?」
アラタがゴーレムの剝がれた胸の装甲を拾っているエミリアに気付いて声を掛ける。
「…ゴーレムの胸の装甲の裏側、このロゴに覚えがあってね。アラタ、貴方が持ってる水晶も、確かそれは前にレオニーが言ってた、ミルザに横取りされた物よ」
「これが…?」
「えぇ。この2つをアルベルトお兄様に渡して、シェーラにも調べて貰いましょう。もしかしたら"天の笛"との癒着関係を摘発出来るかもしれないから」
ウィスブール家屋敷、地下室
ケールとメノウはゴーレムの残骸を見やっていた。
「ごめんなさい。折角借り受けたゴーレムをこんな風にして」
「いや、良い。元々試験段階だったし、目的の物を手に入れられた事に変わりはない。薬の方も改良の目途が立ったからな」
「あらあら、お優しい事で」
「なあに。これから入る利益を考えれば当然の事だ。さあて、こっちも取り掛かるとしますか」
街の方は、ネウロが打ったワクチンのお陰で人々は元の姿に戻り、騒ぎは治まった。
コレクターの方も、エミリアとアラタが倉庫に盗品もあった事を確認した為、それらを証拠品として押収。
コレクターも書類送検を食らう身となった。
仕事を終えたエミリア達も帰路に着いていた。
「目的の物盗られて、仕事も失敗。ミザリーさんに怒られるかも…」
「いや、大丈夫だ。"天の笛"の介入もあったし、この仕事は非公式。それに本物かも分からない上に、仮にそうだとしても使える物だとは限らない。それに、人間である以上、失敗はあって当然だと、あの人もあっけらかんと言い返すさ」
「それなら良かった。所で姉さん、さっきの話だけど…」
「えぇ。今回の件で"天の笛"との癒着関係を持ってる貴族を見つけたかもしれない。後は向こうの調査結果を待ちましょう」
そしてエミリア達はアルテミシア城に寄り道して、今回手に入れた装甲と水晶をアルベルトに渡していく。
これから迎える大きな仕事の為に、エミリア達も身体を休めておくのだった。
次の戦いに向けて。




