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ものすっごい……正直、ものすっごい帰りたい……。
馬鹿みたいな高級車に乗ってるってのもそうだけど、しずくお姉さまと一緒に乗ってるってのがもうかなりしんどい。胃がキリキリする。
足立山さん? わかんないけど別行動らしい……なので今日はお姉さまと二人っきりだよ。乗り慣れていない車、めっちゃ高そうなふかふかふわふわな椅子。目の前にお姉さま。……緊張で吐きそう。
「ちょっと、大丈夫? 眠れてないんじゃないのあんた」
「あっ、そっそれはいつも通りです……」
「いつも通りは全然大丈夫じゃないでしょ……」
私の向かい、車椅子に座ってるしずくお姉さまが呆れた顔をする。私は目を逸らす。逸らすことしかできないよ私には。
いつまでもヘドロのようにこびりつく、前世のトラウマをそろそろ解消しないといけない。わかっちゃいるんだけど、分かっちゃいるんだけど……トラウマなんて、そうそう解消できるもんでもないからね……。
毎日起きたら絶対吐く生活がずーっと続いてるからね!! おまけに夢の中では楽しいライブの事より前世のトラウマを思い出すのが殆ど……お陰で寝るのが怖いから眠れてない。そろそろゾディアック・クラスタのみんなとライブする夢くらい見てもいいんだぜ私? 良い記憶は定着しにくすぎるんだよ私!!
「……あんた、今回の件が終わったら、メンタルクリニックとか行った方がいいんじゃないかしら」
「そっ、その時間は……さ作曲とかに充てたいんですが……」
「……ここまで狂うともはや依存症ね」
依存症!? 依存症……確かにそうかも。でも現状こっちの方には困ってないし、この依存治したらすがるもの無くして自殺に一直線な気がするから治療するつもりはないけど。
……割とマジで私がすがれるものって、ギターとバンドだけだからヤバい気がする。いや買い替えれるからいいんだけどねギターは依存する分には。
「……まあいいわ。その様子なら虐待されてたって言っても誰も疑わないでしょうしね」
「……誰も?」
しずくさん……えっ、誰もって誰かに見せるの? 聞いてないんだけどお姉さま!? お姉さま!?
というか虐待って、別にそんなことされてないのに……それならしずくお姉さまが出た方が良いんじゃないかなあ。
私見ての通りこうもこんなに健康体よ?
「……雰囲気が私より向いてるのよ、あんた」
「そっ、そうですか……? けん、健康体……ですけど……」
「あんたみたいなガリガリの健康体はいないし、そんな病んだ見た目してないわよ」
「けっ、健康体ですけど!? ……健康診断サボってるから、わかっわかりませんが」
「いやサボっちゃ駄目でしょそれは!?」
お姉さま、分かってないね……一応これでも高校卒業という資格程度は欲しいのよ私は。でも健康診断で異常が見つかったら援助断たれる可能性があるから……つまり、診断されなければ異常も出ない、完璧!!
って作戦なんだけど……なんだろう、すっごいしずくお姉さまに呆れられてる気がする。馬鹿を見る目だ。とんでもない馬鹿を見る目だ、これは……。
「……まあ、死んだら死んだで都合が良いか」
「死っ!?」
「そりゃ死ぬ可能性あるわよ、殺しにかかってきてたんだから」
そう言われたら確かに……死んでもおかしくないのか、私。だってあれ、あきらか殺しにかかってたもん……あれっ、今考えたら私、すっごいもんに首突っ込んでる?
下手したら死ぬんじゃないかっていうか、ほぼほぼ四割くらい死ぬんじゃないかこれ。駄目だ、思考がマイナスにしか動かない。ギター弾きたい……あれ弾いてたらちょっとポジティブになれるから。
ふふっ、やっべ手が震えてきた。自然とギターを持つ手になってきたよなにこれ怖い。
「……まあ、あんたがしっかりカメラの画角に映ってくれるだけでいいわ。そうするだけで脅しの道具が手に入るもの」
「えっ脅し? えっ、えっ……?」
「あんたは気にしなくていいのよ」
いやそんなの言われたら気にしない訳にはいかないんだけど!? というかもう全く話についていけないんだけど!? えっ、脅すの? なんかめっちゃデカいって企業を? 命知らず……?
絶対消されるやつじゃん! 絶対組織的な何かに消されるやつじゃん!!
「……大丈夫よ。きちんとバックアップは取るし、私が死んでも最悪でも道連れにすることができる。……相手は大企業だからこそ、そんなリターンの無いリスクを取ることはできない……筈よ」
「は、筈ですか……」
「……父はそういった手を取らないとは分かっているんだけど、その側近がどう動くかはわからないのよね」
あー……トップが穏健派でも、部下はそうではない。そこまで頭が回らず、もしくは感情を制御できずに殺しにかかるという側近がいてもおかしくはない。
人間はね、愚かだからね……勉強できるだけの、学歴がいいだけの馬鹿とかもいるからね。
やっばいめっちゃ帰りたくなってきた。冷や汗だらっだらで胃の痛みが強くなってきた……。
「……ごめんなさい、みちる」
「……へっ? なっ、何がですか?」
緊張と不安で吐きそうな胃を押さえていると、唐突にお姉さまに謝られた。
いや本当何が!? 私、しずくお姉さまに謝られるようなことは……事は……そもそもこの人の事全然知らないから何も思い浮かばねぇ!!
「私が……父が決めた相手と、大人しく結婚していればこんなことにはならなかったわ。本当に、ごめんなさい」
「それは違います」
どもらず、はっきりと……お姉さまの口から出た言葉を、私は否定した。
……正直、私には恋愛なんてさっぱりわからないし、理解しようとも思わない。どう考えてもギターを弾くのに邪魔になるから。
「どっ、どんな理由があろうと、趣味のものを勝手に捨てられたとかでない限り殺しちゃ駄目、ですから……」
「いやそれも殺しちゃ駄目だと思うけど……」
「ころっ、殺されても仕方ないってなるのはそのレベルかと……」
「というか、そこは『本当に好きな人がいるなら縁談なんて断って当然の事~』くらい言いなさいよ」
呆れたような、仕方ないなって……まるで、ヤンチャする犬にするような笑顔をするしずくお姉さま。
仕方ないじゃん私には恋愛経験なんて無いんだから! 音楽と仕事で忙殺されてて告白されても断ってたし、誰か好きになる以前に信用できる相手がいなかったし……。
「まっ、あんたも時期に理解するわ。恋するってのがどういう気持ちか」
「あれってただのせっ、精神疾患じゃ……」
「……あんた、過去になにがあったのよ」
過去にというか、現在進行形(バイト先で)というか……恋で狂ったり、搾取されたりなんてのをよく目にしてきたもんだから、恋が素敵でキラキラしたものなんて幻想消えるよお姉さま。うちでバイトしよお姉さま。
あの……統合的に考えたらそうなるのが自然じゃない……? そんな……そんな引かれる云われはないよ!?




