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「ふおおおっ……おおおおおうっ……!?」
「えっ、何その反応?」
車から降りて目の前にデン、と馬鹿大きいビルがあったらそりゃこんな反応になるよ私も!! すっごいでっかい、たっかい……地震があったら上の方すんごい揺れそう。
完全テッペンまで見上げようとしたら倒れなきゃいけないレベル……しかもすんごいオフィス街……。
えっ、ここに乗り込むの? お姉さまここにこれから乗り込むの? マジで? 拒食症っぽい私と車いすのお姉さまよ? 最強のふたりになれないからね?
「こっ、これからここに……?」
「ええ、脅して賠償金を取りに行くわ。……みちる、押してくださる?」
えっ、私が車いすを!?
周りを見る。車運転してた人はいない。誰か助けを呼ぼうにも……そもそも時間的にみんな働いてるから、誰もいない。
私がお姉さまの車いす押さなきゃいけないかあ……。
「何よ、不満?」
「ちっ、力的に不足かと……」
「私そんな重くないわよ?」
いや私の力が無さすぎるんですよお姉さま……確かに重たいよ、ギター本体もだけどアンプとか色々機材持ち歩かなきゃいけないから最終的に結構重くなるよ? でも人間くらいの重さに比べたら全然よ?
とはいえ私が運ばなきゃいけないか、状況的にお姉さまを。だって私以外に運べる人いないし。
……よーし!!
「が、頑張ります……!!」
「……やっぱ自分で動かすわ」
震える手で押そうとしたら不安がすっごい伝わったのか、自分で車いすを回して進み始めた。
まあそうするのが一番よお姉さま……即見切りを付けられたのはちょっと寂しいけど、これで作戦開始前からお姉さまに怪我させたとあったら、ねえ……?
大人しくお姉さまの後をついていく……おっかなびっくり、車いすの影に隠れながら。
うわあ、綺麗……ゴミ一つない。見かける社員っぽい人たちもめっちゃくちゃパリっとキメていて、場違い感と疎外感で……ああっ、絶対あの人私の事見て笑った。なんかこう、そういう目をした!!
「ねえ、私に隠れないでくれる?」
「だっ、だってぇ……」
「車椅子の人間を盾にするのは一般的に見て外道よ?」
そうは言っても無理よお姉さま。すっごい綺麗だもんここ、灰になる……私灰になる……!!
ちょっと待ってお姉さま置いてかないでっ、はやっ早くない!? 本当に車いすかこの人!?
慌てて急ぎ足でしずくお姉さまの後ろに回り込んでついていく私。この人車椅子乗ってるけど、多分私より強いからね……。
真っすぐ、受付っぽいところに……ああっヤバい、怖い。
「永井しずくだけど、社長はいらっしゃる?」
「いらっしゃいませ、しずく様。……アポイントはありますでしょうか」
「アポイント? あの男が私達を呼びつけたのよ、確認してくださる?」
ビシバシ敵意というか、警戒心向けてきてる受付の人にバッシバシ言ってのけるの凄いなあお姉さまは。私? 私は委縮して陰に隠れてるよ。流石に無理、同族だったら初対面でもなんとかなるけど、ここまで世界の違う人は無理!!
ううっ、ただでさえ気分が悪いのに二人の雰囲気見てたらさらに気分悪くなってきた……不機嫌って意味じゃないよ文字通りの意味だよ。
というかこの人の目……あれだ、会社の受付(社長の愛人)が平社員だった私達を見下してたのと同じ目だ。あっこれ駄目だ前世思い出して気分悪くなってきた吐きそう……。
前世の時の会社とは全然違うんだけどさ会社員の雰囲気とか綺麗さとか。でもフロントはこんな感じにある程度整理されてたから。ひとたびお客様以外ゾーン入ったらごちゃっと人間とか書類とかが転がってたんだけど。
なんか、喉の奥辺りが酸っぱい……そんなものがこみあげてきて、これは……。
「あの、失礼ですが……後ろの方は」
「私の妹の永井みちるよ。姉妹二人で父に会いに来たの」
「その、随分と気分が悪そうに見られますが……」
「……えっ? ちょっ、みちる? 大丈夫?」
「えっあっはい、だいじっだいじょっ……うぷ」
「全然大丈夫じゃないでしょ!? トイレまで連れてってあげてくれる!?」
「はいっ! あの……あなた、大丈夫?」
受付のお姉さんがさっきの態度から一変、すごい心配してくれてる……優しい。
ああーごめん受付のお姉さんお手間を取らせて! 大丈夫、大丈夫だから……とはちょっと言えなくなってきた。
なんとかそう言おうとしたけど、なんか口開いたら出そうな感じがした。
ひとたび入ったトラウマスイッチは戻すことが出来ないし、こみ上げてきたものはそうそう戻せない……ヤバい、清潔な臭いと喉奥の酸っぱい臭いが合流して混ざり合ってやがる。
やぱいなんかこみあげてきた、こぽって音した!! これは本格的にあれだぞ、私あれだぞ!?!?
「私はこの子トイレ連れて行くから、社長へアポイントメントの確認をお願い!!」
「はい、先輩!!」
「ちょっと待っててね、すぐに着くから」
受付のお姉さんに背中抑えられて誘導される私……うぅ、ごめんよ、本当ごめんなさい……。
お姉さまもすっごい心配そうな顔してる、申し訳ない……けど流石にここで吐いたらちょっとね、不味いからね。
お姉さんに誘導されて、馬鹿みたいに綺麗なトイレに、こみ上げてきたものをそのまま吐き出す。
喉が大きく動くけど、上から下へというよりかは下から上へ、まるでポンプのように胃の中のものが逆流してる。
「大丈夫?」
「らい、じょうぶです……いつ、いつものこぽっ」
「無理にしゃべらなくて大丈夫よ。ほら、気が済むまで吐いちゃいなさい」
優しい……背中さすってくれてる。でも吐き気が止まらない……トイレ、会社のトイレ、私に優しくしてくれた先輩がイビキかいて寝てたと思ったら死んでたあれが。病院に運ばれたら私も含めたみんな即座に仕事に戻ってたのがフラッシュバックして……。
あっヤバいまたさらに吐き気が。
「胃液しか出なくなってる……なんか赤くない?」
もう吐いて吐いて吐きまくりで、血が混ざり始めてきた……朝方吐いた時に切ったんだろうね、喉を。酸っぱい味の中に鉄臭さが混ざり始めてきてる。
なんかここまで来ると気持ちよくなってきてるかもしれない。ごめん嘘しんどいわ。吐くのって普段やらない行為だからね、めっちゃくちゃ体力使うのよ。
「ちょっとあなた本当に大丈夫!? 血の量すごい増えてきてるけど、病院行った方がよくない!?」
「いっ、いつもの事ですので……」
吐きすぎて出血! 喉から流血!! するたびに病院行ってたら破産するぜHAHAHAHA!!
でも今日はいつにもまして吐いてる気がする、やっぱ会社という環境が良くないんじゃないかなこれ……ある程度マシになってきたと思ったのにこれかあ。
……吐いてる最中だろうと容赦なく襲い来る吐き気以外にも、喉とかお腹とかに痛みが生じてるのは気にしないことにした。
もうね、こんなもん気にしてたら生活できないからね。……お腹痛い喉痛い。




