44 ウィスキーと化粧水
ガラスの蒸留器が完成した。これで麦酒の蒸留ができる。
すごく原始的な構造だけど、ガラス瓶には支えがついている。ツボを傾けるよりマシ。ゴムはないけど、コルクで代用していた。
サクマさんのアドバイスで、今度は水に漬けた麦を煮込まずに発酵させた。
でき上った蒸留酒はアルコールと言うほどの度数ではなかったが、飲用には十分らしい。
「これ試行錯誤すればウィスキーになるわよ」
「とにかく条件を変えてデータを取ろう」
サクマさんとニシカワさんが盛り上がっている。
センカとヒメコは良く分からない。
残念ながら、またヒメコの手柄にはなりそうになかった。
「何回かくり返せば純度が高まるよね」
ヒメコはのほほんと構えている。
それからの休憩時間は毎日蒸留にあけくれた。
アダチさんやタジリさんも加わって、大人組はいかにおいしいお酒を造るかの実験だ。
失敗した蒸留酒はセンカとヒメコがもらい受け、アルコールの純度を高める実験に使用。
蒸気を吸いこんでクラっとしかけた時はビビったけど。
換気を良くして再挑戦。
そしてアルコールもどきが完成しかけた頃、ヒメコがおずおずセンカにうちあけた。
「あのさ‥ 化粧水だったら精製水で良かったんじゃ‥」
「マジか」
センカはがっくり崩れ落ちる。
精製水は水を蒸留しただけでできるから。
(今までの苦労は? いやアルコールは消毒にもなるから必要で無駄にはならないけど。もっと早く言ってよ~)
まあアルコール以外の成分が分からないから、化粧水の試作には精製水で行う。
「確かに精製水があれば化粧水が作れるわね! 後は精油と保湿剤かしら」
ニシカワさんは昔手作りの化粧品にもはまったらしい。
「精油なら知っているけど、グリセリンがないのよね。他にはクエン酸とかヒアルロン酸かしら?」
ニシカワさんいわく、化粧水に必須なグリセリンは石油から作られるとか。
「この世界で石油なんて不可能でしょ」
ヒメコも頑張って聞きこみをしたが、燃える液体の話はトンと聞かなかった。
「クエン酸とかヒアルロン酸って、どこで手に入るのかなぁ」
センカたちがうなだれていると、サクマさんが知識を披露してくれる。
「クエン酸ならお酢に入っているから。ヒアルロン酸は卵のカラについている薄皮を精製水に漬けこんだだけでも抽出できたはず」
リケジョ2人の知識に、センカとヒメコは太刀打ちできなかった。
とにかく作り方だけ聞いて実行するしかない。
城の薬草畑にローズマリーは生えている。
油は貴重だが少量なら分けてもらえた。
洗って乾燥させたローズマリーを植物油につけて1か月冷暗所に保存。
清潔な布でこし、清潔な容器に入れる。
これで精油のでき上り。
それに合わせて洗った卵のカラから薄皮をはがし、精製水につけこむ。
「これだけでも化粧水にできるよね」
サクマさんは顔につけていた。
ヒアルロン酸水溶液に精油を垂らして、とりあえず化粧水の完成とする。
「精製水だと持たないから、薄皮は蒸留酒に漬けた方がいいわね」
ニシカワさんの助言で、アルコール作成の手間が役に立つことが判明した。
忙しい日々は過ぎ去っていく。
秋風が吹き木の葉が色づき始めた頃、蒸留酒と化粧水は完成した。
「さすが異世界の英知」
「みなさんの努力のたまものですね」
領主夫妻には褒められたけど、これはあくまでみんなの手柄だ。
今回もヒメコは目立てなかった。
「こ、これはなんてうまい酒だ」
「初めての味ですわ」
しかもウィスキーの方が断然目立っている。
「麦酒の材料を大量に使用するので、まだ量は作れません」
「うむむ、魔獣の被害も減ったし、来年は麦畑を広げようぞ」
領主アノールの熱気に、センカはつい口を出してしまう。
「大幅に増やすのは生態系を乱します。余力で作れる分に収めて下さい」
ヨーロッパって自然を開発し過ぎて、近代でやばい目にあったはず。
(この世界にも今の内から環境保護の考えを教えとかなきゃ)
センカはちょっとあせる。
「センカ殿の言葉は聞いておいた方がよろしいかと。ブドウの生育も、街道の整備も順調ですから、酒にはことかかないはずですよ」
息子のルーギルに諭されて、領主もちょっと落ち着いた。
とりあえず権力者に好印象を与えられたし、自分の肌荒れも改善したので、ひとまずセンカは良しとする。




