51 春
立春にはなったが、寒さがやわらぐまでにはもう1ヵ月は必要だった。
鬱々して眠い。城中ではケンカが増えた。センカはケンカこそしないが、昼寝をすることが増えてしまう。
それでもだんだん寒さが穏やかになり、晴れた日には泥まじりの雪を通りの端に寄せる仕事が増えた。
体は疲れ切ったが、部屋の中で何もしないよりマシだ。
(肉体労働が楽しくなるだなんて、ここに来なければ知らなかったね)
ポカポカする体から汗をふく。
タオルはないので古布の再利用だ。
そして待ちに待った春が来た。
黒い地面が緑になる。
地面が雪解け水でぐちゃぐちゃになる中、センカは年が明けて初めての見回りに出かけた。
「うう、新緑が目に染みるね。やっぱり自然はいいよ」
気持ちよく深呼吸すれば、他の兵士たちも賛同する。
ただ去年の秋まで頑張って開通させた街道はすぐ再開できなかった。
道幅を広く取っていた場所は何も問題がないのだが、幅がせまい場所には雪が詰まって凍っている。
「シャベルとツルハシでは少しずつしか進めません。全部溶けきるまで作業は中断のままです」
ルーギルさんから報告されて、センカはへこんだ。
隣町までいったいどのくらいかかるんだろう。
それでもセンカたちにできることはあった。
養蜂用の箱を花畑の側に置くとか。
「ミツバチに気に入られますように」
気休めかもしれないが、魔法石に願いをかけた。
町から前線基地までの地面が耕され、種麦がまかれる。
放牧地には牛や豚が解き放たれた。
「子牛が生まれれば新鮮なミルクが飲めますな」
兵士の言葉でセンカは思い出す。牛が乳を出すのは子供を養うためだったことに。センカたちにとって牛乳は店ですぐ買える物だったから。
(それなりに本は読んできたけど、知らないことばっかりなんだな)
センカはため息をついた。異世界に召喚されたことで、前の世界では学ぼうとしなかった知識を得られることに。
(学校だけが学ぶ場所じゃないんだよね)
「この春は魔獣の襲撃が少ないようです。間伐を行った成果でしょう」
ルーギルが嬉しい知らせを教えてくれた。
「街道も通行可能になりました。どうでしょう、久しぶりに女性陣も道造りに向かいませんか?」
センカもヒメコも、意義などありようがない。夜警には行かない他メンバーも賛成した。
そしてみんなで道にはびこる草を刈る。
作業中はルーギルが現場の責任者なので、センカたちは部下として扱われる。
当然敬語もなしで。
「雪対策に緩衝地帯は必須と判断した。初めに作った計画の通り、道幅は2ケンとし、間伐も同じだけ行う」
ケンは大人が腕を広げた長さ。つまり道幅プラス左右の間伐を考えると、大人6人が手を広げる長さになった。10メートル以上の幅を整備しなくてはいけない。
手を入れる人数は多いのと、去年ちゃんと整備したことから、それなりに進みは良かった。
「これなら、廃村までひと月で行けるな」
ルーギルがうなずいている。
簡易柵に泊まる兵士たちに注意点を言い渡し、ルーギルはセンカたちと共に城へ。
彼はその後も時々はセンカたちを街道整備に連れて行ってくれるようになった。
日がだんだん長くなり、麦畑が緑色に染まる。
「うわあ、ここが廃村かぁ」
とうとう街道が廃村に達する。
木々の間に朽ちはてた家々が見えるのだ。
馬に乗る練習がてら、ルーギルは日本人組を廃村に連れて来てくれた。
今まで城と取り囲む町しか見たことがなかったから、センカたちは興奮する。
「新しいマップに到着だね」
兵士たちは次々と廃屋に向かって行った。
物珍しいのは彼らも同じなのだ。
「補修して使えそうなのを探せ」
センカたちは村中にはびこる低木を切り草をぬき、空間を作っていく。
去年の秋に多少は整備したので陣営地の跡は分かるが、それ以外は全然なのだ。
「村全体を柵で囲って、休めるようになるといいよね」
「最終的にはそのつもりだ」
間伐で切り出した木材が柵になって行く。
今日は数人しか泊まれない広さだが、これからドンドン広げて行くのだ。
センカたちは日帰りなので、草刈りの作業を2時間ほどで切り上げる。




