第110話
ティアマト編第3話。
案内された神殿の中で、エミリア達は司祭から詳しい話を聞いていた。
「先程も言った様に、封印の力が段々弱まり、以て半日です。その時になれば裂け目から大穴が開き、そこからティアマトが姿を現わします。ティアマトが姿を現した時、その漏れ出る力から地上にも影響が出ます。ですので、地上への被害が広がる前にティアマトを討伐して欲しいのです」
「分かりました。地上には私達の方でも、通信で警戒を促しておきます」
「それで、地上への被害の広がり方については?」
「貴方方がいた島を中心に広がっていく見込みです」
「成程。あの島は元々、ティアマトに所縁のある地だったのか。そしてその場を皮肉にも、リゾート施設として開発してしまったと」
「なら、お兄様達が被害をあの島で、かつ最小限に抑えてくれている内に、ティアマトを討って見せるわ」
「なれば、私達の方でも急ぎ打ち合わせを済ませましょう」
「俺はちゃんとマヤさんの護衛に努めます。元々、その為に着いて来たので」
「マヤでしたら、先程外に出ましたよ?」
「えっ、そうなんですか!?俺、すぐ行きます!」
そう言ってウェインは神殿を出る。
そして断崖の上でマヤが佇んでいた。
「マヤさ~ん!」
「ウェインさん?どうされましたか?」
「俺、元々貴方の護衛で着いて来たでしょう?ですので、貴方と一緒に居させて下さい!」
「…分かりました」
そう言いながらも裂け目を見続けているマヤに、ウェインは声を掛ける。
「…あの、気のせいだったら良いんですけど、あの裂け目に何か思い入れがあるのですか?」
「あっ、いえ、そう言う訳ではなくて、私、小さい頃から、あれを見て育ってきたので。私、昔からずっとあれに惹かれてしまう事があって。それで神官を目指す様になったんです。それで私もティアマトの事を知って、神事にも関わる事にもなって。私、親の顔を知らずに育ってきたものだから、これしか生き甲斐が無くて」
「…俺と同じだ」
「えっ?」
「俺も物心付いた時から親無しの身で生きてきたから。だから"天の笛"以外に、家族と呼べる人間がいなかったんだ。別に寂しかったとかは無かったからね。で、俺は組織の仕事をしながら、俺を捨てた親を見つけて、一発ぶん殴る。そして他にも親を殴りたいって奴がいたら、そいつらの手助けをする。それが俺のやりたい事だ。だからマヤさん、この件が終わったら、一緒に親を殴りに行きませんか?」
「…フフフ!本当、冗談が上手いんですから…!」
「俺、本気だったんですけど!?」
「でも、それも良いですね。考えておきます」
こうして2人は談笑し合うのだった。
神殿での話を終えたエミリア達は、ティアマトの迎撃準備に当たっていた。
先ずティアマトが顕現した際、神殿の裏の広い平地に留まれる様にする為の結界の準備、住民達の避難誘導を済ませた。
そしてエミリア達も、既に戦闘態勢に入っていた。
「まさか貴方と共闘する事になるだなんて」
「我々とて、利害はちゃんと考えていますよ」
「俺としても、協力の申し出は有り難いけどな」
「間もなく、結界の限界です!ティアマトが現れます!」
その言葉と共に裂け目から巨大な穴が開き、そこから巨大な人影が現れる。
それは足首にまで届く白髪と白い肌、十字の瞳孔の入った赤い瞳に頭に角が生えた、際どい部分をギリギリで隠した、巨大な女性の姿であった。
「結界、展開!」
司祭の言葉と共に、平地全体に結界が張られる。
「…幾億年ぶりの現世だわ。この長い年月で随分と様変わりした様ね」
「貴方が創世神ティアマト…。数多の神々を生み、この世界の礎を作った事には感謝しています。しかし、貴方がこの世界を壊そうと言うなら、私達も貴方の蛮行を見過ごす事は出来ません。私達も貴方を打ち倒す事で、今あるこの世界を守らせて貰います」
「我が子達と同じ事を言うの!?貴方達も我が子達が生んだ存在だと言うのに、何て恩知らずな!やはり私の愛を否定する者達は排除しなければならない!」
ティアマトから黒い波動が溢れ出ると、それは地上にまで届く。
ルーミシア島
路地の石畳の隙間から黒い泥が溢れてきたと思ったら、それが肥大化して人の形となり、そして異形の怪物となって、近くの人達に襲い掛かり、あちこちから悲鳴が鳴り響く。
「皆さん、落ち着いて下さい!我々の指示に従って避難して下さい!」
アルベルトが人々に号令を掛ける。
そしてその声に従って人々は避難していく。
避難が完了したのを見届けたアルベルト達は臨戦態勢を取る。
「良いか皆!エミリア達がティアマトの相手をしている間、我々もこの怪物達からこの島を守り通すぞ!」
「了解!」
「僕達の方でも、出来る事をやり通す!」
「カイトさんも気を付けて下さい!」
そう言ってリーゼロッテが避難していく中、入れ替わりに複数人がやって来る。
「これが昨夜、エミリア王女が言ってたティアマトの復活の影響ですか」
「だとしても、俺達も俺達の為すべき事を為すだけだ」
ゼシカ、デューク、ゼイン、レシアンもそれぞれのスタイルで臨戦態勢を取っていく。
「アンタらも避難所の手伝いしなくていいのか?」
「大丈夫よ。メノウちゃんの所の人達を始め、かなりの人達も手伝ってくれてるし」
「それじゃあ、始めようか!」
「ダーリンは私が守るから、安心して頂戴」
"天の笛"の面々も臨戦態勢に入っていく。
ティアマトの気迫に押されたエミリア達も態勢を立て直していた。
「…確かに、貴方からしたら恩知らずかもしれない。でも、子供は何時かは親の元を離れて独立していくもの。子供の自由意思を縛る権利は親にだってない!だから私達は戦う!私達の選ぶ権利の為に!」
ティアマトが背中から6本の竜の首を生やし、その内の1本が迫り、エミリア達は散開。
次々と迫る中、エミリア達もそれぞれの竜の頭に乗っていく。
「良し!このまま本体目掛けて駆け抜けるぞ!」
「させない…!我が子供達よ!」
ティアマトが吠えると、竜の首の上に狼や鷹等言った動物達の形の怪物達が現れる。
竜の首の上を駆けていたエミリア達も怪物達を打ち払いながら進み、それぞれに余った竜の首が迫ってもエミリア達も跳んで乗り移り、交互に迫ってくる竜の首を乗り移りながら本体に近づき、先ずはアラタが空中に乗り出す。
「先ずは俺だ!」
アラタは刀身に魔力を纏わせ、ティアマトの胴体を斜めに斬り裂き、左下の竜の首に乗って剣を振り上げ、右半分の竜の首を斬り落としていく。
「次は私!」
斬り落とされた首の1つに乗っていたエミリアも高く跳んで、左半分の竜の首を斬り落とし、そのまま身体を回転させながら剣を振り上げ、ティアマトの背中を斜めに斬り裂く。
「悪しき神よ、墜ちなさい!」
ジルティナが突きを繰り出してティアマトの胸に穴を開け、ティアマトも態勢が崩れていく。
「まさか…!この私が…!」
「後の事は私達に任せて…」
「大人しく眠りに就くんだな!」
後ろで待ち構えていたエミリアとアラタが虹色に輝く巨大な魔力の刀身を振り抜いて、X字に両断。
身体が4つに斬り裂かれたティアマトは崩れ落ちながら、消えて行った。
「やった…!?やったぞぉおおおお!」
それを見た司祭達も喜びの声を上げ、結界も解く。
神殿長がエミリア達に駆け寄り、声を掛ける。
「ありがとうございます!お陰でティアマトも消滅しました!これで世界は…どうされましたか?」
エミリア達が怪訝な顔を浮かべているのに気づいた神殿長が声を掛ける。
「…おかしい。あっさりし過ぎよ」
「貴方方もそう思いましたか」
「あぁ、相手は曲がりなりにも神だ。この程度な訳がない」
「まるで、わざと倒された様な…?」
「けど何の為に…?」
「…!そう言えば結界は!?」
何かに気づいたジルティナが神殿長に声を掛ける。
「えっ?それならティアマトが倒された以上、もう解いてますよ?」
「マズい!ティアマトの本当の狙いは結界の外に出る事です!」
1人の神官が避難場所に駆け込み、ティアマト討伐の知らせを出して、その場所から歓喜の声が上がる。
「やりましたね、マヤさん!これでティアマトの脅威は去りましたよ!」
「えぇ、そうですね!これで…っ!」
一瞬、マヤは目を見開き、うつむいた後に顔を下げたまま立ち上がる。
「マヤさん…?」
「…そこを退きなさい、人間共よ!」
マヤが顔を上げて目を見開き、強い風を起こして避難場所を吹き飛ばす。
そしてウェインも瓦礫の中から這い出て声を掛ける。
「ゲホ…ゲホ…!マヤさん!?一体どうしたんですか!?」
「マヤ…?あぁ、この器の名前ね?私もこの子のお陰でこうして顕現出来たわ」
「マヤさん?一体何を…?」
「貴方達がマヤと呼んでいたこの娘は、私がこの世界に顕現した際に、私の依代となって私の魂を入れる為の器。この子はそうとも知らずに、今までをただの人間として過ごしてきたって訳。哀れよねぇ。まさか自分が神の魂の入れ物だと知らずに」
「…っ!まさかお前は!」
「そう、私はティアマト。人の肉体を得て、この世界に顕現せしめし神よ」
そう言ったマヤ、否、ティアマトは不敵な笑みを浮かべる。
ティアマトの厄災は、まだ続いているのだった。
戦いはまだ終わらない…!




