第114話
文化祭の前日談。
文化祭の出し物について、職員会議の結果、2年1組は見事演劇に決定した。
そして教室でも、HRで必要な機材や衣装等に関する話が取りまとめられる事となった。
現在、生徒達も下校の支度に入っていた。
「うちの出し物、演劇に決まって良かったね」
「稽古の方も頑張らないと」
「明日には題材はすぐに決まるぞ。時間が限られている都合上」
「題材が決まったらキャストだけでなく、脚本、演出、設備に至るまで調整しなくちゃならないからね」
「そこら辺についても、明日から詰めて話す事になるから、その時に決めましょう」
「まぁ、エミリアなら何でも出来そうな気はするよ。普段から芝居している様なものだし」
「ちょっとスバル、教室にはまだ人が…」
「大丈夫だ。皆もう帰ってからの話題に入ってて、誰も聞いてねぇよ」
「そう言えば、もう影武者生活も7年経ってるのか。結構板についてるものだから、忘れちゃいそうだよ」
「そりゃあ、最初の頃は基本外付けされた記憶と人格頼りの生活だったけど、今じゃあすっかりお姫様生活にも慣れてきて、自然に振舞える様にもなったわよ。…更に今じゃあ、仮面の浸食も進んで、素顔の方もお姫様らしくなっちゃってるけど」
「もう卒業前所か、3年生に上がる前に、完全に仮面と一体化してそうだもんね~」
「実際になりそうだな…」
「もう、皆して~!」
と、こんな会話をしながら、エミリア達も下校していった。
翌日からアルテミシア学園でも文化祭の準備期間に入っていた。
授業時間の合間を縫って準備に勤しみ、皆嬉々として作業していた。
2年1組の演劇の演目は、アリアが脚本を担当して、「シンデレラ」をベースにしたストーリー、「プリンセス・イン・ナイツ~お姫様になった騎士~」となった。
話の内容を聞いたエミリアは、これは明らかに自分の話をベースにしただろうとクレームを入れたが、アリアはこんな話実話だなんて皆も思わないし、ちゃんと童話らしくなる様にアレンジをしてあるから大丈夫と返した。
衣装担当はティティアを初めとした者達に既存の衣装の貸出を依頼。
機材担当も借り受ける事となった機材を入念にチェック。
舞台担当も大道具と小道具の制作に取り掛かる。
そしてエミリアを初めとするキャスト達も、早速稽古に取り掛かっていた。
カイトの演じる騎士がハルトマリーの演じる魔女と出会うシーン。
「その願い、二度と元の生活に戻れなくなるけど、良いのかい?」
「あぁ、私はこの城に命を捧げた身。国の未来を思えば安い代償だ!」
「カーット!カイトさん、何かちょっと格好付け過ぎじゃありません?もうちょっと抑えてくれませんか?」
「えぇ!?国の事を考えてる騎士としてはこれぐらいが良くない!?」
エミリアが演じるお姫様が、家庭教師の授業を受けているシーン。
「姿勢や動作は気品の現れ。これは基礎の範囲内!」
「ワン・ツー・スリー・フォー、ワン・ツー・スリー・フォー…」
「カーット!エミリア様、いきなり出来過ぎです!もうちょっと加減して下さい!」
「いや、私本物の王女だから、これぐらい出来ちゃって当然なのよ…」
お姫様がレオニーの演じる王子様に手を取られるシーン。
「ようやく会えましたね、麗しのプリンセス…」
「王子様…」
「カーット!エミリア様、レオニーさん、ぎこちないです!もっと自然に!」
「いや、アタシも滅茶苦茶恥ずかしいんだぞ。仕方ないだろう…」
「私だって、こんな姿、大勢の前で見せるとなると、嫌でも意識しちゃうわよ…」
こうして、今日の稽古が終わり、反省会に入っていた。
「皆さん、今日は初日なので、こればかりは仕方ないと思います。そこは私も理解しています。しかし、演劇とは、その役になりきるだけじゃ駄目なんです!如何に多くのお客さんの心を掴めるかが重要なんです!最も重要なのは共感性!そう、どれだけお客さんにお話の内容と感動を届けられるかがポイントなんです!ですので、アドリブも入れても良いですので、私達の劇をちゃんと見てもらいましょう!」
「アリア、凄い張り切ってるね…」
「アイツも神がかってきたって言ってたからな」
「それ程までに、エミリアの話を良いなって思ってたんだ」
「私は自分の話が劇にされて、凄く恥ずかしい気分なのよ…」
「それは僕もだよ…」
「それじゃあ、皆さんもちゃんと台本を見直しながら、役を完成させていく様に!」
こうして、初日の稽古は終了となった。
夜、女子寮エミリアの部屋
エミリアもまた、台本を読み返していた。
「あぁ、この顔、この声、この身体、確かに私の愛する姫様の物だ。…って、我ながら恥ずかしい。それ以前に私、当時こんな風に振る舞ってなかったわよ。色々誇張し過ぎよ。アリアったら、誰も実話の可能性を疑わないからって、私の話を使うだなんて」
「そりゃそうでしょう。傍から聞けば寓話でしかない以上は」
「だからって、私の話をベースにするのはおかしいでしょう。それに、元々家出の最中だったし」
「でも、国の事を考えてたのと、王族としての責任を背負ったのは本当でしょう?だからこうしてハイスペックなカリスマ姫騎士としての人生を歩んでいるんだから。それに、演劇の題材にして貰える程の話だったって事なんだから、ここは誇っておきなさい」
フィーナの言葉に不貞腐れながらも、エミリアは台本を読み返しておくのだった。
こうして時は流れ、学園全体も文化祭の準備が進められていった。
2年1組の方でも、演劇の稽古が着々と進められていった。
「カーット!OKです、皆さん!これならお客さんも満足してくれます!」
「ようやく全体でOK貰えた…」
「こっちも頑張った甲斐があったよ…」
「裏方の皆さん、大道具と小道具そして機材の準備はどうですか?」
「バッチリです!各シーン毎の必要な物の入念なチェックも済ませてありまーす!」
「衣装の方ですが、そちらの交渉についてもどうなってますか?」
「その他大勢の方の役の衣装は貸出で済ませられそうですが、この話を聞いたティティアさんが、主演の衣装は自分がキッチリ作っておくと言ってました!」
「本番の前の細部調整とかリハーサルだってあるんですよ。それに間に合うかどうか…」
「心配ご無用!主演の衣装出来ました!」
と、その場にティティアが駆けつけて来る。
「今回の話を聞いて、私も気合いを入れて、主演の皆さんの衣装を制作させて貰いました!私も職人魂に火が付いた以上、妥協をする気はありません!と言う訳で主演の皆さん、採寸の細部調整をしますので、後で家庭科室に来て下さい!」
「こちらこそ、私達の為に態々ありがとうございます!さぁ皆さん、本番も迫って来ています!舞台の準備もリハーサルも済ませて、本番に取り組みましょう!」
『おぉ~!』
それから一同も、舞台の準備に更に取り掛かるのだった。
夜、女子寮エミリアの部屋
エミリアは通信水晶でアラタと文化祭の話をしていた。
「…と言う訳で、私達の演劇、見に来てくれると嬉しいんだけど…」
<こっちもまた、文化祭に顔出す様頼まれてるからな。必ず見に行かせて貰う>
「ありがとう。公演の時間については、2日共、午前と午後で1回ずつ行う事になってるから。場所は聖堂。生徒会の方も、今年はこれといったイベントがないから良いって言ってくれて」
<そうなのか。それじゃあ、本番楽しみにしてるからな>
「えぇ。それじゃあ、当日に」
と、言いながら通信を終えた。
「…それじゃあ、本番も華々しく飾りなさいよ、お姫様」
「勿論。私だって手を抜くつもりはないから」
こうして時は過ぎて、文化祭本番を迎えていく事となった。
そして文化祭へ。




