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おっかなびっくり、というか割とマジで吐きそうなレベルで気持ち悪い状態で、お姉さまの後をついていく。
脳内でああしようこうしようと考えてたプランが真っ白になっていくのが分かる。座ってる人、ぱっと見普通のおじさんの筈なのに、プレッシャーがヤバい……!!
というか足立山さんどこ!? なんか先に潜入してるとかいう話聞いたけど、それらしき人全くいないんだけど!? 心細いよぉ、お姉さまとも親しい訳じゃないから一人の時以上に心細いよぉ……。
「随分と厳重ね。私達がそんなに恐ろしいのかしら、クソ親父」
「クソおやっ……しずくお姉さま? だっ、だいっ大丈夫なんですか!?」
クソ親父言っちゃった、クソ親父言っちゃったよ!? 大丈夫なのそんなこと言っちゃって!?
激昂されて殺されない? 殺されるよ前世のあの施設だったら!!
うん、流石に開幕クソ親父は不味い。
ううっ、相手の反応が怖い……鞭とか出してきて叩いてきたりしない? スタンガンで延々ビリビリされたりしない?
お姉さま盾に様子を窺おう。
「……それが、みちるか」
「見て分からないなんて随分と耄碌したみたいね、そろそろ辞職でもして後継に譲ったら?」
「そうしたいのは山々だが、貴様等のせいで引退もできん。育ててやった恩を返さない人間ばかりを育ててしまったばかりにね」
「こればっかりは遺伝ね。あんたかあんたの両親か、どっちの血が悪さしたんじゃない?」
うわあ、うわあ……バチバチにやり合ってるぅ……こわっ、お姉さまも父親らしき人もこわっ。
私? お姉さまの車いすの後ろでガクガクガタガタ震えてるよ。何だよこの人達、なんで開幕こんな皮肉の応酬してんだよ胃が痛くなってきた。
あっ、父親らしき人の隣で立っている人と目が合った。気まずいね……とりあえずニコって笑っておこう。
「……まあいい。もう貴様には期待なぞしていないからな」
「あら奇遇ね。私もあんたに期待なんかしてないわ。ねぇ、みちる」
「うえあべあっ!?」
急に振らないで、急に私に振らないでお姉さま!? こちとらずっと気まずい中、父親らしき人の隣の人と微笑みあうのに集中して話聞いてなかったんだけど!?
仕方なしにのそのそとお姉さまの影から出る事にする私……うぅ、すんごい居心地が悪い……視線が、父親からの視線が辛い……。
「……随分と醜くなったものだな、みちる」
「あっ、えあ……へへへ、どうも……」
ううっ、すんごいグサグサ視線が刺さってる。お姉さまやめてそんな目で見ないで言い返せないのよ私は!!
というかなんでお姉さまはこの針の筵な中そんな煽りのラリーができるのさ!? 普通無理だからねこんなの、お腹痛い。
「……あれが、僕の婚約者?」
「こんっ……!? えっ、こん、私の……!?」
父親らしき人の隣にいたの、私の婚約者だったの!? 嘘でしょ信じられない、めっちゃイケメンじゃん。めっちゃさわやかなイケメンじゃん……!!
んでその、隣にいた人は……なんかすごい私以上に絶句してる気がする。なんで……?
「その、君が永井みちる……なんだね……?」
「あっ、はっ、はい。そっそうです、けど……あな、あなた……は……?」
ああっ、黒髪ロン毛のさわやかな感じのイケメンが天を仰いでる! 顔覆ってどうしようって感じになってる!!
もうね、確認取ってきた時の目が何もかもを物語ってたよ。人違いでありますようにじゃなかった、幽霊見た時の目だった。
ごめんね、多分だけど幼少期の写真だけで私の事知ってたんだよね。こんな見た目に成長してるなんて思わないよね!!
「楢崎……戸枝だ。……いや、その……思ってた以上に痩せてて驚いてるんだが……大丈夫か?」
「あっ、あそっ、そうですか……その、だいっ大丈夫でしゅ……」
……気まずい。沈黙がすんごい気まずい。だってあれ絶対驚いてるじゃないもん、どうすればダメージ無く縁談断れるかって考えてる感じだもん。だって私なら縁談断るね。ギター持ってる時ならともかく持ってないとただの髪の毛もっさもさで目の隈馬鹿黒い小汚い女だもんね。
父親らしき人が言ってた醜く育ったもあながち間違いじゃないというか、正直私が鏡を見るたびに思ってることというか……。
「……なにこの気まずい空気」
「わっ、わかっ分かりません」
私と……えっと、婚約者さんとの間に流れる気まずい空気に、思わずお姉さまがツッコミ入れてきた……。
いや、なんだろうねこの空気。あんなに父親とバチバチにやり合う的な空気出してたし、ここに入った時はお姉さまと父親らしき人がバッチバチに言い合ってたのに……なんだこの、グダッグダな感じは。練習サボりまくってたライブじゃないんだぞ。
「……足立山に餞別として貸してやっていたが、まさかここまで育児放棄してたとはな」
「いえっ、あのっ、ちがっひゅいっ」
「貸してやってた……? あんた、実の娘をなんだと!!」
「いえっ、あっあのっ!!」
あっ被っちゃった! どうしよう……お姉さま、黙っちゃった。私が先に言えという事ですねはい。
「その……えっと……あっ、足立山さんは……」
私がこの様になったのは自業自得だと言い返そう、と言葉を絞り出そうとするんだけど……怖い……眼光鋭すぎて怖い!! 私ただでさえ、会社の人間って恐怖の対象なのにあの眼光は……あれ視線で人殺せるでしょ絶対。
ううっ、震えが止まらない……でも、立ち向かわなきゃ……私はともかく、足立山さんの名誉の為にも……!!
「あのっ、わたっ、私がまい、毎日吐いてしまってるだけなの……で……その、足立山さんはわるっ悪くないと言いますか……ぜん、全面的に私が悪いと言いますか……」
「あんた毎日吐いてるの!?」
「ひゅいっ」
あー……この驚く感じなんだか懐かしいなあ。そうだよね、みんな普通こういう反応するよね。だって毎日吐いてるってあきらか異常だもんね。
でも最近はちょっと減ってきたのよ。職場とかでお昼寝終わった後吐かないことが多くなってきたし。夜? 夜は吐くよそりゃあね。
「……まあいい。貴様等にこれ以上無駄な時間を使いたくないのでな、本題に入ろう。永井みちる、貴様には楢崎グループの御曹司と婚約してもらう。異論は無いな」
「……まあ、そういうことだ……その、すまないね……?」
すっごいゲッて顔してたね、すっごいゲッて顔してたね御曹司の人!? わかるよ、こんな痩せた人間と結婚!? ってなる気持ちは!! 少なくとも私だったら結婚したいと思わないもん!!
というか私の方が申し訳なくなってくるよこんなの。御曹司の人は、私が普通の人間であれば何の問題もなく、普通の体型の私と付き合える事が出来たって事だから……。
……ん? 待てよ、婚約……? 別に辞めろとかそういう訳じゃない?
ならアリかもしれない。バンド活動は何かと金がかかる訳だからここでパトロンを捕まえておくのは全然。ただ問題は、条件だなあ。
「その……少しおっ、お伺いしたいことが……」
「なんだ」
「そうなったら、ば、バンドの方は続けても……]
「みちる……? あんた、まさかそれが許されたら受けるつもりなの!?」
そう。私が絶対外せない、絶対譲れない条件。バンド活動。
これを容認してくれるのであれば正直、この男と付き合っても良いと思う。自由に使えるお金増えるし。
「……それなら、まあ」
「駄目だ」
「あっ、じゃあお断りします」




