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第117話

今度の任務に入る前に…。

 ウィスブール家屋敷、地下室

 ピュリファ主導の下で研究、開発、実験が行われている中、メノウがやって来る。


「ピュリファ、そっちの調子はどうだ?」


「はい、恙なく順調に進んでおります。魔法薬と魔道具の開発も問題なく進んでおります」


「そいつは結構。上に良い報告を上げられないと意味がないからな」


「メノウ様」


 と、そこに女声の執事が地下室に入って来る。


「ジルティナ隊長より入電です」


「そうか。つう訳で、俺はもう出るからな」


「はっ」


 そしてメノウは執事と共に地下室を退室。

 自室に入ってジルティナと通信を行う。


「悪い、待たせた」


<いえ、大丈夫です。それよりも、先程送って頂いた報告書ですが…>


「あぁ、こっちでも贔屓になってる商人達の伝手で伝説の武具に関する情報を入手した。眉唾物かもしれねぇが、一応な」


<そうですか。では、こちらの方でもケールを向かわせます>


「そりゃ良かった。俺の方も表の仕事で立て込んでいたからな」


<貴方も表のお嬢様としての生活を充実しているみたいですね>


「当たり前だろう?俺の事を見下してた連中のいた職場やボロ屋での生活から一転、表では貴族のお嬢様、裏では違法な研究所の所長兼闇のブローカー。俺にこんな大きな成り上がり生活を与えてくれた組織には感謝しているんだから」


<そうですか。では、そちらも引き続きお願いしますよ>


「あぁ、待て。折角だから、うちの研究所の"新作"、ケールに頼んでテストさせてくれ」


<前にミルザに頼んで取ってきて貰った品物が使われている"アレ"ですか?>


「そうだ。アイツら、何処から嗅ぎ付けたのか知らねえが、"アレ"を横取りしやがって。お陰であのメスガキに借りを作る事になっちまった。まぁ、アイツはもう死んだけど」


<分かりました。ケールにも通達しておきます>


「おう、じゃあよろしくな~」


 と、メノウは通信を切って、待機させてた執事に指示を出しておくのだった。


「つう訳だから、ケールに"アレ"を渡す準備を」


「はっ!」


「さて、俺もお嬢様としての顔をやっておかないとな」




 冒険者ギルド

 放課後を迎えたエミリア達はミザリーに呼び出されて、先に待ってたアラタと共に話を聞く事になった。


「新しい伝説の武具が見つかった?」


「そうなんだよ~。私が情報の伝手を持ってるのは知ってるでしょ~?それでその筋でそれらしき情報を入手してね~。貴方達に調べに行って欲しいんだ~」


「まぁ確かに、伝説の武具は"天の笛"だって欲しがってる以上、私達もその阻止に向かわないといけない。何より、私達も今後の為に戦力を増強しておく必要がある。分かりました。調査を引き受けます」


「ありがとね~。最強のエクスカリバーとデュランダルがあるとは言え、この2振りだけじゃあ心許ないからね~」


「エクスカリバーが最強と言われている理由は知ってますけど、デュランダルも?」


「あれ?アラタ君言ってなかったの~?貴方のデュランダルはその黄金の柄に数多くの聖遺物が入っている事。それによっていくつもの奇跡を宿した、潜在能力を秘めた聖剣であると言う事を~」


「あぁ、すまん。実はこっちもそれを使う必要が無い事態ばかりだったから、言わずにいた」


「もう~、ちゃんと言わなきゃ駄目だよ~!アラタ君もそのお陰でSランク冒険者をやれてるんだから~!それに、エクスカリバーとデュランダル、この2振りの性能をフルに活かせるのは、2人の才能があってこそだってのを忘れないでね~!」


「アラタさん、デュランダルの潜在能力って?」


「それについては、見せる時が来たらな」


「ほらほら、私達も一旦準備に入らなきゃでしょう?」


「そうだな。準備を整えてから向かうぞ」


 こうして一同は準備の為に解散、明日の朝から出発するのであった。




 ウィスブール家屋敷、地下室

 強い存在感を出している赤黒い鎧の前でメノウとケールは話し合っていた。


「これが例の"新作"?」


「そうだ。ミルザが取ってきた"アレ"をこの中に組み込んで動力とした、新作のゴーレム。折角だから、今回の現場でテストしておいてくれ。そのデータを基に改良しておく」


「分かったわ。そっちこそ、便利な物を作ってくれてありがとうね」


「良いって事よ」


「メノウ様」


 と、そこに1人の研究員が声を掛けて来る。


「新たな発注依頼が届きました」


「分かった、すぐに確認する。つう訳だから、後の事は頼む」


 メノウが数歩歩いた後に振り返り、テーブルの上の箱に目を向ける。


「あぁ、そうそう。1人と1体だけじゃ心許ないだろう?その薬も持っていけ」


「ありがとね」


 それから発注の確認を済ませたメノウは、客室で来客の対応をする。


「態々ご足労いただき、ありがとうございます」


「いえいえ、こちらも私用に付き合っていただき、感謝しております」


「とんでもございません。貴方方は私共の家を贔屓にして下さっている重要な顧客ですので」


 メノウが手を叩くと、傍で控えていたメイドが手にした箱をテーブルにおいて、その中を見せる。


「こちら、いつものお品物でございます」


「おぉ、ありがとうございます!我々もこれで儲けが出てますからね!」


「では、いつも通り、代金は振り込んでおきます!」


「毎度の事ながら、頭が上がりませんな!」


「いえいえ、父には私の方からもよろしく伝えておきますね」


 こうして一通りの業務を終えたメノウは、浴室の湯船でだらけていた。


「はぁ~、終わった終わった~!ったく、お嬢様としての外面は本当疲れるぜ~!」


「メノウ様、お背中流しますね」


「あいよ~!」


 と、メノウも湯船を出てシャワーの前に座り、メイドに促されるがまま、髪と身体を流されていく。


(いや~、こんな生活を与えてくれた組織には感謝だぜ~!)


 と、メノウは"天の笛"に入る前の過去を思い出す。




 あの時の俺は、フィルビア王国にある会社で働く、冴えない男だった。

 会社の連中は面倒な事を全部俺に押しつけて、そのくせ給料も安くボロ屋暮らし。

 本当毎日が嫌になってきた。

 こんなクソみたいな会社の連中、死ねばいいのにって。

 そんな時だ、俺が組織に関わる様になったのは。

 俺が忘れ物を取りに夜の会社に戻ったら、会社の連中はラフィニアに皆殺しにされていた。

 どうやら連中、ラフィニアのスキャンダルを掴んで、それをネタに脅そうとしていたらしい。

 11年前、当時まだ13歳だったにもかかわらず、既に聖女候補に入っていた秀才だったからな。


「おや、まだ人がいたのですか?どうします?彼らの報復に出ますか?」


「いや、俺はこいつらに大した思い入れはないし、こうなって当然の自業自得のクズ共だ。むしろ清々してるよ」


「そうですか。しかし、これを見られた以上、貴方もただでは済みません。貴方も死ぬか、我が組織の実験材料になるかです」


「それなんだが、俺をその組織に雇ってくれないか?うんざりしてたんだよ、今の生活に。だからアンタ達について行った方が良さそうだ。大丈夫。必ずアンタ達の役に立って見せる」


 こうして、"天の笛"に入った俺は、研究員として働く事になり、成果を出していった。

 そして、裏のルートを使った商売の腕を見込まれ、研究所の所長になった。

 入って1年後、ウィスブール家を乗っ取る際に、俺も双性者(ジェミメイル)の1人、メノウ・ウィスブールとなった。

 親の方を選ばなかったのは良かった。

 領主とか言った面倒な仕事を部下に押し付けられるし、俺も貴族のお嬢様として悠々自適な日々を過ごせるから。

 その分だけ、研究所所長と闇のブローカーとしての仕事に回せるから。

 俺自身も、裏の人間としての才能がここまであった事に驚いた。

 ボロ屋暮らしの社畜が、貴族のお嬢様になっての逆転人生だ。

 しかも、裏の商売で得た莫大な利益は俺の下にも入って来る。

 こんな華々しい人生をくれた組織には感謝だぜ。




 風呂から上がったメノウはバスローブのまま、席に着いて報告書を読んでいた。


「本日の報告の内容は以上です」


「ご苦労。もう下がっていいぞ」


「はっ!」


 メイドが退室したのを確認したメノウは席を立って、ネグリジェに着替えてベッドに入る。


「さて、本日のお勤めもここまでだ。それじゃあ、明日の為にもう寝るとするか。…今回のゴーレム、どんだけ役に立つのか楽しみだぜ」


 そう言ってメノウは不敵な笑みのまま眠りにつく。

 その研究成果を打ち破れるかは、エミリア達次第である。

そして、新たな任務へ。

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