第115話
文化祭、演劇開演。
アルテミシア学園文化祭、1日目から大勢の客で大賑わいだった。
今年もあちこちで出店で賑わい、客達の声で響き渡っていた。
そしてアラタも、玄関前広場を見渡している所だった。
「今年もあちこち賑わっているな…。毎年皆楽しみにしている事だから当たり前だが…。っと、こんな事言ってる場合じゃない。早く待ち合わせ場所に向かわないと」
そう言ったアラタは正面口へ足を進める。
そしてそこにいたエミリアを見つけて声を掛ける。
「待たせたな」
「ううん、今来た所」
「それで今、自由時間なんだってな?」
「うん、最初の公演まで時間があるから、それまで軽く回るつもり」
「そうか。俺も一緒に回るついでに、公演前に送っていくよ」
「ありがとう。それじゃあ、行きましょうか」
そう言って差し出したエミリアの手をアラタは取り、2人は歩いて行く。
2人はあらゆる出店を楽しむだけでなく、生徒会としての仕事も並行して行っていた。
そして開演時間が近くなったタイミングで2人は聖堂へ。
舞台裏へ集合する。
「おっ、来た来た。皆、エミリアが来たよ!」
「やっと主演が来た」
「って、アラタさんも来てる!?」
「おいおい、彼氏連れて登場かよ」
「姉、エミリア様、皆もう準備に入っているよ!」
「はーい、今行く!」
エミリアが数歩進んだと思ったら、振り返ってアラタにはにかんだ笑顔を見せる。
「…それじゃあ、私達の劇、ちゃんと観て行ってね!」
「あぁ、ちゃんと観ていくよ!」
エミリアが舞台裏の奥へ消えて行った所で、機材担当の内の2人がアラタに寄り添う。
「アラタさん、実は貴方の為の特等席も用意してあるんですよ」
「俺の特等席?」
「えぇ。実はエミリア様、貴方に自分の芝居を一番良い場所で見せたいって言ってまして」
「やっぱり好きな人に一番眺めの良い場所で自分の演技を見て欲しいんですよ!」
「いや~、本当に2人はラブラブカップルなんですね~!」
「そ、そうか。エミリアも気を利かせていたのか」
「ほらほら、早く早く!」
「私達の劇、もうすぐ始まっちゃいますよ!」
そう言いながら2人はアラタを聖堂の最前列の席へ案内する。
そして照明が消えた暗がりの中でスポットライトに照らされた進行役が出てくる。
「皆様、ご来場いただき、ありがとうございます!今年行われる2年1組の演劇は、計4回行われます!只今より、1日目午前の回の開演の時間となります!それでは参りましょう!2年1組より、「プリンセス・イン・ナイツ~お姫様になった騎士~」、どうぞ、ご唱和下さい!」
そして進行役は舞台裏に消えて、照らされた舞台の幕が上がる。
「プリンセス・イン・ナイツ~お姫様になった騎士~」
むかーしむかしある所に、ある国のお城に住まう見麗しいお姫様がおりました。
お姫様はとても美しく、心も清らかで、国中の皆から愛されていました。
そんな彼女のいる城に仕える1人の騎士がおりました。
彼はいつも真面目で誠実で、仕事に実直な騎士でした。
彼はいつも誰かの影に隠れがちで、常に後ろ暗い日々ばかりを送っていました。
そしていつしか彼はこう思う様になったのです。
「あぁ、出来るならせめて、あのお姫様の様になりたい」と。
そんなある日の事、その日、騎士(演:カイト)は非番で森の中を散策していました。
緑あふれる自然の中で、騎士の心が安らいでいくからです。
「…ふぅ、やっぱり自然は良いなぁ。日々の疲れが吹っ飛んでいく。さて、今日は湖まで行ってみようか」
そう言った騎士は森の奥にある、大きな湖まで足を運びました。
光り輝く湖を眺めていると、水辺で楽しく駆け回っている姿が見えました。
森の妖精かなと思ってみたら、それはお姫様(演:エミリア)だったのです。
「…綺麗」
「っ、誰!?」
騎士のふと呟いた声にお姫様は気付き、振り返りました。
騎士も慌てて弁解をして、2人は湖の畔に座って語り合いました。
「驚きましたよ、まさか貴方がこんな所で遊んでいるだなんて」
「私もよくお忍びでこの森に来るのです。此処にいる動物達の姿を見る為に」
「動物達?」
「えぇ、見て下さい。動物達がこの自然の中で元気に駆け回っているでしょう?あの子達のありのままの姿を見る事で、私も心が癒されていくの。あの姿を見てると、私も日々の悩みが吹っ飛んで、明日も国の為に頑張ろうって思えるんです」
「貴方でも、悩む事ってあるんですね」
「えぇ。私だって人間ですもの。悩みくらいありますわ」
「…逃げ出したいとは思わないんですか?皆の注目を集めている身としては、そう考えてもおかしくない筈でしょう?」
「えぇ、私も小さい頃はよく我儘を言ってたものです。それでこっそり城下町に出た事があるんです。街で暮らす人々を見て、羨ましいなって思いましたが、人々の綺麗な部分や汚い部分、あらゆる面を見て、私は本当に何も知らずにいたんだなと思いました。そしてこの森の中で自然に触れて動物達を見て、改めて思ったんです。何時か皆がこの自然と共に居られる様な、素敵な国造りをしていこうって。そう思った事で、毎日を頑張れる様になったのです。皆と分かり合う為に。皆が優しくなれる様に」
「姫様…。僕も手伝います、その思い。貴方の夢は、本当に尊い物だから」
「ありがとうございます。その言葉が、何よりの励みになります」
「それは何よりです。…あぁ、そうだ!僕に付き合って貰えますか?」
そう言った騎士は、お姫様を連れて、崖の上に連れて行きます。
そこは、街が一望出来る場所でした。
「…まぁ綺麗!この様な場所があったのですね!?」
「えぇ、此処は僕のお気に入りの場所なんです」
「私の国、上から見るとこんな風になっていたんですね!この様な場所に連れて来てくれて、ありが…!」
と、その時、お姫様の立っていた崖の淵が崩れ落ち、彼女は真っ逆さまに落ちてしまいました。
騎士も慌ててその後を追いかけ、倒れているお姫様に寄り添いました。
しかし、いくらゆすっても目を開ける気配がありません。
そう、お姫様は帰らぬ人となってしまったのです。
「何て事だ…!僕があんな場所に連れて来たばかりに…!こんな事って…!」
嘆く騎士の前に、1人の魔女(演:ハルトマリー)が静かに歩み寄って来ます。
「そこのお兄さん、一体どうしたんだい?」
「貴方は、誰ですか?」
「私は通りすがりの魔女だよ。そちらの可愛らしいお嬢さんを抱え、何をやってんだい?」
「この方は、僕の不注意のせいで、亡くなってしまったんです。僕は騎士でありながら、仕える姫を死なせてしまった。この方の夢は本当に美しい物だったのに、それを台無しにしてしまった…!こんな事になるんだったら、あんな場所に連れて来なければ良かった…!騎士の代わりはいくらでもいるのに、姫様の代わりはいない…!僕が姫様の代わりになる事なんて出来ないのに…!」
「出来るよ」
「えっ…?」
「私の魔法にかかれば、お前さんをそこのお嬢さんと同じ姿に変えて、代役をさせる事は出来る。その子の記憶のおまけ付きでね。…けど、そうなったらお前さんは元の生活に戻れなくなる。それでも良いかい?」
「…構いません。僕の人生はちっぽけなものです。ですから、それくらい安い代償です!」
「良い覚悟だ。よろしい、では、早速始めよう!」
そう言った魔女は早速魔法を使います。
まぁ、何という事でしょう!
お姫様の身体が光となり、騎士の身体に纏わりつくと、その姿はお姫様の物になってしまいました!
「この顔、この声、この身体、これは確かに私の愛する姫様の物だ。それに頭の中に浮かぶ光景、これが姫様の記憶なんだな」
「これでお前さんは新しいお姫様になった。私の与えた第2の人生、頑張って生きていきな」
「はい、ありがとうございます。では、失礼いたします」
そう言ってお姫様になった騎士は、お城へ帰って行きました。
元の自分については、これから旅に出ると伝言を預かったと言って、城の者達を誤魔化しておきました。
それからの騎士の生活は、実に大変なものでした。
書類整理に社交界に外交と、色々苦労が堪えません。
ダンスや作法等言ったお姫様としてのレッスンも付き纏っています。
でも、騎士はめげる事はありませんでした。
それは彼女との約束があったからです。
皆が自然と共に居られる様な、素敵な国造りを成して見せる。
それこそが、自身に課した約束である為、彼は日々を懸命に生きる事が出来るのです。
そんなある日、隣国の王子様との縁談がやって来ました。
これは王族なら避けられない事です。
それに騎士も渋々ながら、王子様(演:レオニー)との対談に入ります。
「本日は我が国にお越し頂き、誠にありがとうございます」
「こちらこそ、縁談を受け入れてくれて、ありがとうございます。しかし成程、確かに美しい。貴方も噂通りの清らかなお姫様みたいだ」
「お褒めに預かり、恐悦至極でございます」
「少し外を歩こうか」
そして2人は中庭に出て、庭園の橋の上で魚達を眺めている時でした。
「ねぇ、君にはこの水や魚達がどう見える?」
「王子様、それはどう言う…?」
「水の中って、浅い所だと光が差して、とても綺麗に見えるけど、光の届かない深い所だと、暗くて何も見えなくなる。そしてその中を泳いでいる魚達は、静かに揺蕩う様に生きている。それで思うんだ。人間もこんな風に生きられないのかなって」
「…王子様も、私と同じ事を考えていたのですね。私も自然が好きで、皆も共に居られないかと考えているのですよ。ねぇ王子様、貴方さえ良ければ、お友達から始めてみませんか?」
「えぇ、喜んで!」
こうして、お互いの事を知る為に2人は友人から始め、少しずつ距離を縮めて行きました。
それから1年が経った頃、騎士は王子様と、あの崖の上に来ていました。
「綺麗だね。あの街の景色」
「えぇ、私もとても気に入っているのです」
「そうだね。でも、隣の君の方が綺麗だ」
「…っ!王子様、それは!?」
「あぁ、君さえ良ければ、僕と結婚して、2人で幸せを築いていかないか?」
「…良いのですか?こんな私でも?」
「構わないさ。僕は君だから良いんだ」
(…あぁ、姫様。この幸せ、貴方の代わりに受ける事が許されるのなら、どうか受け入れて下さい)
こうして2人は崖の上で口付けを交わして、愛を育む事となりました。
お姫様となった騎士は、これまでにない幸せを受け入れながら、王子様と暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
それからの2日間、演劇も口コミにより大盛況を迎えた。
これにより今年の文化祭は、大賑わいの下、終了を迎えていった。
そして打ち上げの夜、エミリアとアラタは屋上で星空を眺めていた。
「今回の演劇、こんなに話題を生むだなんて思わなかったわ」
「それ程までにお前らの演技と、脚本の腕が良かったって事だろう」
「そうね。ここまでの人気が出たら、アリアに文句も言えなくなるわ」
「まだ気にしてたのか?自分の話を勝手に使われていた事」
「そりゃそうよ。私の家出を童話風にアレンジして使ったんだから」
「でも、あながち間違いじゃない筈だろう?」
「…そうね。私も何時か、あの話みたいに、この国を良くしていきたい。皆の自由と尊厳を守れる様に」
「出来るさ、お前なら」
「えぇ、勿論。だから私の事、ちゃんと手伝ってよね、勇者様」
「当たり前だ。いくらでも付き合うさ、お姫様」
こうして2人は、星空の下で笑顔で語り合いながら過ごしていった。
そして2人も、自分達の物語をハッピーエンドに出来る様、精進するのであった。
ハッピーエンドを信じて…。




