46 収穫祭
忙しくしているとあっという間に秋が過ぎ去る。
そして良く晴れた秋の日、収穫祭が行われた。
「今年は異世界の方々の尽力で、例年より豊富な収穫をあげられた。町のみなで喜びを分かち合おう」
広場に集まった人には酒がふるまわれた。
出店も集まり、肉や果物を売っている。音楽が演奏され歌が歌われた。
今日のためにニシカワさんは骨で出汁を取っている。
センカも野菜を切るのを手伝う。
「カップを持って来て下さい! 異世界のスープですよ」
1杯につき小銅貨1枚のスープは、初めは売れなかった。
しかし数人が飲めば後は勝手に宣伝してくれる。
「何だ、このうんめえ汁は」
客は次から次へと現れ、大鍋はからっぽになった。
スープが売り切れたから、異世界組の出店は閉店。
センカは広場をぶらぶらした。
いつもは勝手に出歩けない町だけど、今日は護衛なしで自由にさせてもらえる。
(広場から離れなければいいんだよね)
さすがに路地裏とかは危険すぎて禁止されていたが。
センカはウキウキで屋台を見て回った。
売られているのはいつもよりカラフルな商品。装飾品や調理済みの食べ物が売っているのは珍しい。
普段売られているのは食材とか道具ばっかりだから。
異世界小説の定番、串焼きも買ってみる。
肉は固いし味も薄いが、独特のうまみがあった。
にこやかに見て回っていたセンカの足が止まる。
楽器を奏でて歌っていたのはエイナルだった。
センカ以外の人と一緒にいる姿は初めて見る。
「ああ、素敵ねぇ」
「あ、あの」
うっとりしている女性をつかまえセンカはたずねる。
「あの人誰なんですか」
「吟遊詩人だよ、知らないのかい?」
吟遊詩人、言葉は知っていたが見るのは初めてだ。
(やっと職業が分かった)
エイナルの雰囲気が不思議だったのは詩人だからかもしれない。
彼を見つめていると、目が合う。
クスッと笑うエイナルに、女性たちから黄色い声が上がった。
(この世界のアイドルなんだな)
センカは豊穣を祝う彼の歌声に聞きほれた。
歌が終わり、エイナルにも酒がふるまわれていた。
センカは近づく。
「久しぶり」
「うん久しぶり。ふふ、この姿で会うのは初めてかな」
エイナルはいつもより着飾っている。
「そうだね、他の人と一緒にいるエイナル、初めて見たよ。吟遊詩人だったんだ」
「まあね。今日みたいな日はみんな僕が見えるから」
彼の言葉は大勢の喧騒にまぎれ、ちゃんと聞き取れない。
聞き返そうとしたセンカの腕が、後ろから引っぱられる。
「やっぱり女の子だ。お嬢さん、男の子みたいな恰好でどうしたんだい?」
知らない男だ。珍しくナンパされたみたい。
肩までしかない短い髪も、ズボンをはいていることも、この世界の女性にはありえないからだろう。
「この子は僕の連れなんだけど」
腕を振りほどこうとしたら、エイナルに顔を寄せられてしまった。
白くてきめ細かい肌がすぐそばにある。
「ちぇ」
ナンパ君はすぐ引き下がる。
「君はかわいいからね、目をつけられちゃうんだよ」
異性に「かわいい」なんて言われたら、センカの顔はまっ赤になってしまう。
「向こうまでおくる」
知り合いが広場の中央に集まっていた。
センカが向かうと、エイナルは手を振って人ごみに戻って行く。
「異世界の歌を聞かせて下され」
周りからはやし立てられ、日本人組みは歌を歌うハメになったようだ。
「何歌う?」
「この雰囲気に合う歌知らねえよ」
ちょっと戸惑ったけれど、八人は紅葉を歌った。
日本っぽいし季節的には問題ないし。
「あーきのゆーうひーにーてーるうやーまもーみいじー♪」
センカは歌詞を覚えているかと言えばあやふやだったけど、何とか歌いきる。
それなりに楽しかった。




