50 真冬
「お裁縫もやってみますか?」
ネミに誘われて、奥様の居間での裁縫会に参加する。こちらの針は向こうより大きく、糸も太い。
センカは4枚はぎのキルトに挑戦したが、ヒメコは人形を作った。
「な、なんてかわいい」
ネミが驚愕して、他の使用人に見せに行く。ヒメコの人形は大人気になった。
「そっか、向こうだって日本は外国よりカワイイが進歩していたんだから、この世界だってそうじゃん」
そもそもこの国で人工のかわいいは存在していたのだろうか?
ヒメコは人形作りで忙しくなった。おそらくその内、伝説の人形作りとかになりそうだ。
(ルーギルと結ばれるまでには遠そうだけど)
前の世界だって日本のかわいいが世界に認められるのには時間がかかったらしいとセンカは思い出す。
「これなら人形劇ができるよね」
ある日出来上がったパペットを手にはめて、ヒメコが提案する。
「めっちゃいいじゃん」
人形劇は城の人間全員を魅了した。
「こんな世界があったのですね」
ルーギルもヒメコを絶賛だ。
「いつもの冬よりずっと快適に過ごせています。みなさまに感謝を」
夕飯の時、領主アノールから正式に礼を言われた。
(城に引きこもりで退屈していたんだろうな)
晴れた日の雪かきは大変だが、吹雪で閉じ込められるよりマシだった。
雪が降るととにかく暗い。ロウソクやランタンはあるが、数に限りがあってあくまでまっ暗を避けるレベル。
ガラス窓が大広間にしかないのだから、窓を閉めたら昼間だってわずかな光すら入らない。
魔法石の役割はもっぱら明かりを灯すことになった。ロウソクは貴重だし煙が臭いので、しょっちゅうは使いたくない。
「春になったらレンズの研究をしようかな」
タジリさんがつぶやいていた。
レンズがあればもっと明るさが増えるのだとか。
「もうすぐ冬至ですね。ささやかですが宴がありますよ。子供たちには贈り物をします」
広間でクアモから風習を告げられ、センカたちはハッとした。
「こっちにも似たような行事があるんだね」
「っていうか、まんまクリスマスじゃん」
「みんなに人形を頼まれたのはこのせいだったのね」
冬至祭は吹雪が吹き荒れていたが、大広間で明かりをたいたので久しぶりに華やいだ。
ごちそうの目玉は天然酵母を使ったフワフワパン。
そしてたっぷりの野菜で飾り付けられたガチョウの丸焼き。
脂肪分が多く独特の風味はセンカの好みだ。
だけど他の日本組はあんまり食べず、副菜のスープやパイばかり食べていた。
暖炉には惜しげもなく薪が放りこまれていて、側に寄ると暑いほど。
収穫祭の時と同じように音楽が演奏されたが、歌を披露した吟遊詩人はエイナルではなかった。
(ここにいないで、どこにいるのよ)
センカは少々不満だったが、宴会の楽しい気分で忘れてしまった。
春が来るまでは本当に長く感じた。
暗い城に閉じこめられていると、気分が本当に陰鬱になるのだ。
「皆の者、厳しい冬をよく耐えぬいた。明日からは新しい年だ」
夕食時、領主のアノールによる演説で年が明けるのだとセンカは気づく。
新年は、冬至から大体2か月後だった。
(新年が来るのは、私たちの国で言うところの立春なんだな)
保存食にも飽きてきたので、春が待ちどおしくてしかたない。
お話会で披露する話題もとっくにつきていた。
「スマホで確認出来たらな」
センカのつぶやきにみんなうなずく。
お話会や人形劇がなくなると、自然と男女別に集まるようになった。
男性陣は広間でトランプや追加で作ったオセロを楽しむ。
女性陣は奥様の部屋で編み物や縫物。
チマチマ編みながらおしゃべりするくらいが唯一の楽しみだったが、それも話題がなくなって、みんな無言になりだす。
熱を失う指先に息を吹きかけながら、センカは編針を動かした。
(ヒメコとルーギルの恋仲も進展してないっぽいんだよな。これじゃ恋バナもできないじゃない)




