第116話
秋の前の小休止。
アルテミシア学園文化祭を終えてからの連休の残り3日に入ってすぐ、エミリアは冒険者ギルドからSランク会議に呼び出された。
そして会議を終えたエミリアはアラタと共にエントランスホールにいた。
「やっと終わった~!」
「すまんな、文化祭で疲れている所」
「ううん、平気。こっちも丁度暇になっていたから。…やっぱり今回も、会議には私達2人と長老、リアナさんとミザリーさんの5人しか来なかった。本当に集まりが悪いのね」
「それはそうだろう。Sランク冒険者は最高峰の実力の持ち主達。それ故に有事の際には引っ張り出されるが、それ以外での活動は自由だからな。会議でも緊急を要するもの以外でもあんまりやって来ない」
「そうなのね。私も顔合わせをやっておきたかったけど…」
「なあに。気にしなくても、何処かの現場とかでもバッタリ出くわす事になるさ」
「それもそうね。それじゃあ、一緒に昼食でもどう?」
「と言っても、特に決めていないぞ?」
「それなら大丈夫。行っておきたい店があるから」
「どんな店だ?」
「ほら、去年の夏で、あらゆる転移者や転生者がいるって分かったでしょう?それで城の方でも確認が取れた場合、その人の生活の保障もやっておく方針になったのよ。でも、ソーマやトウヤみたいな戦闘能力を持っている人ばかりじゃない。平助さんやアリアみたいな非戦闘員、あるいは民間人だっている。それで今回行く店は、転移して来た民間人の内の1人のやっている店なのよ。何でもその人、修行を終えて自分の店を持とうとした矢先にこの世界に来たみたいで、城の保護を受けたついでに料理を振る舞って、そして城の紹介の下、商業ギルドに売り出して、こっちで自分の店を出して、それが話題を呼んで、大繫盛してるみたいなのよ。確か料理は、ラーメン、餃子、炒飯とか言った名前の中華って言うのに分類されているって話」
「へぇー、何か聞いてみただけで、俺も行ってみたくなったな」
「でしょう?それじゃあ、待たせているカイト達も連れて、行ってみましょう!」
「あぁ」
そうして2人がカフェスペースに行くと、カイト達だけでなくリーゼロッテもいた。
「リゼ?何で此処に?」
「あぁ、実は文化祭の演劇、こっそりお忍びで来ていたアルベルトお兄様とユフィが、私達の劇を録画していたみたいで、それを聞いたリゼが自分も欲しいって言ったから、その受け渡しに」
「酷いですよ、2人共!私を誘ってくれなかったなんて!」
「いや、貴方リリネット王国の王女でしょう?」
「取り敢えず、彼女も連れていくか」
こうして、皆で中華料理店に行く事となった。
アルテミシア城、アルベルトの執務室
アルベルトはシェーラと共に、ダブリスに関する話をしていた。
「街の人達の融合の方も、泥水をろ過するのと同じ要領で分離出来るわ。これも不完全であったが故の、不幸中の幸いね。これも準備が出来次第、すぐに取り掛かるわ」
「分かった。彼らのその後の生活については、ティナーファ領を再び人が住める様、整備を手配しておく。例の認識を操作する結界を解除した際、彼らの記憶の方も弄っておいてくれ。この10年間の空白に疑問が生じない様に」
「分かったわ。…ねぇ、気付いてる?ダブリスの街の様相について」
「あぁ、気付いている。疑似的に再現されていたとは言え、街並みの出来栄えも、設備のインフラも、必要な施設やその要所まで、細かく整えられていた。あれは領地経営の経験から来る物だ。現職の領地持ちの貴族以上の階級が怪しい。証拠があり次第、捜査に出るつもりだ」
「了解。私の手が必要になったら何時でも言って頂戴」
「分かってる」
この様なやり取りをした後、シェーラもすぐに作業に取り掛かるのだった。
ウィスブール家屋敷、メノウの部屋
静かな空間で、メノウはジルティナと共に紅茶を嗜んでいた。
「良い茶葉を使ってますね」
「だろう?こっちも貴族として、ここら辺もこだわる必要があるからな」
「…それで、そちらの方はお変わりありませんか?」
「あぁ、俺達も自分達の仕事はちゃんとやってる。マーティンも領主としての仕事に外交、資金巡りに尽力してくれているし、ピュリファも双性者や合成獣、魔法薬や魔道具に関する実験や研究に精を出している。使用人の連中についてもそれは同じ。俺だって、表向きのお嬢様としての顔もちゃんとやってるぜ」
「それは何より。ダブリスに代わる新しい保管場所の方はどうですか?」
「問題無ぇ。既に使っている所だ。ダブリスみてぇに見つかるへまもするつもりも無ぇ」
「そうしてもらわなければ困ります。手間だって掛かりますので」
「そっちこそ、この前エミリア王女に負けてマズい立ち位置の筈だろう?カラドボルグを持ち出したにもかかわらずだ。アンタも内心冷や汗かいてんだろ?」
「そうですね。ですから、あれから修練を積み直している所ですし、次は本気で行くつもりです。無論、伝説の武具や異世界由来の力の調査も進めております」
「あいよ、了解。こっちでも調査しておくわ」
こうして、2人のお茶会も終わり、ジルティナも屋敷を出るのだった。
時が流れて10月頭、アルテミシア学園も秋を迎えて制服が長袖になり、中間試験を迎えた。
エミリア達も無事に乗り越え、歓喜の声を上げる。
それから程なくして、生徒会の方でも、引継ぎ作業を始める。
次からの生徒会は、会長:エミリア、副会長:カイト、会計:フェリシア、書記:椿、庶務:ネムとなった。
そして生徒会でも現在、引継ぎの挨拶をしていた。
「それでは、今後の生徒会、よろしくお願いします」
「任せて下さい。私達の方でも、生徒会を上手く運営しておきます。アイラ先輩、トール先輩、レニン先輩、今までありがとうございました」
「貴方達も進路の事があるでしょうけど、頑張ってね」
「そちらこそ、卒業後に向けて頑張って下さいね」
こうして、生徒会メンバーも引継ぎが完了する事となった。
夜、女子寮エミリアの部屋
エミリアとフィーナは浴室で湯船に浸かって、ゆったりしていた。
「ふぅ、これで私も全校生徒代表となった訳ね」
「やるじゃない、エミリア。流石お姫様。他の連中と格が違うわ」
「フィーナってば、そう言う事言わないの。私も代表として恥じない様にしないといけないんだから」
「と言っても、普段からのアンタの行いの数々なら余裕でしょう?アンタも王族として恥じない心掛けを常日頃やってるんだから」
「まぁね。私だって王族の責務を背負った者だもの。これくらい当然だわ」
「それに、心配しなくても、皆ちゃんとアンタについて来てくれるから安心して良いわよ。誰からも注目されるカリスマお姫様なんだから」
そしてエミリアとフィーナも浴室を出て、ネグリジェに着替える。
「生徒会長になった以上、学園の方も更に忙しくなるわ。こっちも力を入れないとね」
「なあに。城の方でも机にかじりついているアンタなら、学校の書類仕事くらい大丈夫でしょう?あんまり気負わなくても余裕でやっていけるわよ」
「フィーナがそう言うと、私も気が楽になって助かるわ」
「でしょでしょ~?もっと褒めてくれたって良いわよ~」
「調子に乗っちゃって…」
それから寝る前にやるべき事を済ませた2人はベッドに入る。
「…おやすみなさい、フィーナ」
「えぇ、おやすみ」
そして2人はゆったりと就寝に入っていく。
こうして、エミリア達もまた、静かな学園生活に戻っていくのだった。
今回もゆったりと。




