第105話
長編の後の小休止。
"天の笛"本部、修練所
辺り一帯が崩れていて、その中央に佇むジルティナは、自らの身体の調子を確かめていた。
「…良し、リハビリは完了。これで私も本格的な業務に戻れます」
確認し終えたジルティナも出入口へ歩き、その傍らにいるラフィニアに声を掛ける。
「ラフィニア、貴方も治療を施してくれて、ありがとうございました。貴方も自分の仕事に戻って下さい」
「あら、そう。それじゃあ、私も外に戻らせて貰うわね」
そう言ったラフィニアは立ち上がって数歩下がった所で、ジルティナに向き直る。
「…あっ、そうそう。そう言えば、ヴァーリ君とファムちゃん、それにレーナちゃん達3人、ファルマータでの任務失敗したんだって?」
「えぇ。やはり陽光の姫君と星空の勇者は、私と同じ領域に達している以上、あの2人の相手をする事は荷が重くなっているみたいです。そしてあの2人だけでなく、フィルビアの王女とブレジアンの王子も双性者と渡り合えると言う話ですし」
「そうねぇ。本当、若い子達の成長って侮れないわ」
「それに、今回の件でブレジアンも我々の存在を認識した事で、アルテミシアとフィルビアとも手を取り合う様にもなってしまいました。ですので、こちらでもブレジアンの支部に既に警戒態勢に入る様、通達しておきました」
「そうなの?まぁでも、私やラーナとかはまだ気づかれてないし、私達の方は問題ないでしょう。じゃあ、私もそろそろ外に戻るから、後の事はよろしくね」
そう言ってラフィニアは修練所を去っていった。
「…はぁ。また戦力の見直しと増強をしなくては」
夜のウィスブール家の屋敷の中、メノウは自室のソファーで、上半身が女性になってる執事の胸を鷲掴みしていて、ソファーに座らされている上にスカートの前部分が不自然に盛り上がっているメイドのスカートの中に裸足の足を入れていた。
「あん…!メノウ様ぁ…、私の胸を強く揉まないで下さい…!感じてますからぁ…!」
「おぅ…!メノウ様、私もスカートの中が硬くなって窮屈になってきているから、あんまり刺激しないで下さい…!」
「良いじゃねぇか、主人の暇潰しに付き合うくらい。俺も今退屈しているんだよ。…しっかし、エミリア王女がエクスカリバーを手にしただけでなく、あの隊長を負かしただなんて。陽光の姫君エミリア・フォン・アルテミシア、星空の勇者アラタ・ホシミヤ。エクスカリバーとデュランダルの使い手にして、最高点の頂きに達した者達。こればかりは流石に組織としてもヤバい。急いで手を打っておく必要があるな」
そう言ったメノウは1人、思案に入り込むのだった。
ファルマータでの会議を終わらせ、城に帰って来た王族達は、早速溜まった公務を片付けるのに大忙しだった。
当然、エミリアも自身の執務室で、カイト達と共に書類整理に勤しんでいた。
「…ふぅ。これで溜まってた書類も粗方片付いたわ」
「思ってたより少なくて助かったね」
「ここら辺は、公務を代行してくれていた大臣の皆さんに感謝だね」
「そうね。最近じゃあ、ユフィも公務を手伝う為の勉強を頑張ってるって話だし」
「あぁ、そう言えば、アラタさんもしばらく冒険者ギルドなんだっけ?」
「そうよ。長老に推薦された件もあって、次期Sランクリーダーに必要な教育も、これを機に急ピッチで進めて終わらせておくって言ってたわ。アラタなら、1週間も掛からないでしょう」
「やっぱりアラタさん、優秀である事に変わりないんだね~」
「それよりも、レオニーとリオンさんの事、気にならない?帰って来て早々、修練所に籠ってるし」
「ファルマータでの件、やっぱり2人も堪えてたみたいだね」
「今はそっとしてあげましょう。2人にだって、気持ちを整理する時間くらい必要よ」
「そうだね。僕達も2人を信じてあげよう」
「そう言う事。じゃあ書類整理の続きよ」
そう言ってエミリア達も、止めていた手を動かし、書類を片付けていくのだった。
修練所
一通り身体を動かし終えたレオニーとリオンは一息付いていた。
「ふぅ…、今はこのくらいでいいか」
「そうですね…」
「…やっぱりお前も悔しいって思うんだな」
「当たり前です。私だってそれくらいの感情はあります。レオニーさんだってそうでしょう?」
「当然だ。アタシだって悔しいに決まってんだろ。…アタシもどっかで調子に乗ってたかもしれねぇな。今思えば、ケイリーの奴はピンキリのキリでしかなかった。だから喰ってやる事も出来たんだと思う。けどあんな現実を突きつけられて、本当に悔しかった。エミリアの話じゃあ、今のアタシはBランク程度だって話だ。カイト達と同じレベルまで届いちゃいねぇ。そりゃ負けて当然だ」
「私も、どこか甘えていた所があったかもしれません。だから私まで負ける事になったのかもしれません」
「かもなぁ。お互い、この悔しさをバネにして、前に進んでいこうや」
「はい!」
そう言いながら立った2人は笑顔で向き合う。
「ありがとうございます!お陰で私も吹っ切れました!」
「それはアタシもだ。じゃあ、あんまり心配かけたくねぇし、そろそろ戻るわ」
「そうですね。では私も、エミリア様のベッドへ…!」
「行かせねぇよ!」
と、レオニーはリオンにアイアンクロウを掛ける。
そんな2人の顔には、もう迷いは消えていたのだった。
そんなこんなで3日後、アラタがアルテミシア城に来て、事後報告をしていた。
「次期Sランクリーダーの勉強を終わらせてきたぁ!?」
「まさか1週間どころか、3日で終わらせるだなんて!?」
「俺だって王族の恋人なんだぞ?これくらい出来なくては、割に合わないだろ?」
「まぁ確かに、それくらいやってのけないと、周りを黙らせる事は出来ないものね。それじゃあ、これからのスケジュールに空きがあるなら、私の出張に付き合って貰えるかしら?」
「別に構わないが、何処へ行くんだ?」
「リリネット王国よ。ほら、前にリゼが言ってたでしょう?またお互いの国に遊びに行ける様、取り計らっておくって。ようやくその為の手続きが終わった所だから、私が代表して挨拶に向かうの」
「あぁ、そう言う事か。リゼも喜ぶだろうな」
「えぇ。それに…」
と、エミリアはカイトに視線を移し、アラタも納得の表情を浮かべる。
「…あぁ」
「姉さん、アラタさん、何その顔?僕がどうかしたの?」
「別に~?それじゃあ、早速明日から向かうから、皆も荷造り済ませておいてね」
こうして一同は、リリネット王国への遠征の為に、一旦帰宅しておくのだった。
夜、エミリアの自室
エミリアはリーゼロッテと通信していた。
「…と言う訳で、明日は私達そっちに行くからよろしくね」
<はい!私も楽しみにしてます!>
「えぇ。後、カイトの相手も頑張ってね」
<えっ!?エミリアちゃん、何を!?>
「見れば分かるわよ。貴方、分かりやすいし」
<えぇ!?そんなに分かりやすかったですか!?>
「えぇ、凄く。まぁ本人はまだ気づいてないし、貴方も結構奥手な方だし、時間はかかるでしょうけど、根気強くやっていきなさい」
<もう~、エミリアちゃ~ん!>
「うふふ、ちょっと揶揄っちゃった。貴方、本当に反応が可愛いんだから。それじゃあ、また明日」
<はい、また明日>
そう言って通信を切った所で、フィーナが飛んでくる。
「…アンタだって、人の事言えないでしょ?」
「フィーナ、それどういう意味?」
「アンタもアラタの前とかで可愛い所以外にも、結構女の子らしい所見せてるじゃない。いや、アラタの前じゃなくても見せてるか。頻度はアラタの前が一番多いってだけ。まぁ、これについては、これまで出会った人々のお陰でアンタも変わったって事ね」
「私、そんなにリゼの事言えないでいたの?…まぁ、それもそうね」
「まぁ、アンタ達については、既にお互い惹かれていたから、すぐに交際出来たのよね。向こうについては、どれだけ時間がかかるか分からないけど、温かい目で見守っておきましょう」
「そうしておきなさい。それじゃあ、私はお風呂入るわね」
「あっ、私も私も!」
そう言って2人は風呂場へと向かって行った。
そして明日のリリネット王国の訪問の為に、2人も夜のルーティンを済ませて眠っておくのだった。
次回、リリネット王国へ!




