45 秋
「この化粧水はとても素晴らしいわ」
「それはヒメコが考えたんですよ」
数日後、奥方様が感動を伝えてくれたので、センカはやっとヒメコの宣伝に成功した。
「まあ、ありがとう。ヒメコさん」
小さな素焼きの壺をいくつも用意してもらって、ヒメコは化粧水をつめる。
センカはその壺に一つ一つ文字を書いた。
「へえ、この世界の文字、もう覚えたんだ‥って、何書いてるの!」
この世界の文字を書くのは難しいから、あらかじめお手本をクアモに書いてもらっていた。
「いいじゃん。分かりやすくて」
小壺にかいた文字は「ヒメコの水」だ。
こちらの文字は教わっていたので、ヒメコにも読めることは読める。
「オーデコロンだってケルンの水って意味だったし、ヒメコが作ったんならヒメコの水でしょ」
「恥ずかしいからやめて」
(フフフ‥こうやって名前をアピールして城のみんなを洗脳するんだよ!)
秋が来る。ブドウが熟した。
野鳥がつつき始めているのを見回りの兵士が気づき、みなで収穫に走ったのだ。
「鳥に盗まれてたまるかぁ」
酒好きの酒にかける情熱は、未だセンカには分からない。
とにかくブドウはどっさり収穫できた。カゴがいくつもいっぱいになる。
城に持って帰り、まず井戸水できれいに洗う。
新しいタライを用意させていたから実をドンドン入れ、足でつぶす。
ちなみに足は井戸水で洗った後蒸留酒で消毒したからとってもきれいなはず。水虫の有無は確認した。
「これを樽につめれば、発酵するはずなんだよな」
アダチさんが自信なさげにつぶやいている。
スマホは使えないから全部うろ覚えの作業になってしまうのだ。
期間は1か月をめどにした。
秋はみな収穫に忙しい。
女性や子供がかりだされて木の実やキノコの採集に向かう。
センカたちも手伝った。
畑では豆類やタマネギが取り入れられ保存される。
収穫が見こめない冬の間の対策らしい。
麦は夏に収穫した分が倉に積まれていた。
川が凍らない内に水車で粉にするらしい。
城の軍事訓練は休みになった。
兵士たちも見回りや道造り以外は畑仕事に駆り出されるのだ。
そしてワインは一応の完成を果たす。
「まあ悪くはないかな」
「ワイン、だよな」
「完成でいいんじゃないんですか」
大人組の感想は良く分からないが、とにかく壺に詰める。
牛や豚がつぶされたようで、食肉へと加工された物が城へ運ばれた。
城の倉庫には次々と作物が運ばれてくる。多種多様な根菜に燻製肉や塩漬け肉。
大事に使っていた塩が大量に使用されるのは見ものだ。
「そろそろ肌寒くなりますね」
ネミがショールやブーツを出してくれる。
「毛布も足しておきます。それでも寒かったら教えてください」
そろそろ衣替えの季節なのだ。
「冬服をもらったら、また魔法で調節するのかな」
「この国の冬服って、どんなのかしら」
増えた毛布にくるまって、センカとヒメコはこそこそ話す。
大声で話すと隣の部屋に丸聞こえなのは学習したから。
翌朝、交代で戻って来た兵士が騒いでいる。
センカは期待をふくらませて聞きに行った。
大抵騒ぐのはクマかシカが獲れた時だ。獲物が肥える秋は狩りの季節だから。
しかし聞こえてきた言葉はセンカの予想外。
「街道の中間地点に村の跡を発見したって」
ニュースは城中に広まる。
「人が絶えてから何十年もたっているが、廃墟はある。建物の基礎は無事だからそこに陣営地を設置しよう。ついては各班の役割と当番の見直しを話し合うので小隊長は残るように」
食事の席でルーギルが通達した。
隣町まであと半分。
センカは目を閉じた。街道整備を始めてから三か月弱くらいだ。
「雪が降り出すまでが勝負だな」
(そうか、秋が終わったら冬が来るんだ)
異世界での初めての冬。
一体どんな風になるのかセンカにも分からない。
「来年はもっと塩が安くなるといいね~」
センカはヒメコと話しながらハッとする。
(来年まで異世界とか‥考えたくないな)




