48 ヒメコ 収穫祭の夜
2人で城を進む。
ヒメコは何を話せばいいのか分からないから無言だ。
ルーギルさんも特に話さず、静かなまま2人は階段を上って城のバルコニーへと出た。
「ここなら広場が良く見える」
ルーギルさんの言う通り、お祭りで騒ぐ人々がたくさんいる。
喧騒も、離れていれば気にならない。
「もうすぐ、日が沈みます」
夕日が、大きなルビーのようにきらめく。
「きれい」
ヒメコがつぶやくと、ルーギルさんもうなずいた。
「その、ヒメコ嬢に頼みたいことがあるのですが」
ルーギルさんがポケットから小さな包みを取り出す。
ヒメコの心臓がドキンとはねた。
「これを‥センカ嬢に渡していただけないでしょうか」
ヒメコの視界がまっ暗になる。
(なんで、私がそんなことしなくちゃいけないのよ)
嫉妬で気がおかしくなりそうだ。
「彼女には色々と助言をもらったので、そのお礼がしたいのですが‥私からは受け取ってくれなくて」
心が冷たい。
今にも涙が出そうになる。
「それで‥もし良ければなんだが‥ただ頼むのも悪いと思いまして‥」
ルーギルさんの歯切れが悪い。
「こんな物を用意したんだ。受け取っては‥くれないでしょうか」
センカ宛よりはるかに大きい包みがヒメコに向けられた。
「誰に、ですか?」
ヒメコは恐る恐る聞いた。
もし期待してしまったのにレナさんとかスズカさんへ、なんて言われたら、しばらく立ち直れないだろう。
「もちろん、あなたに、です。お嫌だったらあきらめます」
ヒメコが視線をルーギルさんに向けると、彼の顔は夕日のようにまっ赤に染まっていた。
見つめ続けると、耐えきれない様子でそっぽを向いてしまう。
「ありがとうございます」
ヒメコはなんとか言葉をつむぎ出し、包みを2つ受け取った。
部屋に戻るまでの記憶はヒメコにない。
センカが戻って来た時にはもう着がえてベッドに入っている。
「どうしたのヒメコ、お顔がまっ赤よ」
ヒメコのただならぬ様子をセンカはニマニマしながら指摘する。
「今日はね、ルーギルからヒメコを連れ出して欲しいって頼まれてさ。でもヒメコが城に入っちゃったじゃん。そしたらルーギルったらあたしを放ってヒメコを追いかけて行ったんだよね」
だからすぐ助けてもらえたんだとヒメコは納得する。
「それ、ルーギルさんから頼まれた‥」
うつぶせのままヒメコは、ベッドわきのテーブルに乗せた包みを指さした。
センカはごそごそ包みを開いている。
「前のリボンじゃん。あんのヤロウ、いっぺん絞めてやろうか?」
センカの口から不穏な言葉が飛び出すから、ヒメコはジタバタしてから顔を上げた。
「私ももらったから、大丈夫」
「え? えええ、やっとアイツ告白したの?」
センカの気の早い予想を否定して、ヒメコは白状した。
「手袋と帽子もらった」
ルーギルさんからもらった包みには、上品な手袋とかわいいフードが入っていた。
これから寒くなるからだろう。
「実用品か、でもアイツにしては気がきいてるのか? どんなの? 見せてよ」
プレゼントを見せてやっとセンカは落ち着く。
「うわぁ、あたしのより、ずっとお高そうですなあ」
「センカもそう思う?」
「思う思う。これで鈍感ヒロインのヒメコさんも、ヒーローの気持ちに気がついたんじゃない?」
ヒメコはそれには何も答えず、毛布を頭からかぶった。
次回からは1日置きで投降します。毎日だとストックが持ちませんね。




